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異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~  作者: 岳鳥翁


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第26話:二度目の誘拐

 ファンタジーなどの小説において、ドラゴンと言う存在は欠かせない要素であると言っても過言ではないだろう。異世界における最強格の生物であったり、神様と同義であったり。あるいは、主人公の強さを明確にするためのかませだったりと、その役割は様々だ。


 そんなドラゴンという生物はこの世界において、当たり前のように危険度五の怪物として有名だったりする。ドラゴンが一体現れれば、国が総戦力をもって対処しても退かせられるかわからないという天災。記録によれば、抵抗及ばずたった一夜で国を滅ぼした、なんて話もあるくらいだった。


 生半可な攻撃では傷一つ付かない鱗に、一撃で多数を屠る爪。更にはその巨体による突撃はどんな城壁でも防ぐことができない。

 そして極め付きは、衝撃波と共に口から吐き出される炎の息吹だ。なんでも喉に特別な器官があるらしく、そこにため込んだ分泌液を発火させることで、炎を吐き出しているのだとか。


 魔法なんてものがなく、弓や投石くらいしか遠距離攻撃がないこの世界において、それがどれほどの脅威であるかは想像に容易いだろう。


 故にこの世界におけるドラゴンの討伐は、多大な犠牲を払うことが当たり前なのだ。またドラゴンの他にも、危険度五と認定されている怪物は複数いるが、どいつもこいつもドラゴンレベルで危険な怪物ばかり。


 そして、こんな怪物たちを単独で相手取り、そして討伐してしまうのが《勇者》と呼ばれる存在なのだ。話を聞いただけでも、どれだけ《勇者》と呼ばれる者たちヤベー奴らなのかがよくわかる。


 そりゃぁそれだけの超人的な強さがあれば、他の人たちに憧れられたり、逆に恐れられたりもするはずだ。そしてそんな奴を相手に、してよく生き延びたな俺は。あの時のことを思い出すだけで身震いしてしまいそうになる。


 メイドさんに避難場所まで急ぎ足で案内される中、崩れた壁の隙間から外の様子を探っていると、人らしき影が城の外へと跳び出して行くのが見えた。


 なんだ? と思ってよくよく見てみれば、城を足場にして空のドラゴンに向かって駆ける女騎士の姿。その女騎士は、垂直に天へと延びる塔を一直線に駆け上がり、そして天辺に着くと同時にドラゴンに向けて跳ぶ。


「あれエイリン……さんか。すんげ」


「はい、エイリン様です」


 垂直の壁を駆けあがっていく様子も意味が分からないが、そこからたった一度の跳躍で空高く飛んでいたドラゴンと同じ高さに到達したエイリン。

 そしてドラゴンが彼女の姿を認識する前に腰に携えていた剣の柄に手をかける。


 直度、曇天の空に何十という銀線が瞬いた。


「足場ないのに、どうやってんだよあれ……」


 やっぱり意味が分からない、と思わず苦笑を浮かべる。

 だが、だからこそ彼女は勇者と呼ばれているのだろう。


 驚くべきは、あの身体能力が本当に素のものであることだろう。俺も魔法を併用すればあれに近いことはできるかもしれないが、さすがに魔法もなしでやれと言われれば、それを言った相手の正気を疑う。


「それよりも、こちらへ。奥で皆様がお待ちです。ミッチー様には、皆様の護衛をお願いしたく思います」


「わ、わかりました」


 エイリンの戦闘を観戦することに夢中になってしまっていたが、メイドさんに言われて状況を思い出し、速足で彼女の後を追う。

 連れてこられたのは、王城の地下。階段で降りた先にある堅牢な扉の前で、俺はメイドさんから、アリアンヌたちの護衛を頼まれそれに頷いた。

 そして、「中へどうぞ」と俺を促すメイドさん。どうやら、メイドが開けてくれるわけではないようだ。


 今まで部屋の扉とか開けてもらってたから、つい勘違いしてしまった。


「あれ、メイドさんは避難しないんですか? 中で俺が守りますけど……」


「私は他の方の無事を確認して参りますので。ミッチー様はお先に中で待っていてください」


 俺の心配を他所に、問題ないと告げるメイドさん。そんな彼女の言葉に、俺は「そうですか……」とため息交じりに返す。


 自分の身の安全よりも王族を優先するのは彼女らにとっては当然の事なのだろう。外にはエイリンが対処しているとはいえドラゴンがいるんだ。その余波がいつ襲い掛かるかわからない中、城の中を行動するのはかなり勇気のいることだろう。

 職務に立派というか、何というか。もし危険が迫った時に対処できるよう、【セカンドアイ】は彼女に設置しておこう。


 さっきの城の破壊で瓦礫に埋もれた際、【ボディプロテクト】以外に展開していた【バギング】や【セカンドアイ】の魔法が切れてしまったんだ。


「わかりました。では、あなたもお気をつけて」


 目の前の堅牢な扉を開けながら彼女を振り返ってみれば、メイドさんは少し微笑んで綺麗なお辞儀をしてみせた。

 扉を開け、中へ入る。カツン、という俺が足を踏み入れた音が冷たく響き渡った。


 かなり薄気味悪く、そして肌寒い場所だが……地下だからだろうか? ろくな暖房設備がないままこんなところに避難するとは、アリアンヌが心配になってくる。


「確か奥で待っているって……あれ?」


 ふと足を止める。いや止めざるを得なかったと言うべきか。

 目の前に現れたのは石造りの壁。左右を見渡してみても、扉などは見当たらない。部屋に足を踏み入れてから、まだ十歩も歩いていないはずだが……


「あの……」


 ここまで連れてきたメイドにどういうことなのかを聞いてみようと思って振り返る。


 そして振り返ったと同時にすさまじい勢いで扉が閉められ、さらには何かで扉を抑えつけるような音が聞こえると、小さな覗き穴の向こうで先ほどのメイドがうすら笑っている様子がよく見えた。


 そして彼女の姿が覗き穴から見えなくなり、代わりに階段を駆け上がっていく音が虚しく響く。


「……は?」


 一瞬何が起きたのかが理解できなかったが、すぐに俺自身がこの場所に閉じ込められたことを理解した。

 慌てて扉に駆け寄ってみれば、どこに用意してたの扉を封じる金属製のかんぬきの他にも、どこから持ってきたのか重そうなあれやこれやで扉が抑えつけられていた。


「まさか俺、騙された……?」


 否定できる可能性も考えてはみたが、あの状況で善意でこんなことをするのはどう考えても違うだろう。そういうわけで、俺自身があのメイドさんに騙されたことは確定的事実であるらしい。


 騙されたまぬけは俺なのだが、なかなか腹立たしいものである。騙される奴が悪いという言葉は良く聞くが、そもそもの話騙した方が悪いのなんて当たり前だろうに。


「まぁ、その程度で閉じ込められるわけがないんだけどさ。【マジックハンド】」


 メイドさんが駆けあがっていった階段に目をやりながら、魔力で構成された腕を覗き穴から外へと伸ばすと、外から扉を抑え込んでいたものをすべて退ける。鍵もかけていたようだが、鍵穴に魔力を流し込み、【マジックハンド】と同じやり方で固めてやれば、魔力でできた鍵の完成だ。


 ガチャリと鍵が開いた音が俺一人しかいない地下室に響いた。

 あのメイドさん、俺がすぐ出てこれるってわかっていないのかな?


「さて、なぜ閉じ込められる必要があったのかだが……うーん」


 わざわざこんなことをするのだ。今のこの状況から考えて、きっとあのメイドさんや他にも何人かアリアンヌたち王族……というか、この国の敵対勢力の手の者がいるのだろうか。となれば、あの黒いドラゴンもこの騒動のためのもの、と考えた方がいいかもしれない。


「……時間稼ぎか?」


 予想だが、敵勢力にとっての一番の脅威となるエイリンを封じ込める、あるいは時間稼ぎのためのドラゴン、ということなのだろう。勇者であるエイリンには危険度五のドラゴンの討伐が可能。

 それでも、相手は空を飛んでいるんだ。討伐までにはそれなりの時間がかかるはず。


 そしてこの国の一番の戦力がドラゴン退治に精を出しているのなら、当然その間は内部の敵勢力は動きやすくなる。


「こういう時、狙われる定番は王族だが……もしかして、そういうことか?」


 すぐさま【サーチ】で国王、並びに王妃とアリアンヌの場所を確認すれば、アリアンヌ以外は騎士だと思われる者達と共に一つの部屋で固まっている。

 しかし、肝心のアリアンヌの反応が王城内に見当たらなかった。


「なるほど、狙いはアリアンヌか。反応は……いた。外か」


 アリアンヌと思わしき反応が、他の少数の反応と共に外へ移動していることが判明。おそらく、誘拐するつもりなんだろう。こんな状況で、アリアンヌが外に出るとは考えにくい。


 ドラゴンそのものが、アリアンヌ誘拐のための道具であるとするならば、なかなか大胆な作戦である。


 階段を駆け上がり、王城の外へ。エイリンはまだドラゴンの相手をしているようで時間がかかりそうだ。となると、アリアンヌの位置がわかる俺が直接助けに向かうのが妥当だろう。


「行かせませ――キャッ!?」


「悪いが、その奇襲は読めてる」


 外に出る直前、先ほど俺を閉じ込めたメイドさんが短剣片手に背後から襲い掛かってきた。

 しかし、彼女には【セカンドアイ】を付けていたんだ。俺を狙う様子も、バッチリ俺の視界に捉えていたため、慌てることなく背後に回し蹴りを放つ。

 【フィジカルアシスト】によって強化された蹴りは短剣を簡単に叩き折り、敵勢力であろうメイドさんをも捉えて弾き飛ばすのだが、彼女に続くように複数の覆面ローブの人影が俺に襲い掛かってきた。


「【マナバースト】!」


 即興で創り上げた、自身を中心に魔力を爆発させる魔法。不可視の魔力による爆発は、寸前まで迫っていた彼らを簡単に吹き飛ばしてしまった。

 そんな彼らには目を向けず、壁に激突する音だけを聞きながら城の外へと飛び出す。


 反応は一直線に城門へと向かっている。どうやらそのまま脱出するつもりらしい。


「待ってろよ、アリアンヌ」


 飛ぶよりも走った方が早いと判断した俺は、引き続き【フィジカルアシスト】の強化を受けた足を使ってアリアンヌたちの後を追うのだった。


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