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ゴルコ  作者: はなぞの
3/6

シマさん

「あんた、死ぬよ」

雑種のお姉さんがあきらめたような眼で小さな声で言ったよ。


「そんなことないよ。話したことあるでしょ。タカシさんが迎えにきてくれたんだよ。」

「あんた、あまちゃんだねぇ」

「そうかもね。でも、僕らはいつも前向きに生きるのさ。それがボクらの取り柄だよ」

おじさんに連れていかれた先でボクはシャワーされた。久しぶり!まだ寒い季節だったけど、ボクはゴールデンなので水は平気さ。犬かきも上手いんだよ。

シャンプーがおわってプルプルして、ゴォーって乾かされて、そのまま、いつものケージにはもどらずおじさん達が働いてる事務所につれてこられたよ。ここはタカシさんが入っていった部屋だね。ということはタカシさんがいるのかな。

(くんくん)

ボクは、一生懸命、眼と鼻で探したけどタカシさんはいないみたいだった。ちぇ。ときどき通りすがりにおじさんたちが、頭を撫でてくれるけど、退屈だなぁ。


ウトウトしていると誰か入ってきたよ。あっ、この人知ってる。この間来た小さいおばさんだ。

「あっ、久しぶり。待っててくれたの。きれいにしてもらったのね。」

「ありがとうございます」小さいおばさんはおじさんにお礼を言っていたよ。

「ではここにご署名をお願いします。よろしいですか? はい、ここです。それとなにかご身分を証明するものお持ちですか? あっ、保険証ですね。大丈夫ですよ。ちょっとコピーさせていただきます。この子もあなたような、いい方にもらっていただけてラッキーですよ。犬の幸せは犬が決められないから、かわいそうですよね。まあ、人間だっていろんな制約ありますけどね。はい、保険証お返ししますね」

「この子の前の名前、わかります?」

「えっーと書類では、ゴルコというらしいです。手術済みの女の子、3歳です。あっ、でも名前はご自分で新しく決めてあげたらいいと思いますよ」

小さいおばさんはボクの前にしゃがんで首のところをぐちゃぐちゃってなでてくれました。

「ゴルコ。ゴルコ。かわった名前ねぇ。私はシマ。ゴルコ、これから私といっしょに暮らすのよ。わたしもう、おばあちゃんだから走ったりできないけど我慢してね。そうそうこれ、あたらしい首輪ね。ウチの電話番号書いてあるから、もうノラさんと間違われないからね。」

ボクは犬なので、シマさんが言っていることはよくわかりません。シマさんがボクに首輪をつけている間、シマさんの袖のあたりの匂いをクンクン嗅いでいました。シマさんの服はかわった匂いがするんだよ。シマさんに連れられてボクは久しぶりに建物の外に出たよ。気持ちいいね。外は。ボクは半乾きだったし、風はちょっと冷たかったけど、外にはピンクの花が咲いていました。サクラっていうヤツです。ボクはシマさんの横で、ピンクの花びらがひらひらと舞うのをながめていました。そとではシマさんの知り合いのおじさんが車をとめて待っていてくれました。あとで知りましたが、このおじさん、キムラさんっていうんだ。キムラさんはシマさんの向かいの家に住んでる雑種犬ゴローさんのご主人なのさ。シマさんは車の運転ができないからキムラさんが車を出してくれたんだ。おじさんが前の運転席に座り、シマさんは後ろの席でした。ボクもシマさんの隣に乗せてもらいました。車に乗っている間、シマさんはずっとボクの頭を撫でていてくれました。ぼくはうとうとしながら、なんとなくもうタカシさんとは会えない気がしました。でもボクは生まれたときから決めているんです。どんなことがあっても前向きに生きていくって。


ボクの新しい生活が始まりました。ボクの新しいご主人さまは、小さいシマさんです。シマさんの家は、シマさんと同じ匂いがしました。あとで気づいたのですが、これはお線香っていうらしいです。シマさんは毎朝、お仏壇のところでお線香に火をつけてお祈りをするんです。仏壇にはシマさんのだんなさんと、前いっしょに住んでいたシェルティーさんの写真がかざってあって、シマさんは毎朝一分くらい手を合わせています。はじめのうちはシマさん眠っちゃったのかなぁ、と思って、ねぇねぇってシマさんを前肢でつついてみたけど、どうやらちゃんと起きているみたい。今は、ボクも毎朝、シマさんのとなりに座って一分くらいお祈りします。もちろんお祈りするフリですよ。なぜそんなフリをするかというと、お祈りが終わるとご飯をくれるからです。シマさんは仏壇の写真の前にごはんを置くのですが、お祈りが終わるとそれをボクにくれます。へへっ、いただきます。その後はいつもお散歩です。シマさんは、しっかりと歩きますが、歩くのがタカシさんよりもずっと遅いのです。なのでいっしょにお散歩するといつもボクの方がシマさんの前にでてしまいます。シマさんを引っ張ると悪いので、ボクは振り返ってシマさんが追いつくのを待ちます。だってあなたがボスですよ、シマさん。2mくらいボクが前にでて、振り返ってシマさんをみます。シマさんは笑いながら追いついて、またボクが進む。そういう散歩です。ボクももう大人ですし、やんちゃな方ではないので、こんな感じで十分です。お散歩コースはいつも同じです。堤防のところにある大きな木の所に来ます。ここはいろんな犬の臭いがします。木のあたりでボクは用を足して、シマさんがそれを片付けてくれます。いつもスイマセン。それで天気がいいときは堤防にシートを広げて、ミニピクニックです。前のご主人のタカシさんは肉をたくさん食べてましたが、シマさんは基本的に草食系です。堤防にシートを広げひなたぼっこしながら水筒のお茶を飲んでいます。ボクにはいつもサツマイモをくれます。このサツマイモ、シマさんとくらして初めて食べましたが、おいしいですよね。時々肉も食べたくなりますが、サツマイモも好きですよ。基本的になんでも好きなんですがね。犬も大人になると嗜好が変わるのかもしれませんね。堤防にはサクラの木が植わっています。ボクがシマさんちに来た時には満開でしたが、もう散ってだいぶ葉っぱになってしまいました。あっ、ほら、毛虫もいますね。


ある朝、シマさんはボクにごはんをくれませんでした。ちぇ。ひょっとして忘れてるのかな、と台所に行って、シマさんを前肢でツンツンしてみました。だってほらシマさんて忘れっぽいでしょ。いつもなんか探してるし。

「ゴルコさん、すいませんが、今日は朝ご飯はなしです。かわいそうなので私も断食してみますね。あっ、きたきた、木村さんだ。」

ボクは玄関にキムラさんをお出迎えにいったよ。クンクン、今日もゴローの臭いがするね。キムラさん。)

キムラさんはいつもボクのあたまをパンパンと叩いてくれます。へへっ。

「おはようございます。北濱さん。おはよう、ゴルゴ・あいかわらず笑ってるねぇ」

「木村さん、いつもすいませんねぇ。帰りは散歩がてらゆっくり歩いて帰ってくるので、動物病院までお願いしますね」

「いいですよ。気にしないでください。それよりゴルコ。今日は注射だぞ。ははっ」

(ん?キムラさん、何かいった?)


そのたてものは変な薬品の臭いがしました。それに犬がたくさんいました。

みんなご主人さまといっしょにそのお部屋で待っています。変な服を着ているシーズーもいます。

私はほら、犬とくらしたことがないので、こういう社交的な場はどちらかというと苦手なんです。だからみんなからちょっと離れたところでお座りです。なんとなく不安なのでシマさんに体をぴったりつけて待っています。サッカーでいうマンマークってやつです。


「北濱さん、どうぞ」

呼ばれました。シマさんにつれられて私も小部屋に入ってみます。

小部屋の中でボクは、診察台と呼ばれる小さな机の上に持ち上げられました。

看護師のおねえさんが一人でボクを持ち上げてくれます。ボク案外スリムなんです。

「17.5kgですね、ちょっと痩せてますね」

それからシマさんは病院の先生たちとなにやら話していました。

ボクは犬なので人間の難しい話はわかりませんし、関心がありません。でも油断してはなりません。雰囲気を読むことはできるんです。話を聞いている間、不穏な空気を感じたので体重を少しだけシマさんに預けていました。


白衣をきた先生がニヤリと笑ったような気がします。嫌な予感。

「はい、ゴルコちゃん。1回だけちょっとチックンね」

お姉さんがボクの前肢を伸ばして、針をさしました。ちょっと痛いですが、痛くないです。そういうのには割と強いんです。泣きませんよ。へたれ犬ではないんです。へへっ。

がんばっていい子にしてたら病院のお姉さんがお菓子を持ってきてくれて顔をたくさんなでてくれました。


シマさんは白衣を着たおじさん先生と難しい話をしています。ボクは先生にみつからないようにこっそり、あくびをします。

「フィラリアという寄生虫がいます」

「フェラリアですか」

「おしい、フィラリアです。心臓の中に住んでいる寄生虫です。20cmくらいあるんですよ。蚊でうつるんです。前の飼い主の方が予防されてなかったんですね」

「先生、治ります?」

「治すよりも、予防だけで大丈夫だと思いますよ。今日はまずは予防接種しましょう。それから1ヶ月に1回、お薬を飲ませてくださいね」


さっき“1回だけ”って言ったのに、もう1回ちっくんされました。ボクは犬ですが関心のあることだけは言葉わかるんですよ。でも終わったあとにシマさんがもってきていたお芋をくれました。


シマさんはおうちでお華を教えています。お花をかざるアレです。ボクはお花の見た目には興味ないですが、臭いには興味があります。華とは見た目だけで楽しむものではないです。人間に教えてあげたいな。ボクは分別ある犬なのでお稽古のじゃまはしません。隣の部屋で待ってます。時間をつぶすのは得意なんです。お稽古の時間が終わると生徒のみんな、ボクがいる部屋にやってきてお茶をします。お茶をしながらボクに興味のない話をします。でもみんなボクに触りたがります。キクヨさんはシマさんと同じくらいの年で、いつも口を押さえて笑います。キクヨさんはシマさんと仲良しで、お稽古のない日もしょっちゅうウチに遊びにきます。ときどきボクのためにお芋も持ってきてくれます。へへっ、キクヨさんありがとう。キクヨさんはいつもネコの匂いがするので、クンクンしてしまいます。


ある日の午後、キクヨさんはケージをもって現れました。キクヨさんがいつ出現するかシマさんにもわからないようです。

「シマちゃん、旅行の間、トラキチをよろしくね」

「私、ネコ、初めてなのよね。ちゃんとできるかしら?」

「ネコなんて、ご飯あげて、トイレ掃除してあげれば大丈夫だから。ゴルコよりもぜんぜん手がかからないわよ」

いやいや、わたしも相当手がかからないタイプですよ。


トラキチとの同居がはじまりました。トラキチは机の上とか高いところに登ってこちらを見下ろしています。とりあえず挨拶からだよね。

「こんにちは」

机の上にいるトラキチに首を伸ばしてくんくん匂いを嗅いでみることにします。

「シャー、ウー」

おっ、びっくりした。おこられちゃった。トラキチ恐ぇー。触らないでおこう。


夜、ふと気がつくとお腹があったかいです。ちょっと重い。見て見るとそこにはなんとトラキチが寝ていました。すやすや。えっ、さっき怒ってたじゃない。ネコって自由だね。ボクは少しだけトラキチの臭いを嗅いでみました。ふーん、これがトラキチ臭か。キクヨさんの臭いもするね。まあ、ちょっと重いけどあったかいしこのまま寝ちゃおう。


それから3日間、トラキチといっしょに寝てだいぶ仲良しになりました。フッーて言われなくなったし。

4日目、キクヨさんがトラキチを迎えに来たよ。ボクにもお土産、と言って噛むとプウって鳴るおもちゃを持ってきてくれたよ。でもトラキチは尻尾もふらずにケージに入って何もいわずに帰っていっちゃった。ネコってクールだよねぇ。


そんなこんなで、シマさんとの暮らしは楽しく過ぎていったよ。友達もたくさん来るし、みんなでボクをかまってくれるし。へへっ。

でも最近、シマさんの歩くスピードが前よりずっとゆっくりになっちゃったよ。ときどき散歩に連れて行ってくれない日もあるし。

「ゴルコごめんぇ。今日はちょっと休むね」

そんな日はトイレだけ済ませて早く家に帰ってくるんだ。シマさん年だから無理しないでくださいね。

ある日、ボクがキムラさんに買ってもらった骨のおやつをかじりながら縁側でひなたぼっこをしていると、台所で大きな音がしたよ。見に行くとシマさんが倒れてたんだ。ぼくは一生懸命顔を舐めて、前肢でツンツンしてみたけど、シマさんは全然起きないんだ。

シマさん起きてよ。ボクは、どうすればいいかわからなかったけど、とりあえずキムラさんちにいって、力一杯吠えてみたよ。

(キムラさん出てきて!)

ゴローさんもいっしょに吠えてくれたよ。で木村をつれてシマさんのところへいったんだ。

そのうち、ピーポーっていう変な声でなく車が来て、小さいシマさんを運んで行ってくれたよ。キクヨさんもいっしょに行ってくれた。車がいっちゃった後、ボクは心細くなってキムラさんを見上げてみたよ。キムラさんはいつもみたいにボクの頭をポンポンと叩いてくれたよ。

「ゴルコ。いい子にしてような」

ボクはへへっと笑ってみせる。


3日くらいして、シマさんがもどってきたよ。ボクはうれしくて尻尾を立ててフリフリして小躍りしながらお出迎えさ。

シマさんもしゃがんでいつもみたいにボクの顔をくしゃくしゃってなでてくれた。


その夜シマさんのところでボクもいっしに寝たよ。シマさん、シマさんって小さいね。ボクはこっそりシマさんの顔を舐めてみたよ。シマさんのほっぺしょっぱいね。泣いてるの?シマさんはだまってボクの前足をぎゅっと握ってくれたよ。


その日から、シマさんはいろいろと片付けを始めたよ。いろんなものを箱にいれては何か書いてた。ねぇ。どこか行くんですか?ボクも一緒に行きますからね。だってシマさんあまり早く歩けないから、ボクが引っ張っていきますよ。


ある朝、シマさんとボクはいつもどおりお祈りしたよ。でも今日はなんだか長いなぁ。ぼくはこっそり、シマさんを横目でみながらちゃんとシマさんのお祈りが終わるのを隣で待ってたよ。あ、終わった。ごはんいただきます。お祈りが終わるとシマさんは、だんなさんと犬の写真をどこかにもっていって、仏壇のとびらを閉めちゃった。いままで閉めたことないのに。シマさんなんか変だよ。しばらくするとキムラさんがやってきたよ。シマさんはちょっと大きめの荷物を準備してた。キムラさんはシマさんの荷物を車に運んで、シマさんを外でまってるみたい。シマさんもお出かけする準備をしてるみたい。

「ゴルコ、しばらく留守にするからね。ごはんはキクヨさんと木村さんがくれるからね。あなたのことは大丈夫だから、心配しないでね」

そういうとシマさんはいつもより激しくボクの顔をくちゃくちゃに撫でてくれたよ。でも何か変だなぁ。シマさん泣いてるの?ボクはいつもみたいに尻尾を立ててフリフリしながらシマさんを車まで見送ったよ。


次の日から、キムラさんとキクヨさんが交代でごはんと散歩にきてくれた。でもシマさんがいないので退屈だなぁ。散歩の途中で木村さんがボクに話かけてくれたよ。

「シマさん、手術を受けたんだって。でも調子悪いみたいだよ。元気で帰ってきてくれるといいけどなぁ。」ぼくは犬なので言葉がわかりません。なのでへへって笑ってみたよ。でも本当は話の雰囲気はわかるんですよ。


それからしばらく、退屈な日がつづいたよ。お茶もお芋もなし。

ある日、久しぶりにたくさんの人がやってきた。みんな黒い服を着てる。ボクはちょっとうれしくなっていらっしゃいって出迎えたけど、みんな喜ばない。少しだけボクの頭をなでてくれるだけだ。そうこうしてるうちにシマさんは帰ってきた。キムラさんがボクをシマさんのところへ連れて行ってくれる。小さなシマさんなのに大きな木の箱に入って寝てる。シマさんそんなとこに入ってないでボクの顔をくちゃくちゃに撫でてください。ボクはなんだかよくわからないので、シマさんの入った箱の横に伏せて、シマさんが起きるのを待つことにしました。まわりのみんなはなぜだか泣いていました。やがて、男の人たちがみんなでシマさんの入った箱を持ち上げてどこかへ運んでいってしまいました。ボクも一応みんなのあとについて行きましたが、キムラさんが途中でボクを止めました。

「ゴルコ、ここまでにしよう」

シマさんは黒い車に乗ってどこかに行ってしまいました。キムラさん、シマさんはいつ帰ってくるのでしょうか?ボクはキムラさんを見上げました。


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