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ゴルコ  作者: はなぞの
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知ってますか。ボクもアヤちゃんの家に来て気づいたんです。寒くなったら、あったかくなって、暑くなって、涼しくなって、そのうちまた寒くなる。そしたらまたあったかくなって、暑くなって、すずしくねってまた寒くなる。世の中繰り返しなんですよ。で寒くなって暖かくなってくると、あのピンクの花が咲くのです。

今はまだ寒いです。でもボクは寒さには強いんです。だってアヤちゃんたちとはちがってたくさん毛が生えてますから。服だっていらないんです。

あ、そうそう病院でもらったあの服はもう着ていません。もうお腹もいたくなくなりました。

でもボクも年でしょうか。最近、アヤちゃんの歩くスピードについていけず遅れがちになります。アヤちゃんはときどき振り返ってボクを振り返ってくれます。あれっ、こんな風景、前にもあったような気がするなぁ。あっ、シマさんだ。シマさん、歩くの遅かったもんなぁ。アヤちゃんは速いなぁ。公園まで行く途中、ちょっとした坂があるのですが、そこを登るのが辛くて途中で一度休憩しちゃいました。だって息がきれるんです。

「ゴルコ、どうしたの?」アヤちゃんが心配そうにしゃがんで顔をのぞき込んでくれます。(大丈夫です。さぁ、公園にいきましょう。)へへっと笑ってボクはまた歩き出します。

その後、散歩で公園まで行くことはなくなりました。たぶんボクのことを気遣ってくれているんだと思います。でもそうするとアヤちゃんがこっそり買うお菓子もわけてもらえません。チェッ。最近のお散歩はお家の回りをぐるっと回って帰ってくるだけ。それでもボクの息はあがっちゃいます。でも大丈夫、へっちゃらです。さぁごはんにしましょう。


しばらくして、ボクはまたあのイヌがたくさんいる動物病院に行きました。先生はボクの胸にへんな道具をあてて、音をきいて、そのあとボクを奥の暗い部屋へ連れて行きました。

「X線で調べたのですが、胸の中にシコリがたくさんあります。がんの肺転移だと思います」

先生がおかあさんに話してました。ボクはイヌなので言葉はよくわかりません。でもお母さんは泣いています。どうしたのお母さん。元気出してよ。へへっ。

その日、お家はみんな元気がありませんでした。でもボクのごはんは豪勢です。肉の量も2割増しな感じです。でもあまり気を遣わないでくださいね。最近、あまり食欲がないんです。

外はだいぶ暖かくなってきました。ぼくは寝ている時間が多くなりましたが、大丈夫です。ちゃんと尻尾も振れます。アヤちゃんは学校からもどってくるといつものように「ゴルコォー」ってしてくれます。

日曜日、寒かったけど久しぶりにアヤちゃんと散歩にいきました。ゆっくりゆっくり。アヤちゃんは途中のお店で蒸しパンをかいました。きっと後でくれるんだと思うよ。でゆっくりゆっくり休みながらいつもの公園にいきました。またあのピンクのきれいな花が咲いています。暖かくなってきたもんね。アヤちゃん、公園でこの花がみたかったんだね。アヤちゃんとボクはいつものベンチにすわりました。ボクはちょっと息が上がってしまったけど大丈夫です。

「ゴルコにサクラ見せたかったんだ」

へへっ。アヤちゃんとボクはピンクの花をバックに自分撮りのツーショットをとりました。きれいにとってくださいね。それで途中で買ってくれた蒸しパンをぼくにくれました。えっ、全部いいの。予想外。はい、いただきます。ボクが食べ終わるとアヤちゃんはぼくの顔をくちゃくちゃとしてくれました。


その日の夜、ボクはなんだか息苦しく眠れませんでした。横になると苦しいのでずっと起きてすわっています。だからとても眠いです。ボクが咳をするとお母さんかアヤちゃんがきてくれて、背中をさすってくれます。へへっ、大丈夫ですよ。ボクは辛抱強いイヌですから。ボクはトイレに行きたくてアヤちゃんを呼びました。

「ここにシートを敷いたからここでしていいよ」

ですって。ボクは言葉がわかりませんが、大丈夫です。外でできますよ。

ふと眼がさめると、私としたことがお漏らしをしてしまったようです。床が濡れています。ボクの毛も濡れちゃいました。怒られちゃうとおもって部屋の隅っこに行って小さくなってました。そのうちアヤちゃんがきました。

「ゴルコ、大丈夫よ。おしっこしちゃったのね。こっちにおいできれいにするから」

アヤちゃんはボクをやさしく拭いてくれました。


次の日ボクはまた、動物病院にいきました。お母さんとおねえちゃんとアヤちゃんもいっしょです。ボクは歩けないのでみんなで抱えて行ってくれました。

先生はまた暗い部屋でボクの写真をとりました。

先生はお母さんたちに向かって話していました。

「もう、そんなに長くは生きられないと思います。この子の最後について考えておいてください。病院で酸素を吸わせれば少しだけ長く生きられるかもしれません。でもそれが幸せなのか、わかりません。自然にお家で看取られる方もいらっしゃいます。もし苦しいならここでお薬をつかって楽にしてあげることもできます。この子にとってよい方法をみなさんで考えてあげてください。」

先生やみんなはボクを囲んで、みんなでいろいろと話してました。先生が胸に針を刺してくれてから息が少し楽になったので、ボクはその場で眠ってしまいました。どれくらい時間が経ったかわからないのですが、ボクはまたおウチにもどっていました。やっぱりここがいいね。みんないるし。


次の日、アヤちゃんはいつものように学校に行きました。行くときにいつものように「ゴルコォー」って顔をくちゃくちゃにしてくれました。ボクのことを気遣ってちょっと控えめに。ボクはもうごはんもあまり食べられません。ずーとボーとしながら過ごしていました。夕方、アヤちゃんが息を切らせて帰ってきました。ボクは最近あまり耳が聞こえないのですが、アヤちゃんの足音はちゃんとわかるんです。おかあさんよりもピッチが速いし、パタパタいう音がするから。だからボクは精一杯尻尾を振ってお出迎えしました。立てないので尻尾だけでごめんね。アヤちゃんはいつもより長く「ゴルコォー」ってしてくれました。へへっ、もう顔がくちゃくちゃですよ。夜、アヤちゃんはボクの隣で過ごしてくれました。本をよみながらボクに膝枕をしてくれました。こうした方が息が楽なんです。

いつの間にかアヤちゃんは眠ってしまったようです。ボクもなんだかまた眠くなってきました。息苦しいですが、苦しさが少しずつ和らいできます。不思議です。眼の前が少しずつ明るくなってきました。まだ夜なのに変ですね。

ふと気がつくと眼の前にシマさんが立っていました。シマさんが中腰になってボクを待ってくれています。ボクは尻尾を立ててフリフリしながら、シマサンのところに走っていきました。

(おっ、ちゃんと走れるぞ。)

シマさんは昔みたいにボクの顔をくしゃくしゃてします。アヤちゃんの「ゴルコー」よりもマイルドです。シマさんひさしぶりですね。だいぶ探したんですよ。ボクはシマさんに甘えて体をこすりつけてみました。シマさんもにっこり微笑んでくれます。ボクはシマさんに連れられてアヤちゃんのところから遠ざかります。シマさん昔よりも歩くの速くなりましたね。最近、ボクは遅くなったんですよ。

ボクは後ろを振り返りました。アヤちゃんは眠っています。

(アヤちゃん本当にありがとう。ボクはシマさんと行くことになりました。またいつかいっしょにあのピンクの花をみにいきましょうね。)


おわり

ゴルコを読んでいただきありがとうございました。


モチーフになったイヌは、実際にイヌの保護施設に預けられていた子です。

大人になってから新しい飼い主さんがひきとられ、暮らすことになりました。

もう、そのころには病気があって長く生きることはできませんでしたが、短い時間にやさしい飼い主さんにたくさん愛してもらって、穏やかに旅立っていきました。

一人ぼっちがにがてなとても優しいワンコでした。


このお話しはそんな”ゴルコ”とゴルコの最後をみとってあげた優しいご両親を思いながら書きました。


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