テルパノの空
翼が痛んで仕方ない。
俺は、小さく溜息をついた。
こいつは作りがあまりよくない。
接合部に要らない力が掛かって、風を受けるたびに背筋が痛む。
ガス惑星の中で作業するのに、翼は欠かせない。
もうちょっと大手の社員なら、もっといい奴を支給してもらえるんだろうが、
うちじゃこいつが関の山だ。
「いいじゃねえか、おめぇらは」
横に座った男が、合わせたように溜息をつく。
「痛かろうが、翼がやられても替えりゃ済むんだろ」
男の片翼は、真ん中でぱっきりと圧し折れていた。
自前の翼だ。巻かれた包帯と滲んだ血が、痛々しい。
「翼鼠族は、そこがしんどいな」
凝った肩を鳴らしながら、俺は男の細い肩をちらりと見た。
テルパノ。
この惑星と同じ名で呼ばれる先住民。
俺達よりずっと上手く飛べ、翼も与えなくていいとくれば、
作業員の働き口には事欠かない。
何度も食いっぱぐれたのを思い出すと、正直羨ましくなる。
その代わり、奴らはしょっちゅう翼を折る。
無理もない。生きた翼を、質の悪い機翼と同じくらいこき使われるんだ。
こいつの後輩は翼どころか、肩を壊した。
翼鼠族の肩は、風を切るためにあるんであって、
重い石結晶を持ち上げるためにあるんじゃないんだ、とこぼしていたか。
「互いに大変だな」
俺が言えば。
「全くだ」
男が、肩を落として答えた。
遠くで、作業車がジェットを吹かして出ていく音が、重く辺りに響く。
ひび割れた灰色の壁に、薄暗い灯りに揺れる俺達の影が映っていた。