4話目「出会い」
「そっちに行ったぞ山田!」
「分かってるよ、『火よ穿て!』」
「そんな詠唱でいいの?」
「魔力をちゃんと性質変化させて、形質変化をしっかりと想像できれば勿論無詠唱でも発動できますよ」
「当たらないなぁ」
「でも詠唱したほうが上手くいきやすいわね」
「それは勿論、魔力変換から性質変化へを効率的に行えますから…ほらちゃんと当たらないと終わりませんよ」
聖堂の中庭で俺たちは、ミラさんが召喚した黒い猫のような召喚獣を魔法で仕留める訓練をしていた。
魂エネルギーを魔力に変換することを“魔力変換”。その魔力に属性変換することを“性質変化”、更に形状を変化させることを“形質変化”というらしい。
ちなみに魔法には、初級・中級・上級・高級・極級・特級・絶級までの威力階級がある。
国お抱えの筆頭魔導師レベルなら、高級よくて極級を使える者もいるらしい。また、絶級は保険級とも言われており、発動した者は未だ、かつて英雄と呼ばれた三人のリーダーのみ…つまり一人である。
「捕まらないわね!ああもうっ!面倒ね!」
女子の一人が地面を凍らせる。尚、自分たちは魔力量はかなり多いいようで、魔力制御さえ上手く出来れば急成長もあり得るそうだ。
「勇者共!まだ召喚猫一匹捕まらんのか!?…特異能力者もしっかり動かんか!!…ミラ姫、少し時間をいただきたい」
赤いダイヤが描かれた鋼の甲冑に身を包む、茶短髪に髪と同じ色の顎髭を蓄えた、屈強な男が喝をいれに来た。
ミラさんを連れて建物の裏側にまわる。
「おい!草薙だったか?お前も手伝えよ!」
「ん、あぁ…」
少年…もとい草薙神威が面倒くさそうに黒猫に指を向けて軽く指を回した。
すると、黒猫が急に千鳥足になってふらついた。
「もう弱ってたんだろ…俺は必要ないな」
「え!?ああ、勝手にしとけよ」
まぁ、三半規管を突いたから、あとは簡単だろう。
黒猫を追いかけるクラスメイトは中々見物だが、当然こちらも白い目で見られる…まぁ構わないけどな。
「それはそうと…何の話しをしてるのか、な?」
草薙が自身の魔法を用いて、建物の裏側にまわったミラさんたちの話しを盗み聞く。
「どうしたの?サハリ」
「あと2ヶ月しかないですが…彼らは砲台くらいには使えるようになりますかね?」
「サハリ・エスト、口が過ぎますよ?」
「…剣闘国家パイオンが既に国境に砦を築いているとの情報が入りました。そう近くない内に確実に衝突は起きるでしょう…いくら前線がムリでも、砲台くらいにはなってもらわないと召喚した意味がないのではないですか!?」
「…召喚した意味を貴方が問うのですか?」
憤慨気味に進言するサハリにミラが怒り気味に聞く。
「し、失礼しました…出過ぎたことを言いました」
「いいのです、それより今は海洋国家エリュトロンの大臣が来てますから、粗相のないように」
「はっ!」
そう言われたサハリはきびしを返して聖堂から去っていく。
そして俺たちも、黒猫…召喚猫を捕まえたので、しばし自由時間になった。
俺の音魔法だが、随分と多目的に使える。
さっきの召喚猫の時のように、三半規管を揺らすことで歩行困難にさせることも可能だったし、音を拾うことで一定距離なら盗聴も可能、また音で距離を測ることも可能だ。この他にも色々試してはいるが、対人目的に使えるものはまだ試せてない。
ちなみにクラスに四人しかいない特異能力者だが、あと三人は…学級委員長の南野、学年一の秀才の剣崎、クラス一の美少女の八百だ。
南野は太陽に纏わることらしい。
剣崎は本と文字を用いるらしい。
八百は転移、空間圧縮らしい。
らしいというのも、ハッキリと能力を知っていないからだが…ちなみに八百さんの魔法は空間魔法とは少し違うらしく、帰る手段にはなり得ない。
…それに、特異能力者だから強いというわけでもないのだが、脅威といえば脅威である。
さてと、俺も聖堂に戻るかな…そう思った矢先、ふと何か聞こえた。何だ?と気になって音を拾う。
「誰かっ誰かいないの?」
今にも泣きそうな声が聞こえた。
「はぁ……聞かなかったことにしよう」
「ちょ、ちょっとそこのあなた!」
思ったより近くにいたようだ…聞かなかったフリが失敗して小さく舌打ちする。
見た目から10歳前後だろう…金色の髪をポニーテールに結んでいる薄紅色の瞳をした、青いドレス姿の人形のような美少女が泣きそうな瞳で呼び止めてきた。
保護欲をくすぐるような美少女…その道の紳士(仮)なら直ぐさま連れ帰るだろう、危なっかしい美少女。
そしてこちらに詰め寄ると美少女はこちらに指を指してこう言った。
「そこのあなた!私の道案内をしなさい!」
前言撤回。危ない性格のようだ。
俺は目の前の美少女に無言で詰め寄ると…額に向けて軽くデコピンをかます。
「いたっ」
「しなさいじゃないだろ、人に頼むときは!」
「なっ、なによあなた!いきなり暴力振るうなんて!」
「痛かったか?…」
「えへへ…じゃないわよ!何気安く触ってるのよ!」
軽く頭をなでなですると、美少女は一瞬顔を綻ばせてはにかむ、そして正気に戻ったように怒り出す。
「と、とにかく私は一刻も早く城下街を巡りたいの!案内しなさ…してよ!」
「どっちにしろ命令口調なのか…あのな、俺も城下街巡りしたことないんだが?」
「!?…あなたここの住人じゃないの?…そういえば、聖堂なのに何だか軍服みたいだものね」
俺たちも聖堂から出してもらったのは王との謁見の時だけで、城下街など行ったことはない。
あと、俺たちは召喚されたとき学ラン・セーラー服だった為、今も着込んでるやつは結構いる。
ちなみに俺も現在学ランだ。
「そんな服だと目立つわね…まぁ少しの間だし構わないわ、じゃあ行きましょう!」
「え?ちょっ!まだ何も言ってなi…」
美少女に強引に引っ張られる…が聖堂から出るには正面の門か、壁を越えるしかない…どうやって出るんだ。そう草薙が思っていたのも束の間。
『我は命じる。汝を歪め我が通る道とする為汝の理を変えよ。歪道』
美少女がそう唱えて壁に触れるやいなや、壁にガラスのようなものが出来て向こうの景色が見えた。
「特異…魔法か!?」
「そうよ!人前ではするなと言われてたけど…案内してもらうためには見せるしかないからね!」
「すごいすごい」
「えへへ…って触んないでよ!早く行きましょう!」
自慢げに話す美少女の頭を撫でて、歪道を通る。
そうして、抜けた先には城下街が広がっていた。
…といっても城下街より聖堂のほうが20mほど上にあるだけでそこまで見晴らしは良くないが、近世ヨーロッパに似ているので高い建物がないお陰だろう。
この時の俺は、これが運命の分岐点の一つだったとは夢にも思わなかった。
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