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序章
「坊主、こっちへ回って来いよ。見せてやるよ」
案外素直に少年は、足を引きずりながらも、トラックの後に回った。
「え・・・な?」
少年は声を出す。放鳩車なんて生まれて初めて見るだろうし、無数にその中に居る鳩に驚いたのだ。
羽崎が微笑みながら言う。
「どうや?驚いたか?これは競翔鳩や」
「競翔鳩・・?」
「ああ、伝書鳩と言う言葉は聞いた事があるだろう、レース鳩とも言う。この鳩がそうだ。」
少年は黙ったまま鳩を凝視している。余程珍しいのだろう。
「佐久間君・・」
羽崎の言葉を解したように、佐久間はトラック横のボディーを開け、シーツを外すと、その中には鉄製の見事な放鳩ゲージが姿を現した。少年は、微動だにせず、凝視していた。