3話目「対面」
夜空が明るくなって小鳥がさえずる明朝
少し肌寒く、寝起きには辛い。
そして…はっきり言って寝不足だ。その原因は…
「あ、珍しいですね…あなたには属性の適性はないようです。ですが、属性だけが全てではないです、身体能力を鍛えれば魔力を身に纏って無双することも…かつての英雄のように可能ですよ!」
そういわれたクラスメイト…たしか卓球部部長は、慰められたんだと思い俺と同じ部屋で……
「こんな異世界に飛ばされて…魔法適性もないなんて…うう、酷過ぎだよぉぉぉぉ!…うう」
号泣からのメソメソ泣き…寝れねーよ!
もう一人は耳栓して携帯見てたな…どうやら召喚魔法では身に付けているものくらいなら一緒に召喚するようだ。
最も、この近世ヨーロッパのような文明で電気が使われていたのは、ごくごく一部で、属性魔法をこめた魔法石を使っているようだが…充電器もないから、携帯は使い物にならないだろうがな。
そして屈伸してから宿舎の一階に降り、食堂に向かう。
うーむ選べるのか…なら無難にカレーライスにするか。
ん?何故カレーライスと分かるかだって?
確かに言葉が通じること自体が不思議だったが、そこは異世界召喚魔法効果かな?と自己解釈した。
それよりも、この世界の文字なのだが…基本的には日本語のような書体が用いられていた、但し抽象的読み方や難しい文法はなくなっているようだ。
それに所々で別言語も混じっている。英語やヨーロッパの言語とか。
そんなんでよくコミュニケーション取れるなと思う…そういえば食事前に、「王宮にてこの世界に召喚した理由を説明致しますので、朝食が終わりましたら十一時に聖堂内にお集まり下さい。」と王宮の使いが言っていたな。
そういえば時間といえば時計だが…時計は希少らしく、宿舎に二個、聖堂に二個と、二つの施設を含めると野球ドームくらいの広さはあるのにそれだけしかない。
で、カレーライスだが…まぁまぁかな…香辛料が少ないのか?パンチがあまりなかった。
あと、クラスメイトの半分は、目に薄らと隈を浮かべていたり、泣き後があったな。
まぁ俺も目に薄らと隈ができそうなんだがな。
*
聖堂から一度城下“町”というよりも城下“街”に出て、横目で見たときとは違い、今度は城の正門と正面から向き合う。
城はかなり大きい…40階建てビル程はありそうだ…というかエレベーターないよな?上り下りしんどくないか。
門番も武器を所持していないか軽くチェックしただけで通してくれた。やはりミラさんがいるからだろうか?
彼女はかなり高位、王族クラスだと予想している。
そのまま大広間(室内)を抜けて、上って、中庭を抜けて、上って上って、通路の両端に騎士がいてやっと王のいる謁見の間についた。
ミラさんが扉を開ける。
赤いカーペットが扉から玉座まで続いていた。玉座は階段を数段上った所にあった。…よく上るとこだな。
部下は、両方の壁合わせて、武装したもの十三人にお偉いさんらしい人が四人とメイドが一人。
真ん中の玉座には、紅く重厚なマントを羽織り金の王冠を頭に乗せている、初老で顎髭をたくわえて、金髪をオールバックにしている、蒼眼の国王が鎮座していた。
「よくぞ来てくれた!我が国の希望よ!!」
国王が立ち上がり叫んだ。背は二m近くありそうだ。
「さて、単刀直入にだが今回召喚された理由…じゃったかの?」
「はい、そうです陛下」
「ふむ、ならまずこの世界について教えておくか…この世界は古代文明時代に起きた災厄によって、異次元と繋がり数多くの魔族が国ごと進出して来たのじゃ…それにより人類は追い詰められ、何とか耐え抜いたが…人類の領域は地球全体の30%まで激減した。
そして残った人類は限られた領域で国をつくり、魔族へと備えた。まぁ今は膠着状態じゃがな」
「そして限られた領域を巡って人類は、人類同士で戦争中なのです」
大臣のような人物が補足する。
「何とも情けないことだ…共通の敵の脅威が収まった途端、人類同士で戦争とは…自らの首を絞めてどうするんだかのぉ?かつての英雄様に示しがつかんわ。
…だがこの戦争によって我が国も痛手を負った、一刻も早くこの戦争を終わらせねばならん!それでお主らを召喚したのじゃよ」
いかにも悲壮感を漂わせているが、演技くさい。
「(…結局戦争の道具ってことか)」
少年は心の中で憮然としながらも冷静に聞いていた。
「…急に巻き込んですまないとは思う、だが頼むお主らは我が国の希望なんだ!どうか協力してほしいっこの通りじゃ」
「陛下!?おやめください!」
「陛下が頭を下げては示しがつきませぬ!」
国王が頭を90度に曲げて謝っていた…よく王冠落ちないなぁと思った矢先に、お偉いさんらしい人たちが国王の謝罪を制止しようとしていた。
はっきり言って茶番に見えるが…効果はあるようだ、クラスメイトの顔が憤りの顔から困惑した顔へと変わっていた。
日本で例えるなら、天皇や総理大臣が目の前で頭を下げて頼みこんでいるようなものだ…帰る手段もなく、国の最高機密も知った潜在能力しかない無力な自分たちがこの状況で断れるか?嫌らしい手を使う。
「分かりました、協力します!みんなも協力しようぜ!強くなるしか道はないんだし!」
クラスでも最も人気のある学級委員長が俺たちのほうを向いて宣言した。
クラスメイトたちも、少し間を置いてから
「分かりました、協力します!」
と宣言した。
「おぉありがとう!そうじゃ、余の名前をまだいっとらんかったの…ソロモン・ユダじゃ、そこのミラ・アインス・ユダは近衛部隊“十戒”のリーダーであり我が娘だ」
そうしてローブを脱いだミラは、銀絹のワンピースを身に纏っており、腰まで届く金髪に蒼眼と国王と同じ色だったが、体つきは出るところは出ている魅力的な女性だった。
「姿をちゃんと見せるのは初めてですね…皆さんの魔法講師としてよろしくお願いします」
「そういえばお主ら!字は読めるのか?言葉は言霊があるから大体通じるはずじゃが…」
「陛下、彼らはこの文字がある程度は読めるようなので心配はないかと…食堂でも口々にメニューを言ってましたから」
「なら問題ないの!では頼むぞ…勇者たち!」
そういうと国王は席につき、俺たちは退室した。
そして俺の中…いやクラスメイトの数人にも、とある変化が起きていたのだが、それについてはのちに分かるのであった。
補足:主人公が、卓球部部長など役職で思考してるのは、普段から関わりがなく名前を呼ぶことがないからである。
名前は覚えているが特徴的なことの方が覚えているので、そちらで呼んでいるだけ。