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the tower  作者: 上原直也
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4


 夜を迎えるまでにチェックポイントに辿りつかなきゃいけないの、と、鈴は言い、僕は鈴の言っていることの意味がよくわからないままに、彼女が運転するジープに乗り込んだ。


 舗装されてない道を進むので、僕たちの乗っているジープの車内は激しく揺れた。僕は酔いそうになってしまったけれど、鈴は慣れた様子で、平然とした顔で車のハンドルを握っていた。


「鈴原さん」

 と、僕は運転している鈴に話しかけた。

「鈴でいいわよ」

 と、鈴は僕の方は見ずに、面倒くさそうな口調で言った。


「り、りん」

 と、僕はいくらかぎこちなく彼女の名前を呼んだ。

「何?」 

 と、鈴は言って、ちらりと僕の顔を見て、また前方に顔を戻した。


「その、さっき言っていたチェックポイントってなに?」


 僕の問いに、鈴はしかめっ面を浮かべた。


「どう説明したらいいのかわからいなんだけど」

 と、鈴は軽く口籠ってから説明をはじめた。


「わたしが想像するに、このわたしたちがいる世界は、地球とは違う異世界なの。そう考えないと理解できないことがあまりも多すぎるから」

 鈴はそこで言葉を区切った。


「それで、この奇妙な世界には様々なルールというか、法則があって、といってもまだわたしにもわからないことばかりなんだけど……とにかく、ルールがあって、それで、夜は、特に、この世界は危険になるの。さっきの猫みたいな顔をした、頭がふたつあるような、変な生き物みたいなのがうようよ出で来るし、本当に命がいくらあってもたりないくらい。


 で、そういった危険な生物から身を守るためには、まだ日があるうちにチェックポイント……チェックポイントっていうのは、わたしたちが勝手にそう呼んでいるだけなんだけど、とにかく、暗くならないうちにそこに辿りついておく必要があるの。


 チェックポイントは等間隔に配置されていて、それは宿泊施設なの。誰がいつ作ったのか、何故そんなものがあるのかはわからないんだけど、等間隔に、簡単な寝泊りできる、施設が配置されていて、とりあえずそこに辿りつくことができれば、夜に徘徊をはじめる生物から身を守ることができるの。そしてそこに行けば、一体誰が、いつ、用意しているのか、これもまたわからないんだけど、わたしたちが食べることのできる食料品なんかも手に入れることができるの。それに、びっくりすると思うと、その施設ではちゃんとお湯が出るお風呂もあるし、電気なんかもあったりするの」


「……」

 僕は鈴の説明に腕組みして首を傾げた。

「どうもわからないな。なんでそんなものがあるんだろう?お湯が出るお風呂とか、食料とか、今の、現状とはおおよそかけ離れたものだと思うけど」


「だから、それはわたしにもわからないのよ」

 と、鈴は若干苛立ったような口調で言った。

「何がどうなってそうなっているのかはわらかいなの。でも、とにかく、それはあって、利用することが可能なの」


「ふうん」

 と、僕は肯いた。

「でも、そんな便利なものがあるんだったら良いね。なんだったら、ずっとその施設のなかにいればいいんだ。そうすれば、得たいの知れない生物に襲われる危険もないし、快適に過ごすことができるし」


「ところが、そういうわけにもいかないのよ」

 と、鈴は軽く眉根を寄せて難しい顔をした。


「なかにある食料品は限られているし、その施設に数日滞在すると、匂いでもあるのか、気持ちの悪い生物が一杯集まってきちゃうの。そしてある限度を超えて、その施設のなかにいたままでいると、その施設のなかにいたとしても、生物に襲われて死んでしまうことになるのよ。だから、ある一定の期間以上、そこに滞在するわけにはいかないの。死にたくなかったら、嫌でもその施設から出て、また次の施設まで移動しなきゃいけない」


「……まるで何かのゲームみたいなだね。何かのゲームに強制的に参加させられているみたいだな」

 僕は強張った笑みを浮かべて言った。


「……そうね、ゲームみたいなものかもしれない」

 と、僕の科白に、鈴は真顔で肯いた。


「ところで、たとえばなんだけど」

 と、僕はふと思いついて口を開いた。鈴は何?というようにちらりと僕の顔に視線を走らせると、また視線をもとに戻した。


「こういうのはどうなのかな?たとえば次のチェックポイントで数日滞在したあと、今度はもといたチェックポイントに戻るっていうのは?そうすれば、ずっと同じ場所に滞在することにはならないし、安全な気もするんだけど」


「残念ながら、そういうわけにもいかないのよ」

 と、鈴は憐れむような顔で僕を見た。

「まず第一にもとのチェックポイントに戻ってもそこには食料品は残っていなし、一度滞在した場所にはわたしたちの匂いが残っているのか、かなりの数の危険な生物が集まるようになっているし……それに一番恐ろしいところが、場合によっては、かつてあったはずのチェックポイントが、戻ってみると、そこになくなっていたりするところなのよ」


「無くなってる?」

 僕は鈴の言った言葉が信じられなくて小さな声で反芻した。そして鈴の顔を見ると、

「どうして?」

 と、訊ねてみた。


「建物がなくなったりするなんて意味がわらないよ。時間が経つとその施設は自動的に壊れるようになっているの?それとも、建物が移動したりとか?」


「恐らく、後者ね。……わたしが実際に体験したわけじゃないんだけど……正美さんが言ってた……チェックポイントは移動するって」


「正美さん?」

 僕は怪訝に思って訊ねた。でも、その僕の言葉を遮るように、

「着いたわ」

 と、言って、鈴は車を停車させた。前方に視線を向けてみると、ドーム型の白い建物があった。建物にはNO66という番号が書かれていた。


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