佐久間米示と言う男
「羽崎社長は、それから、すぐ手続きを取って、自分の所に佐久間を引き取ったんや。子供が居らへんかった事もあるやろけど、その佐久間のそんな境遇にありながらも、澄んだ目を見て、自分の子と同様に育てる決心をしたそうや。それから、佐久間は大学まで出して貰うた。佐久間は羽崎社長を心から尊敬してる。自分の親父のようにも思うてる。そやけど、佐久間にとっては、あくまで羽崎社長は、自分の命の恩人なんや。その人の身を守る為に、空手を習い、ほんで、法律の勉強をして、会社の為に必死で働いとるのや。その佐久間がやで・・絶対この縁談を成功させなあかんと思い込んで、受ける筈やった見合い話を蹴ってまで、美弥子さんの元へ行ったのは、あいつ自身の中では、羽崎を裏切る行為にも等しい事やねん。せやけど、修ニ、あいつはなあ、今まで、自分のわがままを封印して生きて来た男や。それは、あいつにとっての或る意味幸せやったのかも知れんけど、心から生きて来た人生やあらへん。今、気がついたんや。ほんまに好きな人が誰かちゅう事が。それが、たまたまお前の母ちゃんで、その母ちゃんも、佐久間の心を感じとる。お前にとっては、寝耳に水の話やろけど、美弥子さんも、生身の人間なんや。まだまだ人生はこれから長いねや。そやから、佐久間はお前の父ちゃんになろうとして、結婚を申し込んだんやあらへんし、お前にとっては、認めるちゅうのは辛い事やろけど、母ちゃんの事を今、一番大事に思うてくれるのは、佐久間や。修ニ、頼むわ、この通りや」
工藤はその場に土下座した。友人の為にここまでやれるのか・・そして、この友人をここまでさせる佐久間の事を思った。決して、良い出会いでは無かったかも知れないが、修二にとっては良いあんちゃんとして、これまで、付き合って来ていたのだから・・。




