あの蝉のように僕は鳴けない
外で響く蝉の声は激しさを増す。その激しさにつられて、冷房のきいた部屋にいるにも関わらず僕の肌に汗がじんわりと湧き出る気すらしてくる。
片手で携帯電話を操作しながらカップラーメンをすす。
毎年くる夏。
昨年も同じように冷房の中でインスタントの食事をとっていた。
明日も、来週も、来年も、きっと同じように過ごすに違いない。
テレビからはどこかいつも似たようなニュースが流れている。
これから行く接客のアルバイトでは、同じようなことで怒られ、同じようなことで喜びを感じる。
人生をマラソンに喩えたりするようだけれど、僕にとってはトラック競技だ。
走っても走っても景色は変わらない。
僕もマラソンのような人生が良いけれど、過去を振り返ってみてもマラソン人生ルートへの分岐点に心当たりはない。
変わらない景色の中で、僕はこれからの人生をどう過ごしていけば良いのだろう。景色を変えたいけど、変える方法がわからない。誰に聞けばよいかもわからない。今まで生きてきて、どこかで何かを間違えていたとしても、誰に文句を言えるだろう。
そんなことを考えると、いつだって無性に走り出したいような大きな声を出したいような気持ちになる。そんな衝動が僕の身体の真ん中あたりをじんじんさせる。
懸命に鳴く蝉に、脳内にかすかに残る熱い自分の残像を重ねながら、今年も僕はカップラーメンの汁を飲み干すのだった。