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佐久間米示と言う男
「社長には、明日辞表を出します。俺はね、小学校3年生の時に、羽崎社長に孤児院から引き取って貰って、大学まで出して貰いました。本当に大恩ある人です。実の親父以上に思ってますし、経営者としても尊敬してます。けど、自分は決して羽崎を継げる人間なんかじゃないんです。俺がもし、そんな事になれば、羽崎の親戚一同がこぞって反対して、会社は大変な事になるでしょう。ただ、社長が現役で居る間はこの命に代えても、守りたいと思っています。美弥子さん、俺には、父親も母親も居ません。たった一人の身内である祖父も3つの時に死にました。天涯孤独の身です。今更失うものなど何もありません。けど、美弥子さんを失う位なら、死を選びます」
美弥子さんは、佐久間の体に覆い被さり、激しく泣いた。
「死んだら・・死んだらあかん!そないな事ゆうたらあかん!うち、うち、もうたくさんや、叉うちを不幸にしはるんか・・うう・・ううううう」
「美弥子さん」
佐久間はきつく美弥子を抱きしめた。




