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異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~  作者: 岳鳥翁


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第9話:アリアンヌは魔法を知る

 空から森へと降り、アリアンヌが指さした山に向かって駆ける。


 せっかくの空中浮遊を終わらせることに背中の小さなお姫様はぶつくさと文句を垂れていたが、またやってあげるからと言い聞かせればしぶしぶといった様子で我慢してくれた。


 しかし、魔力で強化した体で森の中を駆け始めると、途端に機嫌を良くしてはしゃぎだした。


「すごいのです! 景色が後ろに流れていくのですよ!」


「舌を噛むから口は閉じてね!」


 わかっているのです! とまるでわかっていない一言を耳元で叫ばれた。


 本当は空を飛んでいきたいのだが、先ほど二人で浮くだけでも実はけっこうギリギリの操作だったのだ。やはりまだ制御には慣れない。二人まとめて飛ぶとなると落ちてしまう危険がある。


 もちろん、落ちたところで防御壁があるのだが、大丈夫だからと言って落ちるのも違うだろう。


 そのため今は、かなりの速度で森の中をパルクールしながら進んでいる。これもすべて魔法あっての事だ。


 前世でパルクールなんてしたことは無かったが、実際にやってみればこんな感じだったのだろうか。なかなかやってみると楽しかったりする。


 空を飛ぶのに比べて時間はかかってしまうが、魔力消費や安定性を考えればこちらの方が良いかもしれない。


「お、よっと!」


 視界の先で体の大きな二足歩行する化け物が見えたため、木を蹴って方向転換。化け物を迂回する形で進んで行く。


「しっかし、昼間でも多いなここ!」


 先ほどのように、進先に化け物がいて迂回することはこれが初めてではない。

 すでにパルクールを始めてから一時間ほど経っているが、その間に十数回ほど同じことが起きていた。


 その全てで、体が大きい化け物と出くわしそうになる。

 もしかしたら、俺が考えている以上にこの森は危険な場所だったのかもしれない。


「まったく、こんな危険地帯に送るなんて……」


「どうしたのですか? ミッチー」


「……いや、何でもないよ。さあ、もう少し急ぐからしっかり掴まってて」


「ほぁっ!?」


 背負ったアリアンヌをしっかり固定し、追い風を起こすことで速度を上げる。


 急に背後から風が吹いたことに驚いた声をあげるアリアンヌだったが、すぐになれてまた楽しそうにはしゃぎだした。


(もし、俺がここにいなかったら)


 ふとそんな可能性を考える。

 もしも、俺が何の不自由もない安全な町の近くに降り立っていたのなら。きっと、この背に乗る命は、誰にも知られることのない場所でその灯を消していたのかもしれない。


 チラリと後ろに視線をやれば、目を閉じてキャーキャー言ってるアリアンヌの姿。そのはしゃぎっぷりは、まるで初めてジェットコースターに乗って楽しんでいる子供そのものだ。


「まぁ、これでよかったんだろうな」


 背後には聞こえない小さな声で零した独り言は、容易くアリアンヌのはしゃいだ声にかき消されるのだった。





 日が暮れる頃には目標だった山の麓に辿り着くことができた俺たちは、夜が明けてから山を越えることにした。


 拠点としての【サークルプロテクト】の結界をいつもより多く五枚程程展開し、すぐに焚火の準備を始める。


 枯れ枝を一カ所に集め、いつもどおり【ファイア】で火を熾すと、アリアンヌはその様子を不思議そうな目で見ていた。


「ん? どうしたの?」


「今、何をしていたのですか?」


 どうやら魔法に興味を持ったらしい。

 指先から、これのことかな? と火を熾して見せるとアリアンヌは「なんなのですかそれは!」とまたしても驚いた様子でそれを見ていた。


「初めて見る?」


「はいなのです! こんな不思議なことができる人はお城にもいなかったのですよ」


 はぁ~! と指先の炎を見つめるその姿に、思考を巡らせる。


 お姫様であるアリアンヌが見たことない、となると魔法使いと言うのは極稀な存在なのかもしれない。


 城住まいであれば魔法使いを集めた戦闘集団とかありそうな気もするが、アリアンヌのようなお姫様であっても情報漏洩を気にして秘匿されているのだろうか。


 もしくは、魔法なんてない可能性?


(……いや、それはないか)


 なんたって、ここは異世界。ファンタジーだ。


 アリアンヌから聞いた話の中にエルフやドワーフ、獣人などの種族があることも知った。なら魔法もあるはず。むしろここまで条件揃ってて魔法がないって、どうなのかという話だ。

 あの神を名乗る老人にしたって、わざわざ俺が魔法の力を望んだのに、それがない世界には転生させないだろう。


 うんうんと自分に言い聞かせていると、アリアンヌが焚火ではなく俺の指先の炎で暖を取っていた。


「こんなちっちゃい火よりも焚火で暖まりなさいな、お姫様」


「はいなのです。あ、ミッチー! またあの人形劇をやってほしいのですよ!」


 地面の上であるにもかかわらずそのまま座ろうとしたため、とりあえず寝袋を出してその上に座らせる。


 さて今日は何の話の再現でもしようかなと考えていると、「あ!」とアリアンヌが声を漏らした。


「ひょっとして、この人形が動くのもミッチーの不思議な力なのですか?」


「あー、うん。そうだな。魔法って言って、基本的にできないことは無いと思うぞ」


「何でもできるのですか! それはすごいのですよ! エイリンにもできないことはあるのです」


 今日何回か耳にしたエイリンと言う名前。よほどアリアンヌからの信頼も厚いのだろう。その言動から、彼女が懐いている様子が目に浮かんでくる。

 騎士だという話だが、改めてどんな人物なのかを聞いてみることにした。


「アリアンヌ。そのエイリンって人はどんな人なんだい?」


「エイリンはすごい騎士なのですよ! 勇者で王国最強なのです! 一番なのです!」


 勇者、王国最強。

 聞けば聞くほど、すごい肩書である。物語なら主人公張れるぞそのエイリンとやら。


 いったいどんな人なのかと考えていると、「あ!」とアリアンヌが声をあげて立ち上がった。


「どうしたんだい?」


「思い出したのです! エイリンもミッチーと同じなのですよ!」


 詳しく話を聞いてみれば、そのエイリンと言う人は手も触れずに、遠くの物を斬ることができるのだそうだ。


 ものを切断する魔法、と言うことなのだろうか。ずいぶんと物騒だが俺もウォータージェットで斬ったりしていたため人の事は言えない。


 まぁでも、魔法を使う人がいるようで安心した。


「さて、それじゃあお姫様の注文通り、今日も人形劇をやろうか。タイトルは……そうだな、三匹の子豚だね」


 このあと、アリアンヌはお城がちゃんとレンガかどうかを心配しながら眠りにつくのだった。


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