第8話:ミッチーとアリアンヌの冒険
「ミッチー! 早く進むのです! わはぁー!」
「はいはい、そんなにはしゃがなくてもわかってますよー」
お互いに名前を名乗ったのがつい昨日の夜の出来事。
あの後、俺が色々と質問する形で聞こうとしたのだが、結論としてはあまり成果が得られなかった。
というのも、アリアンヌと名乗ったこの少女自身も、あまり知っていることが少なかったのである。年齢的に見れば当たり前なのかもしれないが、個人的に何かわかることはないかと期待していただけに、少しばかりがっかりしてしまったのは仕方ないことだと思いたい。
だが、まったく情報が得られなかった、というわけではなかったのは幸いだろう。 その最たる情報が、彼女の身分やその周辺情報についてだった。
聞くところによれば、彼女はアルファ王国と呼ばれる国のお姫様だという。優しくて頼りになる姉が一人いる、というのを聞くに彼女は第二王女という立場なのだろう。お城の外へはあまり出たことがなく、勉強やお稽古やってはいるが、まだまだ知らないことの方が多いらしい。
そしてさらに詳しく聞いたところ、お稽古が嫌になってお庭に出たところで眠くなり、気付けば俺とともに森の中。そのため、今ここがどこで、どちらに行けばそのアルファ王国とやらに着くのかわからないとのこと。
対してその話を聞いた俺は、彼女が高い身分の娘であるという予測が当たっていたことに苦笑を漏らすしかなかった。しかも一国のお姫様ときた。きっと俺の口角は引きつっていたに違いない。
そうして数少ない情報を得た俺であったのだが、聞くこともなくなってお互い黙り込んでしまった際、不安気に焚火の火を見ている彼女を見てついお節介をやいてしまったのだった。
それも、魔力によって創った土人形による人形劇を。
初めて見るのだろうか、途端に目を輝かせて人形の側まで近づいた彼女は終始すごいすごい! やら、どうやってるの!? などはしゃぎながら笑ってくれていた。劇の内容そのもの、というよりも土人形が動いていることに興味が湧いたらしい。
俺は、どうだすごいだろうと調子よく人形を動かし、より劇そのものにも興味を持ってもらえるよう、桃太郎を人形劇で再現。
もっともっととせがまれ、人形での殺陣たてをやったりしているうちに、いつの間にか懐かれた。
あれほど、身分の高い家の人には関わらないと言っておきながらのこの体たらくである。仕方ないんや、子供が相手やったら自然と体が動いてまうんやと心の関西人でで言い訳しつつ、街に着いて彼女の安全を確保でき次第、速やかに隠れることにしようと決めた。
それに聞いている話じゃ、お城の中の生活はあの娘にとって少しばかり息苦しい様子。まぁこんな子供なら、お勉強やお稽古は、自発的にやらない限りは嫌になることもあるだろう。今の間くらい、好きにさせてあげようじゃないか。
チラリと隣を歩くアリアンヌに目をやれば、彼女はニッコニコの笑顔で歩いている。
数時間前までの警戒心MAX少女はどこへ行ったのやら。アリアンヌのチョロさにお兄さんは心配になりそうです。
「ミッチー! あの木の実は食べられるのですか?」
「あー、ちょっと待ってて。……うん、問題ないぞ。ほら」
「ありがとうなのです! ……っ! あまーい! なのですよぉ!」
アリアンヌにせがまれた木の実を毒がないか魔法で調べる。
特に問題がなさそうだったので手渡してやると、アリアンヌは顔をほころばせながら木の実にかぶりついていた。
アリアンヌに続いて俺もその木の実を食す。
見た目はリンゴのような形だが、色は綺麗な橙色。そして味はブドウに近い。おいしいし甘いのだが、違和感がすごいなこれ、と一口食べた後でまじまじとその木の実を観察する。
「おいしかったのです! それに、お城ではこうして食べると怒られるから、今とっても楽しいのですよ!」
「おうおう、それはよかった。まぁ、今は森の中だし、はしゃぐくらいは大丈夫だろうからね。ただちゃんとお家に戻ったら、ご両親の言うことを聞いて大人しくするんだよ?」
「わかっているのです。私も母上と姉さまから怒られたくはないのですよ……」
何かを思い出したのか、ぶるりと身を震わせるアリアンヌ。
よほど怒られることが怖いのだろう。その様子に、俺はあははと苦笑した。
「そんなに怖いのかい?」
「です! 特に姉さまは笑顔なのに目が怒っているのです。この時はいつも味方になってくれるエイリンも助けてくれないのですよ」
エイリンとまた違う名前が出てきた。侍従か何かなのだろうか。
気になるところではあるが、アリアンヌの歩みに合わせている現状、このままだといつまで経ってもこの森から出ることはできないだろう。
そのため、俺はアリアンヌに一つ提案することにした。
「アリアンヌ。少し急ぐから、俺に背負われてくれないか?」
「むぅ……もう少しこの森で遊びたいのですよ?」
「まぁ、気持ちはわからなくはないんだけど、このままだと夜になっても出られないからね。缶詰……君が食べていた食料も無限にあるわけじゃないし、森の中には怖い奴らもいるからさ」
「でも、ミッチーが何とかしてくれるのです」
「あー……俺でも絶対って言いきれないんだ。怖いのはどうにかなるんだけど」
だから頼むよ、とお願いしてみればアリアンヌは仕方ないのですと言って了承してくれた。
バッグを体の前にしてアリアンヌの前に屈むと、見た目通りの軽い体が俺の背中に乗っかった。
「こうやって誰かに乗るのは、小さいころ以来なのです」
「今だって小さいよ?」
「ミッチーは失礼なのですよ。それに、もうすぐ10歳になる立派なレディなのです。もっと小さいころはこうやって、お庭をエイリンに乗っかっていましたのですよ」
そう言って、俺の背中をよじ登ったアリアンヌは、俺の頭に両手を置くとグイと身体を上へと伸ばした。「高いのです!」とはしゃいでいるアリアンヌに断りを入れ、頭に置かれた手を外して彼女を元の位置へ戻す。
「優しい人だったんだな」
「はいなのです! エイリンは優しくて強い、立派な勇者なのですよ!」
「そりゃすごいな! さぁて、それじゃあちゃんと掴まっててね。舌をかまないように、口は閉じておくんだよ」
「はいなのです! エイリンの時と一緒なのですよ!」
力強く肩にしがみつかれたことを確認した俺は、次いで魔力によって身体機能を強化させ、俺とアリアンヌを包むように防御結界をいつも通り三つ展開。
そして勢いよく駆けだせば、俺の体はまるで弾丸のような凄まじい速度で前方へ文字通り『飛んだ』。
予想以上に速度が出たことに驚いたが、自身の動体視力を底上げして対応。目の前まで迫っていた木の幹を足場にし、思いっきり高く飛んだ。
「ほぉぉぉおおおお!! すごいのです! 高いのです!! 向こうの山まで見えるのですよ!」
「わかったから落ち着いてくれ」
背中のアリアンヌが興奮した様子で騒いでいるのを落ち着かせながら、更に魔法を展開。
先日と同じように俺たちを対象として反重力の力場を生成し、宙に留まった。
「う、浮いてるのですうううぅぅぅぅ!?」
「落ちないから大丈夫だよ! さて、アリアンヌ。君がお城にいた時に見たことあるものは何かないかな?」
「え、えーと……っ! あったですよ! あのお山! 尖がっているのをお城の窓から見たことがあるのですよ!」
アリアンヌが背後から指さした方向。その先には、俺がアリアンヌと会う前に見た山脈の一つ。やけに山頂が尖った山があった。
あれだけ特徴的な山であれば確かに記憶には残りやすいのだろう。
「よーし! なら、今日はあの山に向かうぞ! もしかしたら、アリアンヌのいた国が見えるかもしれないぞ!」
「はーい! なのです!」




