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僕たちは車を降りると、そのドーム型の建物に近づいていった。建物はこぢんまりとしたもので、ふたりが寝泊まりするのがやっとというくらいの大きさのものだった。建物の中央にドアがあり、僕はそのドアをあけようとして、ドアのノブに手をかけた。でも、その瞬間、
「待って!」
と、鈴が鋭い声で僕を制止した。
「なに?」
僕は鈴の言葉に軽く驚いて、後ろを振り向いた。僕の後ろに続いていた鈴はいつの間にか、さっき猫に似た生物を殺すのに使ったと思われる、銀色の銃のようなものを手に持っていた。
「何か危険なの?」
と、僕は訊ねた。でも、鈴は僕のその問いには答えずに、僕の身体を軽く突き飛ばすと、僕よりも先に部屋のなかに入っていった。そしてしばらくしてから鈴は建物のなから顔を出すと、
「もう入ってもいいわよ」
と、ぶっきらぼうな口調で言った。でも、鈴のその顔に浮かんでいる表情はさっきまでに比べていくらかリラックスしているようにも思えた。
「何があったの?」
と、僕は鈴に続いて部屋のなかに入っていきながら、説明を求めた。
建物のなかに入ると、飾り気のないベッドがふたつあった。黒のパイプベッドがふたつ。ベッドの向こう側には小さなキッチンと浴室があった。部屋の広さは十六畳くらいもので、狭すぎず、広すぎといった感じだ。全体的に無機質な印象を受ける部屋で、壁は鉄筋コンクリートがむき出しだった。その無骨な感じはデザイナーハウスのようにも見えたし、逆に、ただの廃墟か独房のようにも見えた。鈴はキッチン近くのベッド足を組んで腰を下ろすと、僕の顔を見た。手にはまださっきの拳銃らしきものが握られていた。
「たぶん、大丈夫だとは思ったんだけど、一応確認しておく必要があったのよ」
と、鈴はまだ立っている僕の顔を見上げると、いくらか面倒くさそうな口調で言った。
「確認する?」
僕は鈴の言っていることの意味がよく飲み込めなくて繰り返した。それから、僕もとりあえずという感じで、鈴が座っているベッドの反対側にある、つまり、入り口側のベッドに腰掛けた。
「たまに、建物のなかに、さっきみたいな変な生き物が潜んでたりすることがあるから」
僕は鈴の言葉に軽く動揺して周囲を見回した。
「もう大丈夫よ」
と、鈴は警戒をしている僕の顔をなんだか眠たそうな顔で一瞥すると言った。
「さっき確認したから。もう大丈夫。」
「そ、そうなんだ」
と、僕は鈴の科白にそれでもまだいくらか緊張しながら頷いた。
「それに見たところ、先客もいないみたいだし」
鈴は部屋の奥の方に眼差しを向けながら言った。
「先客?」
と、僕はまた意味がわからなくて聞き返した。鈴は部屋の方に向けていた顔をまた僕の顔に戻すと、つまらなさそうな顔で頷いた。
「たまに、わたしたちよりもさきにこの施設を利用してるひとがいる場合があるの。もしそうだった場合、急にドアを開けたりすると、敵かと思われて攻撃されちゃったりすることがあるし、だから危険なのよ。不用意にドアを開けたりするのは……まあ、今回の場合は大丈夫だろうとは思ったんだけど、でも、一応ね」
僕は鈴の科白に曖昧に相槌を打った。そして、少し間をあけてから、
「でも、さっきから聞いていると、どうもこの世界には僕たち以外にも何人かひとがいるみたいだね?」
と、気になったことを訊ねてみた。
「てっきり、この世界に紛れ込んでしまったのは僕たちだけなのかと思ってたけど」
僕の科白に、鈴は黙って首を振った。
「わたしたちの他にも、この世界に迷い込んでしまったひとたちはたくさんいるわよ」
と、鈴は当然の事実を告げるように淡々とした口調で告げた。僕は鈴の言葉が意外過ぎたので、驚いて目を見開いた。
「わたしが知っているだけでも、あなた以外に、五人のひとがいた……そのうちの何人かは化け物に襲われて死んじゃったけど……」
と、鈴は少し小さな声で言った。