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プレイする気はありません  作者: 五十鈴スミレ
春、花いまだ開かず
9/48

09:ゴールデンウィークイベント成功



「……どこに行きたいの?」


 閉じた本を学習机の本棚にしまいながら問いかける。

 行くにしろ行かないにしろ、話が終わるまではもう本は読めそうにない。

 とりあえず予定を聞いてから、どうするか決めよう。

 そう考えている時点で、すでに季人の術中にはまっている気もしたけれど。


「数駅先に新しくできたショッピングモールに行こ。昼ご飯は奢るし、服の一着くらいは買ってあげるよ」

「何それ、いたれりつくせりすぎて怖い」


 思わず私は本音を言ってしまった。

 いくら季人がシスコン気味でも、そこまで過剰じゃなかったはずだ。

 何かしてあげたわけでもないのに、奢られたり貢がれたりするのはちょっと変じゃないだろうか。

 いや、まあたしかに季人は私に甘すぎるくらいに甘いけど。

 従妹にこんな甘いなら、恋人にはどんだけゲロ甘なんだって思うくらいに甘いけど。

 欲しがるだけおもちゃを買い与えるダメ親のような甘やかし方ではなかった、と思う。


「ぶっちゃけると、そういうイベントがあるから、一応再現しておこうと思って」


 イベント? 再現?

 どういうことだろうか。季人はサポートキャラのはずなのに。

 疑問が顔に出ていたのか、あのね、と季人は説明し始める。


「ゴールデンウィークに誰ともデートに行かない場合に起きる、残念賞みたいなボーナスイベントだよ。シスコンの従兄から服を一着買ってもらえるんだ。もちろんその服はその後デートに着ていくこともできる」


 なるほど、さすがはサポートキャラクター。

 情報を教えてくれる以外にもサポートしてくれるなんて、優秀だ。

 『恋花』では毎月お小遣いをもらう。それにプラスで、バイトをしていればバイト代も入る。

 そのお金で攻略対象好みの服を買ったりするらしい。デートのために。

 それが、ゴールデンウィークに誰ともデートしないだけでただでもらえるなら、私とは違って攻略する気満々なプレイヤーでも、ゴールデンウィークは予定をあけておくんじゃないだろうか。

 どちらのほうが効率的なのかは、『恋花』どころか乙女ゲームと呼ばれるものをプレイしたことのない私にはわからない。


「デートなんて、行く予定ないんだけど」

「俺と出かけるときに着て見せてよ。たまには着飾った咲姫も見てみたいな」

「シスコンめ……」


 私は季人にじとーっとした目を向ける。

 子どもの晴れ着に、子ども以上にはしゃぐ親みたいだ。

 もう高校生にもなると、季人の甘やかし方は恥ずかしいものがある。

 猫かわいがりされて素直に喜べる時期は、とっくの昔に終わっているのだ。


「そのショッピングモール、オムライス専門店が入ってるらしいんだけど、気にならない? デザートにプリンをつけてもいいよ」


 うぐ、と私は声をつまらせた。

 さすが季人。しっかりツボを押さえてくる。

 私は卵料理に目がない。コレステロール的に一日二つまでというのが我慢できないくらい、卵が好きだ。

 特に好きな卵料理はオムライスと親子丼とだし巻き玉子と茶碗蒸し。デザートではプリン。ミルクセーキなんかも好き。

 オムライス専門店なんて言われたら、ぐらついてしまうではないか。


「で、どうする?」


 私の答えはわかっているとばかりに、季人はにっこりと笑みを見せる。

 ぐぬぬ、悔しい。悔しいけれど完敗だ。

 オムライスのためならばいさぎよく負けを認めよう。


「従妹に貢ぎたいシスコン季人のために、お供させていただきます」


 ちょっと偉そうな言い方になってしまったのは、性格上しょうがないということにしておく。

 私の口ぶりに、季人は苦笑をこぼした。


「むしろお供するのは俺だけどね」


 イベント的にはたしかにそうなのかもしれない。何しろ私はプレイヤーキャラらしいから。

 でも奢ってもらうのはこっちなわけで。

 気分的には私がつき従うほうだ。


「ついでに本屋も寄ろうよ。大きなとこなら、季人の好きな作家さんの新刊もあったりして」

「咲姫の好きな作家の本もね」


 立ち上がりながらの私の言葉に、季人はわかっているとばかりに返してくる。

 お互い本好きなものだから、服とかよりもそっちがメインになりそうな気がする。

 昔からの親戚付き合いで、この周辺の有名スポットならたいていは行ったことがあるけれど、ショッピングモールは少し遠いし、できて一年くらいだからまだ行ったことがない。

 そう考えると、少し楽しみになってきた。

 オムライスもプリンも待っているしね。


 出かけるなら、部屋着から着替えなくては。

 シッシッと手を振ると、下で待ってると言い残して季人は部屋から出て行った。

 オシャレなんてするつもりはないし、そんな服も持っていない。

 季人と出かけるのにオシャレなんて、おかしすぎる。

 でも、そうだなぁ。

 誕生日にもらったペンダントは、つけていこうかな。




 ショッピングモールは休日だから人が多かった。

 でも、季人が先導してくれたおかげで、そこまで疲れたり人酔いしたりということはなかった。


 オムライス専門店は、いろんなオムライスがあるだけじゃなくて、中のライスも数種類の中から選べるという、オムライス好きにはたまらないシステムだった。

 私は鶏肉のクリームソースオムライスにして、中のライスはバターライス。

 季人はグラタンソースオムライスにして、中のライスはケチャップライス。

 どっちもすごくおいしかった。なんで知っているかというと、一口ずつ交換したから。季人と食べに行ったときはいつものことだ。

 デザートのプリンはミニパフェみたいになっていて、プリン自体はもちろん、アイスもフルーツもおいしかった。

 季人はブラウニーを頼んで、添えてあったいちごは私がもらった。季人はいちごが嫌いだからね。もったいない。


 買い物はほとんどウィンドウショッピングだったけど、伯母さんから頼まれたものをいくつか買ったり、服も少しだけ買った。

 季人に買ってもらったのは、私が選ぶよりも少し甘めなデザインの膝丈のワンピース。

 生成りという色といい、胸元のくるみボタンといい、どこか素朴な愛らしさを感じる。

 襟元と裾を飾るひかえめなレース使いは、かわいいけれどうるさくはない絶妙なバランスをたもっている。

 自分で着るのは違和感があるけど、好みから外れているわけじゃない。

 やっぱり季人は私のことをよくわかっているな、と思った。

 色合いもデザインも、誕生日に伯父さん伯母さんに買ってもらったカーディガンとも合わせられそうだ。

 似合うんだろうか、という疑問は、考えないことにした。

 着るときはこの下にジーパンかレギンスを履くよ、と言ったら、季人は残念そうな顔をした。

 従妹の足なんて見てもおもしろくもなんともないだろうに。


 ショッピングモールには大きな本屋も入っていて、そこで二人とも本を買った。新刊ゲットだぜ。

 奢ってもらったお返しにと、季人の買おうとした本は私がプレゼントした。

 その文庫本は私の食べたオムライスよりも安かったけど、季人は「ありがとう」と本当にうれしそうに受け取ってくれた。

 ……恋人ができたら際限なく貢ぎそうで、従妹としては心配になるんだけどもね、オニーチャンよ。



 そんなふうに、ゴールデンウィークは特に問題もなく過ぎていった。







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