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the tower  作者: 上原直也
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 気がつくと、犬の鳴き声のような音が聞こえた。閉じていた目を開くと、今見えている視界からやや下の位置に、黒い、その体毛に赤い斑点模様のある、大型犬くらいの大きさの、奇妙な生物がいた。


 奇妙だと感じる一番の要因は、まず頭がふたつあるというところで、想像上の生物のように、その生物には頭がふたつあった。顔は猫に似ているのだけれど、でも、まるっきり猫に似ているというわけではなく、その口は耳元まで大きく裂け、目玉は蛙のように丸く大きく、耳は本来の位置よりも下の位置に、たとえば人間や猿等と同じような箇所に、やや、大きな、尖った形をしたものがあった。


 僕はこれまでこんな生物を見たことがなかった。というより、ここはどこなのだろう、と、僕はわけがわからなかった。どうして僕はこんなところにいるのだろう。それに、さっきから身体がしめつけられているような苦しさがあった。それで、ふと自分の身体に視線を向けてみると、どういうわけか、僕の身体は木の幹にロープできつく縛り付けられていた。僕が縛り付けられている木の下は草原になっていて、見渡す限りその草原がどこまでも続いていた。僕は一瞬パニック陥った。なんなんだ、これは、と、僕は焦った。一体何がどうなっているのだろうと僕は激しく混乱した。

 

 落ち着け。僕は自分に言い聞かせた。思い出すんだ、と、僕はなんとか前後の関係を把握しようと努めた。こんなふうになる前、僕は一体何をしていたんだっけ?少し考えてから、ようやく思い出した。そうだ、僕はいつものように会社に出勤しようと思って、アパートのドアを開けたのだ。それからエレベーターの呼び出しボタンを押し、やがてやってきたエレベーターに乗り込んだ。すると、普段は感じることのない、何かの薬品のような匂いを感じた。そしてそう思った瞬間、突然、頭が割れるように痛み出したのだ。それと同時に目眩を感じて、僕はその場に蹲り、意識を失ってしまった。それから、目を覚ますと、こんなわけのわからない状況に陥っていしまっていたのだ。


 そもそも、これは現実なのだろうか?僕はまずそのことを疑ってみた。非常にリアルな夢を見ている可能性もあった。たとえば、僕はあのあと、エレベーターのなかで意識を失ったあと、どこかの緊急病院に搬送されて、そこで夢を見ているとか。常識的に考えて、その可能性が一番高いように思えた。でも、その一方で、僕の本能が、そうではない、と、強く警告した。これはちゃんとした、ほんものの世界なのだ、と、僕の直感が告げていた。


 でも、確かに、夢にしてはあらゆる感覚がいやにくっきりとしすぎていると思った。さっきから足下で吠え立てている、奇妙な生物の鳴き声。身体をしつめけているロープの感触。吹き渡る少し冷たいような風。頭上で揺れる木々の葉のざわめき。足下に生えている草の匂い。


 一体何がどうなってこうなったのか、全く理解することができなかったけれど、でも、僕はこれは現実なのだ、と、一旦考えることにした。これが悪い夢であってくくれば何も言う事はないのだけれど、と、思いながら。


 足下の奇妙の生物は、飽きもせずに、まだ僕に向かって激しく吠え立てていた。でも、どうやら僕が縛り付けられている木のところまでは上ってくることができないようで、とりあえず彼に襲われる危険性は今のところなさそうだった。しかし、そうは言っても、いつまでもこのまま木に縛り付けられているというわけにもいかなかった。ロープが身体にきつく食い込んで痛みはじめていたし、喉も乾き始めていた。このまま誰も助けにきてくれなければ、頭がふたつある、奇妙な生物に食われるということないにしても、餓死してしまうだろうと僕は不安になった。僕はなんとかしなければと焦った。でも、いかんせん、僕はこの状況から抜け出す術を持たなかった。


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