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異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~  作者: 岳鳥翁


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第28話:駆けつける勇者

 空高くに陣取った俺は、眼下の男目掛けて魔法を放つ。

 使用する魔法は【マナバレット】と名付けた、魔力を固めただけの弾丸だ。アリアンヌを抱き上げている手は使えないため、片手の五指を銃口に見立てて眼下の男の手足に向けて撃ち込んでいく。


 一発、二発、三発……何発も絶え間なく空から降り注ぐ弾丸の雨は、まるでマシンガンのそれだ。しかし男は、必要最低限の動きで、被弾を最小限に抑えながら地を駆け躱す。


 なにがすごいって、【マナバレット】は【マジックハンド】と同様に見えない魔法なのだ。


 それを躱し続けるとか、あらやだ俺ってエイム悪すぎ? と彼の動きをよく見てみれば、どうやら俺の指先を注視して魔法が撃ち込まれる位置を予測しているらしい。

 勇者とまではいわずとも、彼も十分に化物じみたスペックをしているのだろう。


 というわけで、【マナバレット】の魔法に追尾効果を持たせます。


「グゥッ!? バカな、躱したはず……!?」


 予想外の被弾に驚きの表情を見せる男は、反射的に俺を見上げて顔を顰めた。被弾した彼の脚から血が流れている様子が、【ナイトヴィジョン】を使用している俺にはよく見えている。

 これで先ほどと同じようには動けないだろうと、俺はニッと笑みを浮かべた。


「相手の攻撃が届かない位置からの一方的な攻撃……これこそが魔法。これこそが魔法使いよな! フハハハ!」


「よく見えないのです。でもミッチー、すごく悪い顔をしているのです。ムムム……!」


「真似せんでよろしい。眉間にしわができたら、俺があの勇者に怒られる」


 抱っこされているアリアンヌが、俺の横顔を見て真似ようと目を細めて悪い顔をしようとしていたが、可愛いだけなのでやめるように言っておく。なお、怒られるはアリアンヌに向けた優しい表現であり、意訳すれば殺されるである。


 まぁそんなことはさておいて、だ。

 

 数発の誘導弾が男の脚を撃ち抜いたはずなのだが、男は痛みをこらえながらも、まだ何とか見えない弾に対応しようと足掻いていた。出血もあり、動けなくなるまでは時間の問題ではあるが、あれ以上動いて出血死されても困る。

 なにせあの男には、エイリンたち王国勢による事情聴取という名の時間稼ぎをしてもらわなければならないんだ。できれば、国王様たちが対応に追われている間に、俺はこの国からおさらばバイバイしたい。


「アリアンヌ。ちょっとだけ、ここに乗っていてくれないか?」


 そう言って、俺は滞空するすぐ隣に【ステルスブロック】を設置すると、その場所をポンポンと叩いた。

 一応アリアンヌにもわかりやすいように、大きめのサイズかつ発光して視認可能な特別製である。それを見たアリアンヌは、恐る恐るといった様子で【ステルスブロック】に足を乗せるのだが、大丈夫だと判断すると「お空の上に立ってるのです!」と興奮気味に小ジャンプを繰り返す。


 見ていて危なっかしいため、ジッとしててねと諭し、視線を眼下に戻した。


「さて、フィニッシュだ」


「っ!? 風の音が変わった……と、とんでもない数が……!?」


 さらに五指が増え、【マナバレット】による攻撃が激化する。

 男は一瞬だけ俺に視線を向けた後、何か覚悟を決めたように口を拭い、その動きを加速させる。


 しかし、踏み出したその一歩は、あっけなく地面の下へと呑み込まれてしまった。


「落とし穴!? しまっ――」


「詰みだよ」


 瞬間、誘導された【マナバレット】が落とし穴にはまって動けなくなった男に殺到する。先ほど仕掛けた、【ピットフォール】の魔法だ。上手くいって何よりである。


 そしてこの【マナバレット】に限っては、貫通力のないゴム弾のような仕様に変えておいた。計十発のゴム弾が男の急所に撃ち込まれたが……まぁ大丈夫だろう。この世界の戦える者達は、俺が考えている以上に頑丈そうだ。


 さて、あとは気絶して白目を剥く男を拘束するだけの簡単なお仕事。縛れるようなものがなかったため、即興で魔力の縄を作り出して男を縛る。魔法として命名するのなら【マジックロープ】、になるのだろうか?

 ちょっとダサいから、これは別に名付けなくてもいいな。


「ふぅ……なんとか無事に終わったな。生け捕り成功、ナイス俺」


「ないす?」


「よくやったぜイエーイ、って意味だよ」


「わかったのです! ないすなのですミッチー!」


「ははっ……変な言葉教えるなって怒られないかなぁ、俺」


 隣でははしゃぐアリアンヌの姿から、あの女騎士が怒っている様子がありありと思い浮かぶ。あんまり使わないようになとお願いしてみるが、本人は嬉しそうに「ないすないす」と繰り返すため意味がなさそうだ。

 諦めてため息を吐いた俺は、「そろそろ下に降りるぞ」とアリアンヌを抱きかかえる。


「えー! もうちょっとお空に立ちたいのですよ!」


「ダメでーす。あんまり遅くなると、俺がどやされるんだから」


 不満を顕わにするアリアンヌを再び抱きかかえた俺は、ゆっくりと下降して彼女を地面に降ろすと、穴にはまったまま魔法で縛られた男を回収しようと近づいた。


「いっ……たい……何者、ですか……あなたは……」


「っ、驚いたな。まだ意識が残ってるなんて」


 男を掴もうと手を伸ばした瞬間に、か細い声が男の口から零れた。

 一瞬警戒して【フライ】を使用しようと考えたが、すでに男は戦える状態にない。先に【エアブラスト】で吹き飛ばした男も、今の彼と同様に魔法で縛り上げているため後ろから奇襲を駆けられる心配もないため、焦らず一度息を吐いてから男に話しかける。


「何者か……それに答えるのなら――」


「ミッチーは魔法使いさんなのですよ!」


「アリアンヌー? 真剣な会話がゆるふわになるから、ちょーっとだけ静かにしてね?」


「はいなのです!」


 お口チャック、と人差し指を口に当ててやると、アリアンヌは頬を膨らませながら両手で口を押さえて黙り込んだ。ヨシッ。


「聞いた、ことが……ないです、ねぇ……」


 静かに零したその言葉に、俺は「だろうな」と一言返す。

 なにせこの世界そのものに《魔法》というものが存在していないのだ。つい最近になって、この国の王族、そして勇者《瞬閃》のエイリンに知られた程度だ。

 当然ながら、その他であるこいつらが知るはずもないだろう。 


「そりゃそうだろうな。さて、こうして俺に捕まったわけだが……今回の件について、どこの手の者なのか、何が目的だったのか聞かれることになるだろうよ。あとでこの国の勇者様が来るだろうから、大人しく捕まっていてくれ」


「それ、は……困りましたね……已むを、得ませんね」


 途切れ途切れに、しかも朦朧とした意識の中で男は苦笑を浮かべると、うっすらと開いた目で俺を見据えた。

 そして同時に、ガリッ、と男の口の中から何かを嚙み潰すような音が鳴る。


「っ!? おい、お前今何を――」


「ガァアァァァァァァァアアァァァァァアアアァァァアア!?!?」


 途端叫び出した男は、急激にその体を巨大化させていく。縛っていたはずの魔力の縄は、その巨大化の勢いに耐え切れずに破壊されてしまった。

 その光景を目にした俺は、すぐさまアリアンヌを抱きかかえて【フライ】を使って距離を取る。


「な、なんだあいつ……!? 特撮か何かかよ!?」


「おっきくなったのですー!?」


 目の前に現れたのは異形の怪物。

 三メートルはありそうな筋骨隆々の巨体。人だった面影はどこにもなく、代わりに目は半分ほど飛び出したギョロ目になり、巨大な牙を剥き出しにしていた。肌もうっすらと緑に染まっているように見える。


 いったい何が起きたのか、さすがの俺も理解ができない事態だ。

 空へと退避しながら観察していると、ふいにその怪物が俺に向けて指を突き付けてきた。


『我ガ祖国ノタメ! 貴様ヲ殺シ、必ズ王女ノ身柄ハ頂クゾ……!!』


 あたりに響き渡り大きく不気味な怪物の声。

 その言葉を聞いたアリアンヌは、体を震わせて俺の体に顔をうずめてくる。よほど怖いのだろう。


「子供を怖がらせてんじゃねぇよ!」


『知ッタ事カ! 奥ノ手ヲ使ッタ以上、貴様ハ何トシテデモ――』


「アリアンヌ様を怖がらせたな?」


 一閃


 いろいろとまくし立てていた怪物に向かって、上空から落ちてきた何かが煌めいた。


 辛うじて見えたのは、銀の一振りが突き出されていた怪物の腕を通過した光景。その直後、ズルリと怪物の腕が地に落ちた。


『ガァァァァァアアアァァ!?!? 腕、腕ヲヨクモォォォ!!』


「うるさい鬱陶しい。それより状況を説明しろ。場合によっては、あれのついでに貴様も殺す」


「物騒だなおい」


 チンッ、と獲物である剣を鞘に納めた女騎士。そんな彼女の姿を見たアリアンヌは、さも安心したように彼女に駆け寄った。


「エイリン!」


「アリアンヌ様! ご無事ですか? あの男に何かされませんでしたか? 何かされたのなら、この私が確実にこいつの息の音を……!」


「大丈夫なのです! それに、抱っこしてもらってお空に立ったのですよ!」


「……やはり貴様は殺す」


「沸点低いなおい」


 勇者《瞬閃》、エイリン・アル・コーデロス。

 アルファ王国最強とも呼べる女騎士がドラゴンを退治し、この場へと駆けつけてきたのだった。

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