外伝2「密着レポーター天霧、がんばりますっ!」①
皆様、こんにちわ。
……私、駆逐艦天霧と申します。
星間連合軍、第431独立駆逐隊通称「白兎隊」の指揮艦を勤めております。
艦隊編成は、私天霧と狭霧の第一小隊、朝霧と夕霧の第二小隊による4隻編成の小規模駆逐艦隊。
その主な任務は、平時に於いては未知のエーテルロードの探索や航路パトロール、民間船の随伴護衛など。
戦時に於いては、主力艦隊と合流した上での大型艦の護衛、対空戦闘、対潜戦闘などが本領なのだけど。
実際は、単独行動のほうが多くて……後方攪乱、威力偵察、浸透突破、遅滞戦闘なども引き受けます。
戦場の何でも屋さんってところですね。
駆逐艦の任務は、恐ろしく雑多、かつ多岐にわたりますからねー。
ワークホースとは、よく言ったものです。
我々は、端的に言ってしまえば、いくつもある小規模駆逐艦隊のひとつではあるんですが……。
一桁ナンバーの正規大規模艦隊は基本的に、普段から一箇所に集まっているわけではなく、分艦隊単位で、エーテルロードの各中継港に分散配備されていて、事が起こってから、招集編成されるのが常。
拠点防衛艦隊は基本、その活動範囲は周辺流域程度までで、遠征はしないと言った調子なので、必然的にエーテルロードの……特に外縁域には、艦隊の防衛網が及ばない流域が多数出来てしまっています。
そんな守りの薄いところをカバーするのが、私達のような小規模で、かつ足の早い独立艦隊で……有名所では、島風さんのところの第610独立機動艦隊なんかもそうです。
あっちは、空母やら戦艦までいるような重武装艦隊で、第六艦隊の分艦隊でもあるんですけど。
あの艦隊は、ちょっと例外で……カテゴリー的には、事があったら真っ先に駆けつける即応艦隊と言う位置づけです。
辺境警備に回されるトリプルナンバー系の艦隊は、大半が駆逐艦ばかりだったり、良くて護衛空母、軽空母、軽巡辺りが一隻旗艦として配備されてるとか、そんな調子ですね。
もっとも、エーテルロードと言うところは、言ってみれば、大きな川みたいなもので、一定方向に流れがあるし、辺境部になると細い流れのところも多くなってくるので、大型艦の通行に危険が伴う難所も多く、必然的に小型高速の駆逐艦などが重宝されています。
……小さくて早いは、良いことなんですよ?
最近は、50m程度の小型無人戦闘艇や100m級の無人護衛艦なども出てきていますけど、いざ戦闘となるとやはり頼りないと言うのが実情らしいです。
実際、それらの実戦テスト演習の相手をすることもあるんですけど、10倍くらいの数的優位がないと、とても私達には対抗出来ないような感じですね。
なんでそんなにチョロいのかって? まぁ、撃てば当たる、撃たれても当たらないんじゃ、そんなもんじゃないですかね。
さて、我らが第431独立駆逐隊ですが。
この艦隊……意外と有名だったりするんですね。
なんと言っても我らが艦隊司令……提督、天風遥中佐。
彼女は、十代の再現体提督と言う異例の提督さんなのです。
なんでも、21世紀初頭の頃、海戦シミュレーションゲームで、ワールドチャンピオンになった事があるとか何とか。
この時代に断片的に残されていた21世紀の記録には、世界中の強豪を打ち破って、最強提督の称号を……とか記録されていたので、当時の世界最強の海戦指揮官だと勘違いされて、再現体として再現されてしまったらしいのです。
実際は……重度のゲームオタクの女子高生……おまけにコミュ障気味。
当然ながら、いろいろ一悶着あったんですけどね。
戦術シミュレーションテストなんかでは、むしろ水準以上の結果を出してたんで……ひとまず、駆逐艦によるパトロール艦隊による辺境警備でも任せてみようと言う話になり、私達の艦隊司令官として、就任。
でも、就任するなり、辺境部での大規模な黒船侵攻戦、ケプラー20星系の防衛戦が発生。
この戦いで、遥提督と私達は、610艦隊の後詰めとして、黒船との初の実戦に参戦する事になりました。
実は、あの時、610がネストグランデへ特攻を仕掛ける際、610に強行突破された黒船の残存艦艇群が再集結、追撃の構えを見せていたんですね。
私達は、610の突入には間に合わず、後詰めとして後続していたのですが。
結果として、真っ先にこれら残存艦艇群と接触……数的には、こちらの5倍の20隻くらいいたんですが、遥提督は初陣で、その艦隊を見事に撹乱し、足止めに成功。
戦術自体は、迂回先行させた艦で機雷原を形成、囮や欺瞞を駆使して、敵艦隊を機雷原へと誘導。
機雷と絶妙な火力集中で、中枢艦を沈めることで敵艦隊を壊乱させ、後続の第六艦隊先遣隊と共同して、これを完全に殲滅。
四倍もの兵力差を物ともせず、相手を手玉に取りあっという間に壊乱させ、610の後背を守りきり、ケプラー20星系防衛戦の立役者の一人となったのです。
あの戦いでは、孤軍奮闘しケプラー20星系を守り抜いた永友提督や一個艦隊でネストグランデを沈めたグエン提督がその勇名を馳せたのだけど。
その戦いを影で支えた幾人もの提督がいたんですよね……。
遥提督もその一人。
続いて、この時期多発していた黒船との数々の戦いでも、遥提督は着々と戦果を上げて行って、高い評価を得るに至ったんですね。
いやぁ……色々やりましたよ。
無防備の星系をわずか4隻の駆逐艦と、中継港の防衛兵器だけで48時間に渡って守り抜けとか……。
黒船に襲撃され航行不能となった民間船から救出した、大勢の生存者を各艦に乗せたまま、一発の被弾すら許されない状態での撤退戦。
大規模戦闘で、敵の後背に回り込んでの撹乱に、浸透突破での中枢艦の殲滅だの。
行方不明艦の捜索なんてのやりましたね……。
そう言えば……駆逐艦くらいしか入れそうにない未知の黒船の巣への突入なんてのもありました。
あれもなかなか、大変でした。
遥提督が言うには、やってる事は限り無く特殊戦のようなもの……らしいんですが。
非力な駆逐艦のみと言う戦力にもかかわらず、ここぞと言う重要な局面で、重要な役目を果たす事が多くて、当初の下馬評を覆す形での多大なる戦果を上げてしまったんですね。
まったく、私も吹雪型の一駆逐艦に過ぎないと思ってましたけど。
有能な指揮官に恵まれて、相応に名も知れて来て、悪い気分じゃありません。
で、今回はチャンネル667って星間テレビ局の依頼で、うちの提督の密着取材番組を作ってくれるなんて話に……。
私も……まさかのTV出演なんですよねー。
TVはもちろん見ますよ? 遥提督とアニメ見たり、ドラマ見たり、667は面白いチャンネルです。
500年も前のアニメとかも、発掘して放送してたりするんで、遥提督は懐かしーなんて言ってみてます。
でも、さすがに、自分がTVに出演するとか、そんなの気が進まなかったんですけどね……。
任務の一環ということなら、致し方ありません。
普段、私達は銀河辺境部を哨戒しながら、あちこち渡り歩くのが常で、中継港に長々と停泊するような事なんて、艦体修理やメンテナンス、新装備の受領と調整くらいなんですけどね。
今回は、取材という事もあって、このアルパーニア中継港にて、補給物資の到着待ちついでに、三日間ほど停泊する予定です。
一応、公式には遥提督も私達も休暇扱いなので、時間が余ったら、提督と一緒にお買い物くらい行きたいところですね。
「こんちわーっ! アタシは、チャンネル667のプロデューサー、カマタ・ユレよ! こっちはスタイリスト兼アシスタントのアイリッシュ・ラトリフよ! ほら、さっさとご挨拶をなさいっ!」
「よ、よろしくおねがいいたしまーすっ!」
ムキムキマッチョで、タンクトップに短パンと言うスポーティーなスタイル。
短く切りそろえた髪で、大きな耳ピアスを付けた……まるで、ゴツい男の人みたいな感じのユレさんと、眼鏡で大人しそうなアイリッシュさん。
取材の条件として、女性スタッフを寄越すことと、万が一戦場に出る事になったら、命の保証はしないと言ってあるのですが……。
ユレさんって……この人、なに?
身体も見上げるみたいに大きいし、凄い筋肉……身長130cm台のちっちゃな私から見たら、巨人です! 巨人!
アイリッシュさんは……あからさまにオドオドしてて、お通夜モードなのと対象的に、ユレさんはニッカリと爽やかな感じの満面の笑みを浮かべてます……。
「あ……あのっ! ユレさんって、男性の方なんですか? そんな話、聞いてませんよぉ……」
なんか騙された気がするので、これだけははっきりさせておくべく、確認いたします。
「あら、失礼しちゃう。アタシは、これでも女なんですのよ。少なくとも心はっ! ID照会してもらっていいかしら?」
首から下げたIDカードの情報照会。
情報チップに非接触アクセス……個人情報参照。
……思い切り、男性って書いてありますが……。
特記事項に、トランスジェンダー?
身体的には、男性だけど、精神的には女性と公式認定との記載。
……良く解らないけど、法的には、女性扱いなんですかね。
つまり、公認オカマさん? 法的に保証されてるとなると……これは、どう扱えば良いのかしら?
「ユレさんは、見た目ごっついけど、中身はプリティな女の方なんですよ! 外観での差別は人権侵害となるんですから! あまり失礼な事を言うようだと訴えますよっ!」
アイリッシュさんがプンスカと怒りながら、抗議してくる。
うーん、私には良く解らない問題なんだけど、人権侵害ってのは穏やかじゃない。
テレビ局もなんで、こんなややこしい人を寄越したんだろ……?
うちの提督、男の人と面と向かうと、何も話せなくなる男性アレルギーだし、女性の方が何かと気遣いとかしてくれそうだからって、そんな注文出して、向こうも快諾してくれたんですけどね。
「そ、そうなんですか? でも、なんでそんなムキムキなんですか……全然可愛くないですっ!」
「そう? この鍛え抜かれた大胸筋、そして、上腕二頭筋っ! やっぱ、筋肉美って素敵よね。筋肉大好きなの……アタシ! 思わず、身体鍛えまくってるうちにこんなになっちゃったのっ! でも、可愛いのは大好きなのよっ! 見てコレっ!」
背とか2m近くあって、でっかいけど。
よく見ると、眼とか凄く澄んでて優しい……キラキラな少女のような瞳とでも形容すべきでしょうか。
背中に背負ってたクマさんのリュックを誇らしげに見せてくれてるんだけど……凄く似合ってない。
この銀河も広いし、物凄くたくさんの人がいるから、こんな人もいるんですね……。
まぁ、おっきいって言っても、腕力勝負とかになったら、私の方が強いはずだし、差別はよくありませんよね。
「解りました。当人が女性と言うからには、女性として扱わせていただきます」
「うんうん、ごめんなさいね。思ってたのと違うでしょうけど、別にあなた達を嫌らしい目で見たりなんかしないから安心してね」
「とりあえず、どっちにせよ提督の準備がまだ出来てないんで、どうしましょう? ひとまず、各艦の紹介でもしましょうか?」
「あら? 提督さんの準備って……? アタシらは別に構わないわよ。むしろ、生の姿の密着取材をしたいの。天風提督さんって、公開情報もほとんど出回ってないけど、若い子なんでしょ? でも、若いのにお化粧なんて感心しないわ。いっそすっぴんでいいじゃない」
うーん、アレの生の姿……ねぇ。
戦闘中は割とマトモなんだけど、非戦闘モードだと、あの娘、酷いポンコツなんですよね……。
汚い臭い、だらしがない……酷い三拍子。
……結論、生の姿なんて放送禁止レベルなんで却下。
「いえ、普段の提督はひどすぎて、アレを映像に流すなんて、論外なんです。現在朝霧と夕霧が二人がかりで、まずお風呂に入れて、徹底的に綺麗にする所からやってるんで、ちょっとお時間いただくことになると、ご理解ください」
……はっきり言って、うちの提督は女子あるまじきだらしなさ。
天霧の提督私室はちょっと油断していると、汚部屋になるし、髪の毛なんかも滅多に洗わないから、フケだらけでボッサボサだし、普段着もきったならしい膝の擦り切れたジャージ……。
もっとも、戦場で打ち立てた数々の武勲で、特殊戦の名手という評判が立っており、回ってくる任務も秘匿性の高い任務ばかり、装備類も独自性や機密性の高いものが多いので、本来マスコミへの露出とかは避けたかったところなのですが。
いつぞやかの演習祭りに、桜蘭帝国の伊400が乱入する騒ぎがあった時、実は私達もたまたまプロクスターに立ち寄っていて、最終防衛ラインと言って良い中継港周辺流域の安全確保の任に着いていたのですね。
私達としては、以前外縁部で交戦した、やたら高性能な正体不明の潜行艦の同類だと見当付いていたので、戦っても勝てる相手だと言う確信はあったんですけどね。
信濃も武蔵も、自分達が囮と殿役を務めると言って聞かなかった上に、遥提督も民間船団の安全確保が最優先事項だと判断したんてすね。
もっとも半ば恐慌状態に陥った人々を満載した民間船の避難誘導は容易いことでは無く、うちの提督が柄にも無くカッコいい演説を一席打って、民間人を大人しくさせて……。
10万人もの人々のプロクスターへの緊急避難を見事に成功させたんですね!
その代わり、現場にいたチャンネル667のスタッフに名前と顔を覚えられて、すっかり目をつけられてしまったのです。
なにせ異例とも言える十代女子の再現体提督で、数々の大作戦の裏方に回っていたり、困難な任務の数々を成功に導き、その実績は奇跡の連続……と言うことで、是非取材させて欲しいと言う話が来てしまって……。
最初は断ってたんですけど、我が艦隊の公式スポンサーでもあるアドモス商会からも、協力してやって欲しいと言われては、さすがに断りきれませんでした……。
えーと、完結設定解除の上で、外伝はじめました。(笑)
時系列的には、第一部終了時点より半年後くらい。
第二部のカイオス襲撃の半年前ってとこです。
主人公は、駆逐艦天霧と女子高生提督の天風遥って娘です。
彼女達は、第二部第三章に登場予定でしたが、その紹介編って事で、こっちで外伝形式で、前日譚をお送りします。
彼女は、特殊戦隊の指揮官として、主人公の永友提督や初霜の影で裏方として、その幾多の戦いを影で支えた裏主人公みたいなもんです。(本編整合性を整えたので少し内容変えた!)
ただし、本外伝は前回外伝と違って終始コメディタッチです。(笑)
更新ペースは、デイリーじゃなくて、2-3日おきとゆっくり目です。←やっぱりウソでした。