【悪魔の脚本】『続・冬の悪魔』
前作(未完)のその後の話です。
昔々世界を四人の神様が旅をして、季節を運んでいました。その頃の世界と言えば……神様が留まる国はその間その季節が訪れるようになっていました。
けれどみんな、花が咲き誇る春と、美味しい食べ物が実る収穫の秋ばかり欲しがって……夏の神様と冬の神様はみんなに嫌われていました。
「だって夏の神様は食べ物を腐らせるわ。温かな日差しはいろんな物を腐らせて……病気だって運んで来る」
「だって冬の神様は人を遭難させて凍えさせるわ。雪で悩まされるのは本当に懲り懲りよ」
人々は夏の神様と冬の神様を何時からか、悪魔と呼ぶようになりました。
二人がそう呼ばれるようになってしばらく……春と秋の女神は気に入った国を見つけて、旅を止めてしまいます。そうなった世界は夏と冬で半分こ。半年ずつに南半球、北半球を悪魔達は交換して支配しました。
けれど二人の悪魔はそれで納得できず、世界をすべて自分の物にしようと争いました。それを見かねた神様が、四人の旅人神から永遠の命を奪って、一年の四分の一しか生きられないようにしてしまいました。
世界の仕組みが変わった後、万年雪の積もる白の森で生まれた冬の悪魔。今度の悪魔は雪みたいに綺麗で可愛い女の子。何も知らないその無垢で真っ新な少女は、自分の森の中で遭難している男の子を見つけました。
「君、どうして寝ているの?」
男の子は目覚めません。寒さで凍えているのです。
「うーん……困ったなぁ」
冬の悪魔の手は冷たい氷の温度。その手で触れるだけで人を凍らせ殺してしまうのです。悪魔は手を使わずにスコップで彼をソリへと乗せ、村までの道を引っ張ってあげました。
ごとごとと揺れるそりの中……目を覚ました男の子は、この可愛い女の子が天使様か何かだろうと思って、このまま天国に連れて行かれるのだろうと観念しました。しかし男の子は村の入り口まで送られて、そこで冬の悪魔はまた山へ帰って行くのです。
「冬の悪魔は本当はとっても優しいんだ!僕を助けてくれたんだ!」
そうは言っても村人達は彼の話を信じません。
「冬なんてさっさと終わればいいのに。この寒さで何人死んだと思ってるんだ」
「早く春祭りを開きましょう!そうして一日でも早く、新しい春の女神様が生まれることを祈りましょう」
新しい季節の神様が生まれると、古い季節の神様は殺されて死んでしまいます。小さい頃からその話を聞いていた男の子は、一大事だと山へと入り、白の森までやって来ます。
けれど悪魔は、お目付役の雪と北風から、人との接触を避けるよう、きつく叱られてしました。
「いいですか、冬さん。貴女の何代か前の冬の悪魔は、人間の女と恋をしたがために、永遠の命を失ってしまったんです」
「どうして?」
「冬の悪魔はその手で触れれば人間を凍死させますけど、好きになってしまった相手に触れてしまうと身体が溶けて死んでしまうの!」
「だからお嬢さん、あんたは危ないことをしなさんな」
「はーい……」
そうは言ってみたものの、とぼとぼと引き返す男の子が可哀想で、冬の悪魔はこっそりと彼の後をつけました。勿論すぐにばれてしまって、後ろから雪と北風の妖精がやって来て悪魔を窘めますが、悪魔はもう一度だけあの子に会いたいと訴えます。
「あの子、この間山に忘れ物していたの。届けてあげないと」
男の子が落とした手袋を手に、男の子の家を悪魔は探します。その頃村は春祭りの準備で忙しく、皆忙しなく動いていました。
初めて見る人々の暮らしに悪魔は感動しながら見つめていましたが、その中で一つ気になった物がありました。
「ねぇ雪、あれは何?」
村の真ん中。広場に置かれた祭壇の中に飾られた棺。その中に収められている人形を悪魔は指差します。
「冬さん、あれは貴女です」
「私?」
「お嬢さんを模った人形ですね。冬の悪魔は男神が生まれることが多いのでああ言う人形なんでしょう」
冬の厳しさ恐ろしさ、それを模った人形を人々は忌々しげに見つめています。
「はやくこいつを処刑して、春を迎えよう」
冬の悪魔の人形を焼いて殺すことで、春がやってくるのだと人々は思っている風でした。
焼かれたところで悪魔が死ぬわけではないのですが、悪魔は自分がみんなに嫌われていると知り泣きました。
悪魔はなかなか泣きやまず、その日は吹雪が村を襲います。皆寒がって家へと入って出て来ない……そんな中こっそりと、外へ出てきたあの男の子。そうして男の子は棺を開けて、悪魔の人形を抱え走り出しました。
「あの子、どうしたの?」
「人形が殺されたら、お嬢さんが死んでしまうと思ったんでしょうね」
悪魔は何も知らない少年の行動に、心が温かくなりました。
「あの子は私がここにいても、いいと思ってくれているんだ」
嬉しくなった悪魔は彼の前に現れてありがとうと抱き付きました。その時手袋をしていなかった男の子は、冬の悪魔を抱き返し……彼女の身体に素手のまま触れてしまいます。
どんどん身体が溶けていく冬の悪魔。それを見て言い伝えを思い出した少年はボロボロと涙を流します。
自分が触れて悪魔が解けると言うことは、この女の子も自分を好きでいてくれたということだ。それは凄く嬉しいのに、解けて彼女は死んでしまう。
「また、冬の季節は来るよ。その時にまた、仲良くしてね」
最後に残った悪魔の首が、泣きながら微笑むと……少年は嗚咽混じりに頷いて、悪魔にキスを贈りました。その温かさでとうとう悪魔は完全に溶けてなくなって……村を襲う冬の寒さも和らぎ日が照り出しました。
男の子はそれから何度も冬を迎えましたが、同じ冬が彼の元に帰って来ることはありません。彼が年を取ってよぼよぼのおじいさんになるまで彼女は戻りません。その頃には世界の気温が上がって……冬という季節が生まれなくなっていたのです。どれだけ待ってもどれだけ待っても、会えない少女を思いながら……彼は一人寂しく息を引き取りました。
お嫁さんを貰わなかった彼の死に気付いた者がいたのは、春が終わり夏になった頃。けれど夏の暑さも彼を腐らせることはなく、息を引き取った老人の身体は、まるで氷の手に触れらたように、冷たくなっていたそうです。
私は冬が好きな夏生まれの人間です。
地元に帰ると何故か私が帰った日から大雪が降るので雪女呼ばわりされたりします。
でも冬がお帰りって言ってくれているようで何だか少し嬉しくなります。
冬の童話祭って響きを聞いたら冬の悪魔について書かないといけない気がした。
でも前作は執筆中だし、新しく書くか。そんなこんなで書いてみました。