夢と現実と恋する乙女!?
胸が苦しい。
「大きさなんて関係ない。僕ならありのままの山内を受け入れられる」
そう言って変態メガネは甘い微笑みを浮かべながらメガネを外した。そして彼は私の頬にそっと手を添えると、ゆっくりと瞳を閉じて顔を近づける。
これは、間違いなく接吻フラグ。
雰囲気に流されてうっかり閉じかけた瞳を、気合で見開き、己に問いかけた。今の私のお口の匂いはフローラルか……ではなく、「乙女の唇はそんなに容易く奪われて良いものか」と。「いや、ない!」脳内の私が全力で否定する。
そもそも瞳を閉じたまま顔を近づけたら、口の位置がわからなくなるのではないか。つまりそれがもたらす結末は甘い雰囲気を醸し出した頭突きだ。もし完璧に唇をとらえられたとしたら、彼は哺乳類仲間であるイルカのように、超音波で距離を掴む能力の保持者なのかもしれない。
相手はこいつなのに、胸が苦しいのはなんでだろう。
だが……。
だがしかし…………。
「本名忘れるくらい興味無いオトコとキスなんて無理っ!」
全身の力を額の一点に込めて、迫りくる変態メガネに頭突きをかました。
+ + +
全身がビクリと跳ね、心臓が早鐘をうつ。
そんな不安定な身体を預けているのは、柔らかい布団だった。それが導き出すものはただ一つ。「なんだ、夢か」と何一つ引っかかるもののない胸を撫で下ろした。
夢というのは不思議なもので、全力で繰り出した頭突きによるダメージを、現実で感じたような錯覚を覚える。
そう、ヒリヒリとした確かな痛み。
額をさすりながらふと隣を見ると、一緒に眠りについたはずのマロがいない。周りを見渡すと、布団からかなり離れた場所で呆然としていた。
「梨緒……貴様、何事か」
額を赤くしたマロが、珍しく憤怒の表情を浮かべている。貴様とか言われたのは生まれて初めてだけど、なんだか全然嬉しくない。
夢を見た原因はマロ、昨夜不用意な発言をしたお前だ! とか言ってやりたいけど、内容を伝えるには思春期真っ只中の女子として恥ずかしすぎるから、素直に謝る事にした。
「なんか、ゴメン。夢で攻撃しちゃった」
なるべく可愛らしく言ってみたが、マロの表情は変わらない。
「今日のオヤツ、全部あげるからゴメン!」
そう手を合わせて顔を窺うと、マロの口角が目に見えて上がる。案外扱いやすい神様だ。
少しばかり夢見は悪かったが、実は今朝の私は期待に胸を膨らませていた。何故なら、今月のお小遣いの七割を費やして注文したアイテムを装着しているのだ。
「んふふふふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
「梨緒、そち、また何か企んでおるのではなかろうな」
「企むって何よ。今日のは凄いんだから! 寝ながら胸が育つ素敵な装備なんだから」
そう言って思わずパジャマ代わりのシャツをめくり上げる。そこにあるのはいつものスポーツブラ……ではなく、形は少々似ているが非なるもの『育乳ブラ』がセットされていた。
一見するとただの変態のようなはしたない己の姿はさておき、思わず鼻の穴を広げて、微塵も可愛くないドヤ顔をしてしまう。けれど、とうとう労せずして勝利への階段を登れるんだもの、これくらい許されるはずだ。
「マロ! 見てみて、集めたらこんなに谷間ができるんだよ! 初日でこれだもの、あっという間にAカップなんだから!」
そう伝えると、私は朝食のために部屋から出た。
振り向かなくてもマロがどんな表情をしているかは、想像できてしまうんだけど、今日こそきっと大丈夫!
+ + +
部屋に置き去りにされた「マロ」と呼ばれる我には、伝えられなかった。
見たくはないが、不可抗力で見せつけられた大人用育乳下着に使われていた「レース」と呼ばれる素材。あれは取り扱いが難しい、と。機能的に肉を流さないように張りつめているからなのか、ものによっては伸びやすい。
昨夜梨緒がうなされていたのは、強制的に締め付けられた結果に相違ないだろう。そして、断言できるが、ズボラな梨緒は近日中に「レース」を指で突き破り、膝から崩れ落ちるに違いない……。
「我も、まだまだ、ということか……」
ちちがみ、マロの苦悩など、今の梨緒に知る由もなかった。そして、マロが危惧していた通りに、膝から崩れ落ちることになろうとは……。
※作者が着用していたものは、一か月くらいは元気でした。外さなければ、谷間(仮)のようなものも見えていた気がします(残像)




