2話目「魔法適性」
何だって!?そんな声があちこちで聞こえ、ざわつく。それを遮るように白いローブを身に纏っている者が口を挟んだ。
「私の名前はミラ・アインス・ユダ…不慮の事態を防ぐために、貴方たちを結界に隔離したこと、申し訳ありませんでした。色々と質問があると思いますが、一先ず私についてきてもらえますか?」
そういって部屋の扉から出て行くローブの者たちに、ついて行く他選択肢はなかった。
扉を出てトンネルのような通路を抜けると、また扉がありそこを出ると、協会のような場所…否、協会の教壇側に出た。
「聖堂の教壇にある“開かずの扉”…これが召喚の間への入口なのです」
「それより私たちを帰してよ!」
「希望とかいって何する気なんだ!」
聖堂の長椅子に座るやいなや、ミラの話しを遮って紛糾する。知りたいのはそんなことではなくて、どうする気なのか、どうやって帰れるか、なのだから。
「…正直に言うと帰ることはほぼ不可能でしょう」
クラスメイト一同、驚愕の表情を浮かべる。
が、あの少年は至って冷静である。
「(そりゃあ、時空を越えてまで喚んだんだ…しかもリスクがあるとしたら、わざわざ帰しはしないな)」
「…簡単に説明すると、世界と世界は時空の歪みによって繋がっていることがあります。その繋がりのことを“筒”といいます。
世界と世界を結んでいる筒の、召喚魔法を行う側の入口を広げて向こうの世界の人を喚ぶのが召喚魔法です。ちなみに向こうの入口は広げられません。
また、召喚魔法は自身の世界の、筒の入口しか広げられません。また三十人程が入る程度にしか広げられないのです。
そして、召喚魔法は八人で行います。成功率は50%で、失敗すれば召喚魔法使用者と召喚されてる者も、死にます。
…召喚魔法は八人以上で、優秀な魔術師と空間魔法を持つ者がいないと発動すらしません。またこれ以上人数を増やしても成功率は上がりません」
「え~と、召喚魔法とやらについては大体理解しましたが…それは召喚魔法の場合であって、僕たちを帰す場合では関係ないのでは?」
皆が理解できず、何とか呑み込むために、頭の中がローディング状態になっている中、クラス1の秀才(テスト結果での話)である眼鏡男子が質問を投げかけた。
「いえ、召喚魔法と貴方たちを帰すことができる送還魔法は原理的には同じですが、一つだけ決定的に違うことがあります。…それは貴方たちの世界の入口を広げることができる者がいないことです」
「え~と、つまり?」
「例えば、貴方たち三十人を送還魔法で帰すとします。成功率は50%…更に向こうの世界の入口が小さいため、その中から一人…よくて四人しか帰還できないのです」
「なら一人ずつ送ればいいじゃない!あんたらが勝手に喚んだんだから当然でしょ!?」
興奮状態のギャル女子がミラに向かって怒鳴りつけると、ミラの横の魔術師の手が剣の柄を握った。ギャル女子は後ずさりし、ミラはその魔術師を手で制止を促してから話しを続けた。
「…召喚・送還魔法は、優秀な魔術師及び空間魔法使いが八人以上で行うのが条件で、それでも成功率は50%…この国の優秀な魔術師を数えても、一度しか失敗できませんし、その後に召喚・送還魔法は二度と行われないでしょう。そして筒の入口を広げる広げないに関わらず、時空を越えること自体が最難関なのです。
よって、一人ずつの場合でも一度失敗すればその後の人たちは永遠に帰ることが出来なくなりますよ?それにこの魔法は、魔力もほぼ空になりますから…」
ミラが重々しく言うと、ギャル女子は真っ青な顔をして黙り込んだ。
何故なら、一人づつの方が確かに自分たちの生還率は高いと言ってもいいだろう。だが召喚・送還魔法を行う者たちの生存率は0と言える。そんなことを、命懸けで喚んだのに命懸けで行うはずがないと悟ったからだ。
それに地球に優秀な魔術師や空間魔法使いがいないことは明白であるし、召喚・送還魔法を知っているはずもない。
「…帰れないのは分かりました…けど魔法って?」
やっとその質問か。空間魔法やら召喚魔法やら魔法について話していたのだから、俺なら最初にそれを尋ねたよ…と思う少年であった。
「貴方たちの世界にも知らないだけで、使える者はいたと思いますよ?魂因子を持たない者を召喚できませんから」
そう、少年の世界にもごく僅かではあるが魔法を使える者がいる。一億人に一人…それもマジック程度の魔法でしかないが…その真実を知る者は極めてわずかだろうけど。
「…説明しますと、魔法は身体の魂エネルギーを変換して行います。この世界には魂エネルギーが大気にも満ちていますので…貴方たちも魔法が使えるはずですよ?」
その言葉を聞いた途端に、さっきまでの澱んだ空気が軽くなり、皆の顔に期待が浮かぶ。
「魔法属性適性検査も行いますが、その前に皆さんの健康状態を良くするためにも、回復薬をどうぞ」
そうして配られた、丼鉢のような器にはスポーツドリンクのようなものが満ちていた。…というか、せっかく魔法があるのに、こちらの世界より文明水準が低くないか?と思ったが、魔法があるから逆に必要以上に発展しなかったんだと少年は解釈した。
そして同時に配られた回復丸と呼ばれる飴のようなものを食べる。たった一つの飴で、一時的かもしれないが空腹感は治まった。
そして、聖堂の教壇に、無色透明の大きな水晶に一つ小さめの水晶が付いた物が運び込まれた。
「皆さん、これが魔法属性適性検査に使う“属性適性水晶”です。これに手で触れると、水晶にその属性に適した色が発生します。
大きな水晶が主属性、小さめの水晶には副属性があれば色が発生します。」
皆が期待を持つのは当然であろう。
国の最重要機密だとしても過言ではない召喚・送還魔法をあれだけ詳細に説明されれば、内心がどうであれ帰れるのは今は断念するしかない…けれど、もしこの魔法属性適性検査で自分に空間魔法の適性があれば!?帰れるかもしれないのだ!
…とは言っても、魔法に期待が膨らんだ者のほうが多いいだろうが。
「属性は、火が赤色、水が青色、風が緑色、土が茶色、雷なら黄色、光なら白、闇なら黒…それ以外なら紫になります」
そして順番に手をかざしてゆくが、自身の属性が判ったものの、反応は薄い。
今まで使えなかったものが使えるようになっても、しっくりこないというところだろう。
次は俺の番か…少年はそっと手をかざし水晶に触れる。
「あなたは…紫!特異魔法使いですね!」
ミラが嬉しそうな声を上げると、周りもこちらに視線を寄せる。
ちなみに、俺は並ぶのが面倒だったから暫くうたた寝してたらラストになってた…聞くところ、特異魔法使いは俺含めて四人しか出なかったようだ。
「能力は…音?…を用いるようですね」
周りの中でも帰還手段を期待していた者たちが、溜息をつく。
…お前らの期待に答えたいわけじゃないんだが。
「ちなみに副属性は光のようです…これで全員魔法属性適性検査は済みましたね?…では三人一組でこちらの宿舎へ」
そうやって案内された宿舎は、聖堂から渡り廊下を渡った先にあり、体育館のような大きさの建物だった。
渡り廊下から外を見ると、大きなお城のような建物が聳え建っており、その周りは城壁があった。
どうやら、城→聖堂→城下町という風な構成なのだろう。
「部屋で魔法の練習はできる限り控えてくださいね」
そういうとミラは聖堂へと帰って行った。
*
皆、部屋につくと話すこともなくベッドに横になり眠りについた。
「このベッド固そうだな…ん?」
少年が目を凝らしてベッドを確認すると、視界に一瞬モザイクがかかる。
「やべーな、俺も疲れてるみたいだ…」
そういうと少年もベッドに横になり、眠りについた。
(10/8)転送→送還に訂正。その他細部訂正。