蠢きの魔
「お母ん、俺・・日本一の家具職人になるんや。ほんでな、お父んと、姉ちゃんの仏壇、俺が作ったるさかい」
「修ちゃん・・・」
母、美弥子の眼から滂沱と溢れる涙。
「お母ん、泣かんといてくれや。俺な、やんちゃやっとったけど、工藤はんのように、立派に更生してる人見て、俺もやらなあかん思うたんじゃ。それにな、俺・・鳩飼いたい思うてんねん」
「・・鳩?でも、ここ長屋やし」
「それもな、佐久間ゆうあんちゃんが、俺が一人前になったら、鳩やるゆうねん。鳩ゆうてもな、何百キロ、何千キロも離れた遠くから離されても、戻って来るような賢くて、綺麗な鳩やねん」
「そう、修ちゃん、頑張らなあかんな」
美弥子さんは、顔を覆った。嬉しくて涙が止まらなかった。父親、姉を亡くしてからは殆ど笑わない子だった。中学に入るとすぐ不良グループに入って、何度も警察の世話にもなった。美弥子は何度、修ニを殺して、自分も死のうと思った事か。しかし、亡くなった修ニの姉の恵の顔、夫の一志の顔を思い浮かべては、踏みとどまった。生きて行く為、女の細腕一つで必死で働き、充分にかまってやる暇も無かった。随分淋しい思いをさせて来たと自分を責めた。しかし、この子は立ち直ろうとしている。それが嬉しかった・・。




