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序章
「坊主・・触って見るか?鳩を」
羽崎の言葉に少年は黙って、こくんと頷いた。意外そうな顔をしながら、佐久間は一羽の鳩を少年の前に抱き、そして、
「違う・・そうじゃない・・そうだ。右手の人指し指と中指だ・・そうだ。強く握るんじゃないぞ。そうだ。胸に左手を添えるようにだ。よし」
ぎすぎすした少年の顔が、一瞬だが童顔に戻った・・「ほお・・」佐久間は小さい声で呟いた。
「それじゃ、佐久間君!」
「はい!」
その言葉で、放鳩車の側面の扉は開かれ、中の鳩は一斉にすさまじい羽音と共に飛び出した。
その様子を呆気に取られたようにぽかんと見上げる少年。鳩群は旋回の後、一直線になって視界から消えようとしていた。まだ、鳩を抱いたまま、立っている少年。