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ちちばなし  作者: 谷口 由紀
本物と偽物と
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スライディング得たりや応

「莉緒よ、新たなるいちぺえじを開くのは随分と久方ぶりじゃの?」


座布団の上で偉そうにふんぞり返っている平安ドルフィーは、先日からうっかり同棲をしている付喪神のマロ。優雅に扇をパタパタさせながら私を見つめている。


「久しぶりどころじゃないよ! 作者(たにぐち)がここの存在を忘れていたに違いないわ!!」


とりあえず私の世界のどこかに飛散しているであろう作者とやらに向けて不平不満を言ってみる。

放置プレイにもほどがある。

私が心優しいヒロインじゃなかったら、この世界を叩き壊すような暴動が起きていたに違いない。


命が救われたな、作者(たにぐち)め……。

私はふんっ、と鼻を鳴らした。


「まぁ、そう怒るな、シワが増えるぞ。ヤツ(たにぐち)もきっと多忙だったのであろう。これはアレだ、この世界でいうところの『すらいでぃんぐ・えたり』とでもいうのか……」


「その表現だと終わりに飛び込んでいってるよね……。でも大丈夫、この世界のどこかには少数派の貧乳好きや、物理的に胸を張れない貧乳仲間もいるんだから! こんなことでエタらせてたまるもんですか! 私が巨乳になるまで物語は終わらせないわよ!」


「そんな日が来たとしたらそれこそファンタジーじゃの……」


マロは呆れた顔で私を見ている。

……私は異様な気配を感じ、部屋の中を慎重に見渡した。

未だに第二次成長期を信じている私を、可哀想なものを見る目で覗いているマロ以外の神々(読者様)の視線を感じたけれど、そこはあえて無視しようと思う。



信じるものは、救われるんだから!


+ + +


学校に行くと、見慣れた教室が新鮮に感じた。

まるで数年間来れていなかったような感覚。


窓際の最後列には、相変わらずの変態メガネが運動場を眺めているのが気持ち悪い。


見た目だけなら少女漫画の主役になれそうな顔なのに、涼やかな表情で見つめているのは陸上部女子に違いない。


そんな変態メガネは私に気づくと軽く腕を上げ、無駄にさわやかな笑顔を見せた。


私も一応腕を上げ「おっは」と短い挨拶を交わす。


「山内さん久しぶりだね。しかし、衣替えというのは素敵な文化だよね。夏服は腕を上げただけで、隠れていた美しい脇まで堪能させてもらえるのだから」


私は秒で腕を下げた。

気持ち悪い。

こいつの発言はいちいち気持ち悪いのだ。

ところで私の脇はクリーンだっただろうか。

乙女的にも清らかな場所は清らかなままにしておきたいものだ。


そんな私の思考を読んだのか、メガネをくいっと直しながら自信満々に言う。


「安心したまえ、君の脇から感じられたのは夏ならではの清涼感だ」

頼まれてもいないのに人の脇で季節を感じないで欲しい。

私がドン引きしていると、笑いながら愛梨が入ってきた。

「あはははっ、朝なのに相変わらず発言が気持ち悪いね、変態メガネ!」


第三者が聞いたら心配になってしまうセリフだけど、言われているメガネ本人が幸せそうなので、彼に限りセーフとする。

私の前の席に座ると、愛梨は鞄から半透明のテープを取り出した。

「梨緒にお土産持ってきた」

「なにこれ?」

「コスプレに使った余り! リフトアップテープっつって、顔の皮膚とか引っ張って固定すんだけど、これで谷間作ってる仲間がいてさ」

「……え、詳しく!」


愛梨が教えてくれたのは、単純な方法だった。

両乳の両脇にテープを貼る。

斜め上にクロスする形で持ち上げる。

何枚かを重ねて補強したのち固定する、

……それだけ。


「そんだけ?」

「うん、仲間はガムテープでやってたけど、こっちのが肌に優しいらしいよ」


「ちょっとトイレ行ってくる!!」


私は早速錬金術をするためにトイレに篭った。

その頃教室では、討論が行われているとは思いもせず……。



「愛梨さん、一つ言ってもいいかな。先ほどの説明には重要なことが不足しているよね」

「なにが?」

「あの方法は、持ち上げるための多少の肉が必要だと言う事に!」


その言い方は、まるで「意義あり!」と叫ぶ有名なゲームのようだった。


「脇の下と背中、あと腹の中をかき集めたら多少あるんじゃないの?」

「山内さんは細身だからね、残念ながらトイレで悔し泣きをしている姿が容易に想像できるよ」


その言葉に、愛梨は額をぺちんと叩いた。


「あちゃあ……」




その日、私は知った。

擬似でも谷間を作れる人は、貧乳とは呼ばない。

脇の肉も、お腹の肉も、胸になり得る可能性を秘めた素敵なお肉だと言う事。


重力をつかってお肉をかき集めようと、トイレで逆立ちしかけていた姿を見られ、愛梨に大爆笑されたのは秘密にしようと心に誓ったのだった。

作者はガムテープで試しました。

コツとしてはみっちみちに貼って、斜め上に思い切り持ち上げること。

そうすることで胸の中央に僅かな縦線が生まれます。

そのまま外出するのは危険です。

稀にテープが剥がれます。


※長時間やると本気でかぶれます

一瞬だけお楽しみください

作者は痒みでキンカン塗って悶絶しました……

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