タカシさん
(もう、がまんできません。はい、ここでしてはダメなことはわかっています。でも、我慢できないんです。だって他にトイレもないし。あー、でも怒られる。あー、でも
もう、無理です。すいません。)
「こら、ゴルコ、あれほど言ったのに、またか!このバカ犬」
すいません。もうしません。痛いです、ひー、ぶたないでください。
「お前ってやつは!」
「ちょ、ちょっと、もういいんじゃない、だって帰ってくるの遅くて散歩行ってないんだし」
「いや、体でおぼえさせなきゃダメだ。これで何回目だ?」
(ひー、痛いです。すいません。すいません。)
ボクはゴルコと呼ばれています。ボクは自分のことをボクといっていますが、女の子です。今日もまたそそうをして、タカシさんに叱られてしまいました。みなさん知ってますか?お部屋でお漏らししてはダメなんですよ。ボクはわかっているのですが、うまくガマンできないんです。朝、タカシさんにトイレに連れてってもらって、ずーっと、ずっとガマンしているんですが、タカシさんの帰りが遅いとどうしてもガマンできなくなっちゃうんです。タカシさんが怒るのも無理ないです。タカシさんが部屋でトイレのおもらししているところなんて見たことないし。タカシさんはちゃんとガマンできているのに申し訳ないです。
「決めたよ。もう、こいつと暮らすのは無理だ。来週保健所に行ってくる」
「タカシ、ダメだよ。そんなことをしたらゴルコ殺されちゃうんでしょ」
「だってしょうがないじゃないかぁ。オレ、夜遅いし。疲れて帰ってきたらコイツ、部屋をシッコまみれにしてるんだぜ。そうだ、だったらその時、お前呼んでやるから掃除しといてくれる?」
「そんな。だってコレってタカシが以前付き合ってた彼女からもらった犬でしょ、無理」
「そらみろ、結局、オレが全部しなきゃいけないんだから、オレが決めるさ」
ボクは犬なので人間のコトバはわかりません。でも怒ってるな、笑ってるな、泣いてるな、っていう感じはわかります。タカシさんは最近特に怒っていることが多いです。カルシウム足りないのかな。ボクのゴハンカルシウム強化しているから分けてあげるのに・・・新しく来たミカさんはボクにはあまり関心ないみたい。ボクはだいたい一日中窓際でボーとして過ごしています。
「ゴルコ、喰え!」
今日は、タカシさんが優しいです。いつもはカルシウム強化のアレ(ドライフード)を食べているのですが、今日は新しいカンヅメをあけてくれました。ゴージャス!
「これが、最後のメシになるかもしれんからな、しっかり喰っとけ」
もちろん、言われなくても食べますよ。あ、人間の言葉のうち、ごはん、めし、よし、サンポなどの言葉はちゃんとわかるんですよ。えらいでしょ。へへっ。タカシさんはごはんを食べているボクをじっと見つめていました。で、ごはんを食べているボクの頭をポンポンと軽く叩きました。今日はやさしいね。
「ゴルコ来い!」ごはんを食べ終わると
タカシさんはいつの間にか着替えていました。手にカギを持っています。そのカギは車ですね。ひょっとしてドライブですか?久しぶりですね。
「へへっ!」ぼくは笑ってタカシさんのあとを追いかけました。
(タカシさん。じゃあ、車に乗りますね。あっ、タカシさんの隣ではなくてこっちですか。後ろの方の席ですね。ちょっと暗くて息苦しいですが、大丈夫です。こう見えても忍耐には自信があるのです。今日はどこに行きましょうか?以前連れて行っていただいた海なんて所どうですか?あそこのお水はしょっぱくて飲めませんが、泳ぎたい放題でしたよ。私こう見えても犬かき得意ですから、今日も張り切って泳いじゃいますよ。さぁ、行きましょう。)