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異世界に来ちゃった一匹狼くん  作者: 矮 英知
第一章 “先ずは把握” 編
5/9

5話目「俺と美少女」

「で、何するんだ?」

「え?…とりあえず露店かな」

「というか俺お金持ってないんだが?」

「え?金貨も?銀貨も?銅貨も?青銅貨も!?」


お金の単位すら知らない俺は一単位ずつ無言で頷く。


「…というか、お金の単位って?」

「…あなた本当に人間?…いたっ」


何となく人間否定発言が気に入らなかったので、美少女のおでこを人差し指で突いた。


「こっの暴力男!」

「いいから教えてほしいな…」ナデナデ

「こっ、くっ、お金の単位は白金貨・金貨・白銀貨・銀貨・銅貨・青銅貨よ…十枚で一つ上の貨幣一枚と同額よ。あと偽造防止のための細工もされてるそうよ?ちなみに白金貨には紋章が描かれていて、偽造には極刑が言い渡されるわ」


美少女が言葉にならない怒りを抑えて説明してくれた。


「そうか、ありがとう。ああ自己紹介がまだだったな俺は草薙神威」

「クサナギカムイ?」

「ん?そうかこの世界の場合は…カムイ・クサナギだ」

「カムイ・クサナギダね!」

「違う!カムイ・クサナギ!」


コントのような問答後に、美少女は名前を反芻してからこちらに真っ直ぐ目を向けた。


「私の名前はピエリ・ラーミア」

「そうか、ピエリよろしくな!」

「…やっぱりあなたはこの国の人に召喚された者…なのね」

「え?何か言ったか?」

「何もないわ」


ピエリがボソッと呟いたことを草薙は聞けなかった。


「それよりも早く行きましょう!まずは露店が見たいわ」

「ああ、いいだろう」

「あなた敬語……一応初対面の相手なのに敬語つかわないのね?」

「すまないな、性格上明らかに国王のような者でもない限り使う気にはなれなくてな」


別に国王に媚びる為ではなく、封建と王政の中間であるこの世界で一国の主に敬語を使わなければ、不敬罪で処罰されるからでもある。

それに、尊敬する者になら敬語は使う。


「ここは…宝石ばかり置いてあるな」


 草薙がピエリが立ち止まったところを除くと、様々な種類の宝石が置いてあった。

中に入ると、ピエリは店の真ん中のガラスケースに入っている、こぶし大の水晶のもとに一直線に向かう。


「水晶がそんなに珍しいか?」

「この大きさで完全な球体…珍しいわ…」


 そんな没頭するかのようなピエリを見て、ふと思う。この世界は近世ヨーロッパに近く、ガラス製作技術も不完全なのだろうなと…そう思った草薙は試しにと、ポケットからあるモノを取り出した。


「なら、これは?」

「?…これはっ!!?」


ピエリに見せたのは、ビー玉。

 稽古用にと購入した30mmと大きめのビー玉だ。ちなみに30個入りで1000円だった。

腰のミニウエストポーチに入ってたモノの一つだ。


「俺の私物だが…」

「魔力を込めるには少々小さいけど、充分機能性があるし…しかも完全な球体!」


ピエリは興奮気味にビー玉を手にとって観察している。


「そんなに気に入ったならやるけど?」

「本当!?やった!ありがとう♪」


俺の言葉に即答で頷き感激の言葉を述べて、心からの笑顔を見せる。

…この笑顔だけで何だか心がすごく温まる。


「…そ、そういえばその大きな水晶はいいのか?」

「え?あっ…これはすごく高いし見てるだけでいいの」

「(そういえば…この世界と俺たちの世界の通貨の価値の差がわからないな)」

「ちなみにこのビー玉はいくらくらいになる?」

「ビー玉?この水晶はビー玉って言うのね…この大きさなら、金貨一枚くらいかしら」

「そうか…(やはりピンとこないな)」


「なら、ここの店みたいな大きさの建物ならいくらくらいする?」

「?、この店買うの?」

「いや、ただ知りたいだけだ」

「そうね…白金貨一枚くらいかしら?」

「なるほど…(二階建ての木造建築、100万円前後が白金貨一枚ね)」

「それがどうしたの??」

「いや、何でもな…!?」


ピエリと話しつつ通貨の基準を確かめた草薙の、音探知の範囲にかなりの使い手が入ってきた。


「どうかした?」

「…」


無言で建物の入り口近くに来た、その使い手に備え臨戦態勢に入る。

その使い手は入り口で一度立ち止まる…そして


「おぉぉぉ嬢ぅ様ぁぁぁあ!!」


奇声を上げながら、燕尾服を着て片眼鏡の黒髪でもみあげを伸ばした若そうな男…というかどう見ても執事が、飛び込んできた。


「うるさい!」


ゴシャッ!という音とともにピエリの足が前のめりになっていた執事の顔面にめり込む。


「お…嬢様……手厳しい…」

「はぁ、やっぱり見つかった…とりあえず店を出ましょう。このままでは迷惑がかかるわ」


そういって俺にピエリに執事は表に出ると、そのまま路地に入る。


「お嬢様!どうして城から脱走しているのですか!?ましてや城下街に出るなんて…何かあったら私だけでなく護衛騎士たちも首がとぶんですからね!物理的に!」

「…あんな所に大臣の仕事が終わるまで閉じ込められてたら、息がつまるわ」

「というか、お嬢様は大臣の仕事に無理言って同行したのではないですか!周囲の反対を押し切って他国が見たいからと!」

「しょうがないでしょ!?お兄様やお姉様はともかく私には何もすべきことがないのだから!暇なの!」

「それは存じ上げていますが…お嬢様に何かあったら、外交問題なのですよ?もっと自覚していただきたい!」

「…くっ」


「はぁ…と、そこの君。お嬢様と一緒にいた軍服の君!」


 執事とピエリが激しい口論を繰り広げている。俺は途中くらいからきびしを返して帰ろうとする。

厄介なことは御免だからな…そんな俺に気付いたのか執事がこちらを呼び止める。


「何か?」

「お嬢様のことですから巻き込まれたのでしょう…ご迷惑おかけしました。

それにしても、珍しい格好ですね…それにお嬢様の名前を聞いても微動だにしてませんでしたね?」

「!」


どうやら先に気付かれていたようだ…それにしても隙がない…この執事が相当強いと見ただけで分かる。


「お嬢様は、ピエリ・ラーミア…海洋国家エリュトロンの第二王女です」

「え!マジか…」

「マジよ…それにしても王族の名前を聞いてもその程度の反応だし、知らないようでもあったし、やはりあなたは異世界人…よね?」


 ピエリの核心をつく発言に一瞬動揺したが、ここまで分かっているようだし、相手は王族だと名乗っているのだから自身の事を明かしても問題ないだろう…そう思って草薙はピエリを見る。


「そう、俺はこの国に勇者として呼ばれた者たちの一人…カムイ・クサナギ」

「なるほど…あっ失礼致しました。私の名前はセバスチャンです。以後お見知りおきを」


こちらもセバスチャンに合わせて軽くお辞儀をする。


「はぁ、もう城下街巡りは終わりかしら」

「当然ですよ、お嬢様。大臣の会談も終わりましたので、明朝には発ちますよ」

「…そういえばセバスチャン!これを見て!」

「それは!どこで!?」


ピエリがそういってセバスチャンに見せたのは、ビー玉。セバスチャンは驚きの表情を浮かべて言及する。


「これは、カムイ・クサナギの世界のモノよ」

「そうですか…それにしても素晴らしい技術です。この技術をカムイ殿はご存知なのですか?」

「いや、俺は知らない…がまだ何個かはあるぞ」

「「!!」」


二人して驚きの表情を浮かべると、欲しそうな目で見つめてくる。

といっても価値が分かったばかりだからこれ以上売る気はないが…


「すまないが、今は売る気はないんだ」

「そう…」


ピエリがシュンと意気消沈する。


「…そうだ、カムイ殿」


セバスチャンが思いついたように声をかけてきた。


「私の魔法を込めたいので、もう一つ貸してもらえませんか?」

「…どういうことだ?」


 つまり、セバスチャンが言うには…セバスチャンの魔法は風属性の中でも凪と呼ばれる特殊なもので、派生魔法というらしい。で、その凪魔法は簡単にいうと、離れていても風などで探知することが出来る。また音を拾うことも出来るようで、通信にも使えるそうだ。

そして、ピエリと俺の持つビー玉にセバスチャンの魔法を込めることで、何かあったときに相手に知らせることが可能なのだ!


「いいのか?俺なんかに能力明かしてまで…」

「いえ、カムイ殿は優しい方です。それに悪気があればお嬢様を誘拐していたかもしれません。…そして、カムイ殿は優しいですがそれを押し込む二つのが刺さっていますね…何があったのかは聞きませんが…」

「!?…(心が読めるのか!?)」

「といっても私の凪で聞いた程度のことですが…ともかくカムイ殿なら信用出来ますしこちらも信用していただければ幸いです」

「信用…か、あったら便利なのは確かだし、頼む」


そういってセバスチャンにビー玉を渡す。



それから10分後、セバスチャンがこちらにビー玉を渡す。そのビー玉の中心は青い渦を巻いていた。


「では、私どもは一刻も早く戻らなければならないので…え?どうしたのですかお嬢様?…ふむふむ、なるほど、でしたらお送りしなければなりませんな」


 帰ろうとするセバスチャンにお嬢様が耳打ちする。理解したセバスチャンは凪魔法で俺たちの気配を消すと、風魔法も使って素早く聖堂に送り届けてくれた。


「では、またいずれ」

「カムイ!今日はありがとう」


そう言うと二人は風のように去って行った。


さて俺も部屋に戻るか…そういって歩き出した俺のポケットで、魔水晶は静かに渦巻いていた。


その時、城の王宮では深刻な会議が行われていたのは誰も知る由もなかった。



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