夢と希望が詰まっている
私は梨緒。
今年十七歳になる生物学的分類でいうところの、動物界・脊椎動物門・哺乳網・霊長目・ヒト科の女の子。
今朝は遅刻寸前! ちょっと大きめなEカップの胸を上下に揺らしながら学校に向かって走っているの。
ああん、擬音をつけるなら「ばるんばるん」と回転するように揺れるものだから、乳の付け根が痛いなんてもんじゃない。
学校に着くと、汗がだくだくと滝のよう。
仕方ないからちょっとだけセクシーなブラが透けたシャツを、第二ボタンまで開けたんだけど……男子の視線がチラチラと谷間に集中。そんな時は、頬を「ぷうっ」と膨らませて「怒ってるんだぞ!」と腕を組む。
もちろんその腕には強調するみたいに私のEカップが乗っちゃうけど、これもまた仕方ないよね。
「こらっ! 男子! どこみてるの」
……って胸に決まってるよね。
うふふ、巨乳様はつらいのう!
尊いのう!
道をあけよ、貧乳めー!
「……以上ここまで『梨緒CV乳神』でお送りさせていただきました」
「ちょっ! ち、乳神! それ見たの?」
乳神は一冊のノートを手に持って、憐憫の情を表情筋でもって全力に向けてくる。そこまでされると一種の顔芸に見えてくるから不思議なものである。
学校に行く前に、確かに隠したはずのノート。そこには私の幼馴染兼親友(Fカップ)を若干控えめに摸した「私の妄想」が書き連ねてあったのに。
「梨緒よ……一応助言をしておくと、これは死ぬ前にちゃんと処分するのじゃぞ」
そうだね。こんなものが、うっかりポックリ逝っちゃった後に家族の目に触れたら……間違いなくお母さんは爆笑するだろうけどお父さんは真面目だから「製造責任者の一人として、一部不良品を世に出してしまってすまない」とか手を合わせてくれちゃいそうだから燃やさないとね。
「じゃなくて、なんで勝手に見つけて読んでるの! 一応それ乙女の国家機密レベルだよ」
「ほほ……これが国家機密とか、梨緒の国は平和じゃのう」
この神、何を言ってもサラサラ受け流すから、おかげで怒りが不完全燃焼だ。
「さてと、今日のおやつを食べなくちゃ!」
さっき買い物を済ませ、地球に優しいマイバックから取り出したのは「千切りキャベツ」だ。これはお店によってはワンコインで購入できるうえに、洗ってあるからそのまま食べることができて結構便利だと思う。
馬のようにもしゃりもしゃりと千切りキャベツを食べる私を、何か言いたげな目で乳神が見つめている。
ちなみにドレッシングをかけないのは、素材の味を楽しむ上級テクニック……ではなく、一応年頃なので体重増加も気にしないといけないわけです。
「梨緒よ」
「もしゃり? (何?)」
「キャベツを食べると胸が大きくなる、と夢をみておるようだが……」
「もしゃ……(続きを言え)」
「キャベツに含まれる成分は、女性ホルモンの分泌を促す成分であって直接巨乳への道が開かれるわけではないぞ? まあキャベツにはキャベジンUという胃腸の粘膜の修復を促進させる成分もあるから、乳はともかく胃は丈夫になるやもしれぬがの……」
胃が丈夫になれば、もしかしたら女性ホルモンもピチピチと頑張ってくれるかもしれないじゃないか!
乳神の生暖かい視線を受け流しながら、とりあえず味のないキャベツをもっしゃもっしゃと咀嚼し続けているうちに、目から出た汁が優しい塩味をつけてくれる。
「そもそも『水溶性ビタミン』という言葉があってな、キャベジンUも水溶性ビタミンで……つまり水に溶けだして……」
乳神の言葉の続きは、嫌な予感がするから両手で耳を塞いでシャットアウトした。
こうすると自分の咀嚼音がまるでオーケストラのように感じられて、脳に直接響く音が心地よい。
千切りキャベツ、そのままお皿に出すだけで食べられるんだから、とっても便利だよね。
視界の端で乳神がため息をつくような仕草をしている。
――明日は、負けない!




