佐久間米示と言う男
「お・・俺は今まで、社長に受けた大恩を一身に感謝して、やって来ました。しかし、今回の縁談は、羽崎グループの社運を掛けた合併話の、一貫である認識もしております。山本建材の社長さんの所の話は、中でも最重要なものであると言う事は承知しています。しかし、自分の我ままの為に社長が、窮地に立たされるのでしたら、慙愧に耐えない事です。だから辞表を提出しました」
「・・・なあ、佐久間。わしはのお、お前をほんまの子や思うて、育てて来たんやで。あの日・・同情なんかやあらへん。あんな逆境の中にあっても、お前の目は死んでへんかった。胸にな、どーんと来たんや。お前のそれまでの人生は不幸やったと思う。けど、この子を一人前に育てるのはわしの義務やと思うたのや。そして、お前は今日まで、実に良く頑張ってくれて、今や羽崎は、お前が中心になって動いていると言って過言ではあらへん。次の役員総会では、お前を役員に推挙しよう思うてた所や。見合い話は、わしの勇み足やったかも知れん。けどな、わしがお前の重荷になる事を強要してるんやったら、それは済まん事や」
佐久間は益々小刻みに震え、ぼろぼろ涙を零した。




