6話目「戦場へ」
大聖国家アラギその中心にある城の上部、王宮。そこの一室には長い机が置かれており、そこには十五人の位の高そうな者たちが座っていた。
「皆、集まったかの…では剣闘国家パイオンの砦征伐軍議を始めようか!」
「…しかし王よ、前回発案した案を本当にするのか?」
王が軍議を始めた直後に、白い軍服を来た老年の男が口を開く。
「ああ」
「しかし、あの方面に近衛部隊“十戒”を三人も投入するなんて…そこの守護をしている十戒を合わせれば、十人中五人を集結させることになり、逆にやつらに要らぬ危機感を抱かせてしまいますぞ!?」
「…やつらを擁護しているのか?アルバート軍務長」
「なんだと!?」
危惧することを一生懸命話す軍務長に、向かい側にいる黒い軍服を着た男が挑発的な発言をする。
「我々は、鋼兵国家メランから独立し、聖典国家レウコンの援助のもとで国をつくった。鋼兵国家メランは人類領域でも最大最強の勢力を誇る。もしかしたらまたあの時のように召喚魔法を求めるかもしれん…そんな国からしたら、今他国と戦争中の我が国は、隙が出来た小国状態だ!いつ攻められてもおかしくはなかろう?」
「くっ…しかし今この時に、メランとの緊張状態を高めるとパイオンとの共同戦線を張られるやも知れぬぞ!?」
「それはないでしょう。メランはまだ国内が安定していない…こんな国境線での小競り合いを期に介入するとは考えにくい、それに軍事協定などは軍事機密の多いいメランがするはずもない」
「なら、十戒を置く必要もないんじゃね?」
「いや、牽制の意味合いでしょ…」
アルバート軍務長の意見に各々の意見を当てる十戒たち。堪りかねたアルバート軍務長が席から立つ。
「それよりも十戒をパイオンの砦に集結させて一気に討ち滅ぼせばいいではないか!それに勇者も召喚したのだから、勇者も集結させればいいではないか!」
「愚策だな…」
「なんだと?アレス・ツヴァイ・ユダ…いくら次期国王だからとて、その発言は許容できんな!」
アルバート軍務長の意見に、黒い軍服の男が失笑しながら呟く。それを聞いたアルバート軍務長は青筋を浮かべて憤怒の表情をアレスに向けた。
「簡単な話しだ。我々は侵略できる程の戦力を持ち合わせていない…もししたら国防力は0だ。だが、防衛戦なら充分な戦力は持っている。悪戯に攻め込む必要がないそれだけだ」
「ふんっ!そんなことは分かっている。だが、戦力的に見てどう考えてもパイオンの砦は攻め落とせる。そんなことは理由にならんわ」
「…勇者たちは初陣です。そんな過激なことを今は望みません」
「大体、その勇者たちは何のために召喚したんだ?充分な防衛力はある。侵略はしない。国の数少ない優秀な魔術師たちの命を賭けてまで召喚する必要がわからん!…もし魔族対策としても内陸部にあるこの国にまでは戦火は飛ばないだろう?
それに、何故メランが攻めてこないと確信しているのに、十戒を多数配置する?訳がわからんわ!」
「落ち着けアルバート軍務長、その理由はいずれ分かる」
「へ、陛下…」
収まらない討論に国王が一言挟む。
このあと、パイオン砦征伐戦の軍議は何事もなく進み、終わった。
「(何を隠している…陛下…)」
アルバート軍務長には、それを推測することはできなかった。
*
そして2カ月後ー
ここは、剣闘国家パイオンと大聖国家アラギの国境線にある広大な平原…ここから2㎞先にパイオンが建設した砦がある。
アラギの軍事目的は、「征伐」である。
度々国境線を侵すパイオンに対して、その拠点となっている砦の破壊に動き出したのである。
「中隊長!敵戦力は平原に二千!砦内に五百ほどと思われます」
「そうか、こちらの戦力は五千…砦を落とすには心許ないな…」
中隊の偵察兵がテントの中にいる中隊長のもとに片膝をつき報告する。
兵学でも、相手の戦力の三倍あれば攻撃側は有利であるといわれており、攻城戦なら十倍は必要とされている。
「それよりも…“円卓の騎士”は居たか?」
「それについては…今だ不明です」
「ふむ…それは難儀だな」
“円卓の騎士”それは剣闘国家パイオンが誇る十二人の最高戦力である。
大聖国家アラギでも、近衛部隊“十戒”という最強の矛と親衛隊カルテ四団という四方角を守護する盾の部隊はある。
だが圧倒的に違うのは、十戒はあくまで国の中でも秀でた者・一騎当千といわれる逸材がいる部隊のことであるが、剣闘国家パイオンは剣など武術で日々しのぎを削り競争し研鑽している騎士の中でも最強の者たちが属する部隊なのである。
また、円卓の騎士には序列があり序列十二位ですら十戒二人分の力があるといわれている。なので、侵略の足がけともなる砦には一人くらいいてもおかしくはない。
そして、いるかいないかでこの戦争もとい征伐の結果を大きく左右するといってもいい。
「お主はこのまま偵察を頼む」
「ハッ」
そういうと偵察兵はテントから素早く去っていった。
「ナバル中隊長」
「これはドラコ・ドライ様!わざわざこの様なところへ来られませんでも、こちらから伺いましたのに…」
ナバル中隊長が下手に礼儀正しくでた相手、名をドラコ・ドライ、赤い髪を短く生やした黒眼の筋骨隆々な大男、彼は十戒の一人である。
ちなみに今回の征伐には、十戒は二名駆りだされている。
残りの内、二名はそれぞれ北東と南東の親衛隊に同行、一名は王宮守護、そして残り五名は鋼兵国家メランを牽制している。
「ドラコで結構だ…で、偵察は順調か?」
「ハッ!…敵戦力は二千五百、その内二千は平原にて我々を迎え撃とうとしております!また、円卓の騎士については依然確認できておりません」
「ほう、では左翼と右翼に二千、真ん中に残り千を前衛後衛に分けておくかな」
「何故真ん中を手薄に?…ああ勇者部隊ですか」
「そうだ、彼らには後衛から援護してもらう」
「ミラ姫ではなくドラコ殿が全体指揮を?」
「そうだ。ミラ姫は彼らの指揮・護衛で忙しいからな…司令官としての役目は吾輩に一任されている」
そして二、三点話し合うと、ドラコは本陣に帰って行った。
その頃本陣では
「勇者たち、心の準備はいいですか?」
ミラがそう言って周りを見渡す。
勇者たちは薄くはあるが鉄の鎧を身に纏い、手には短い杖を持っている。その顔は不安に緊張そしてやっと試せるといったような期待に満ちていた。
「ここからは実戦です。ここは後衛ですし、戦力的に安全な場所ではありますが、戦場では何があるか分かりません!指示に従いその力を存分に発揮してください!」
ミラのその言葉に反応するように勇者たちは雄叫びを上げる。
そんなミラの下にドラコが歩み寄る。
「勇者たちよ!安心しろ敵の戦力はおよそ二千、こちらは五千だ!緊張せずに今までの訓練の成果をぶつけてやれ!!」
明確な戦力を聞いた勇者たちの緊張が少し緩んだ。
そして、ドラコがミラに耳打ちして本陣のテント裏に呼んだ。
「士気は充分のようだな」
「ええ、これなら大丈夫でしょう」
「左翼と右翼に二千、そして真ん中に千と勇者たちの援護攻撃…砦までは問題なく片がつきそうだ」
「で、伝令!」
ドラコとミラの会話を遮るように偵察兵が走り込んできた。
「敵砦内にて“円卓の騎士”を確認しました!」
「何っ!?」
「誰が来ましたか?」
「円卓の騎士序列十二位のガレスだと思われます!」
「ガレス…なら砦内から出ることはないか」
「ですが、砦を落とすのは厳しいですね…それこそこちらも十戒を加えなければ…」
「それにしても、メランに十戒を五人も仕向ける必要せいがあったのか?」
「それについては、これを…」
「こ、これは!!?」
円卓の騎士の情報に驚いたのも束の間、ミラが渡した手紙に目を通したドラコの瞳は先程よりも大きく開かれた。
「これは…事実か?」
「ええ、間違いありません。ですがそれは最終手段、しかも牽制のみですので使われないことを祈りますが…」
「ふむ…なら大丈夫だろう。まさかあんなものを寄越すとは…予想外だ」
「まぁ国家間のことですからね、そろそろ時間ですね」
「ああ、出撃だ!」
ドラコはミラに手紙を返すと、兵の集まるところへと歩き出した。
ミラは手紙を亜空間にしまうと空を仰いだ。
「できれば何もないことを祈ります…」
こうして、剣闘国家パイオンの砦征伐作戦が開始されたのであった。
…客観的なアドバイスが欲しくなってきました。