第22話:勇者認定
あまり気乗りのしない中で魔法の披露を終えた俺は、国王ヘーデルバッハのご厚意によって今日一日、王城内の客室に泊まることを提案された。
これ以上ここに留まるのは拒否したかったのだが、相手は国王。この厚意を拒否なんてすれば、何をされるか分かったものではない。主に、後ろに控えている女騎士によって。
それにいざ断ろうにも、俺がこの城に泊まることを聞き「やった! やったなのです!」と目を輝かせてピョンピョン飛び跳ねているアリアンヌを前にして断ることができなかったのだ。
俺の馬鹿! NOと言えない性格しやがって……!!
……ふぅ、まぁいい。こうなってしまった以上、俺がやるべきことがないわけではない。
「ではお部屋まで案内いたします。こちらへどうぞ」
メイド服の女性に案内され、今日俺が一泊する部屋へと案内される。
ついた場所は客室と呼ぶにはかなり立派な部屋だった。室内には一人で使うには大きすぎるのでは? と思うくらいに大きなベッドが置かれている。しかも天幕付きだ。金を持っている家の象徴的なイメージだが、あれがついている意味って何なのだろうか?
「それではごゆっくり。何かありましたらこちらのベルを鳴らしてください。外に控えている者が対応します」
適当に意味もないことに思考を割いている中で、案内してくれたメイドが部屋を出て行った。それを見送った俺は、誰の目もないことをいいことに柔らかそうなベッドへとダイブする。
ビバ、フワフワ。【アイテムルーム】に作ったベッドも、工夫して柔らかくはしているがこれには敵わないだろう。これだけでも持って帰れないだろうか?
(監視は……されていないようだな)
ベッドに顔を埋めながら、【サーチ】で周囲の人の位置を探る。
普通こんな部屋だと、天井裏とかに誰かが潜んでいたりするのが定番というもの。まして俺は、王女を助けたとはいえ魔法という聞いたことのない力を使う得体のしれない男であることに変わりはない。
そのため、部屋の人物の様子を盗み見ているなんてことがありそうなのだが、現時点ではまだその心配はなさそうだ。いたらいたで、それを理由に出ていくこともできるのだが。
人の反応が扉の外で待機しているメイドさんのものしかないことをしっかりと確認し、俺は一つ息を吐いた。
「あんまり、よろしい状況とは言えないな……」
むしろ、考えられる中でも状況は悪い方向へと進んでいるような気がするが……それでも、まだ考えられる範囲だ。故に対処はできるはず。
この世界でもかなり立場が上の者に魔法と言う存在を知られてしまうことにはなったが、現状魔法しか取り柄のない俺がこの世界で生きる為には、この魔法を使わざるを得ない場面というのはどうしたって出てきてしまう。
使っていれば露見する。今回のことはそれが予想よりも早かった。それだけの話、という見方もできるだろう。
「まぁ、知らなかったとはいえ、アリアンヌにみられている時点で色々と諦めてる部分はあるからなぁ……」
過ぎたことは仕方ない、と自身の中で折り合いをつける。
ぐちぐちと文句を言い続けても現状が変わるわけではない。それにここで文句を言ってしまえば、アリアンヌを助けなければよかったという結論に行きついてしまう。
なら、過去について云々言うよりも、ここからどうするかを考える方が有意義だろう。
「とりあえず、腹が減っては何とやら。まずは食事でも頼むか」
ここ最近は食事も手早く済ませられるものや簡単なもので済ませていたため、王城での食事がどんなものなのか実は少しだけ楽しみだったりする。気落ちしていた気分を無理やりにでもあげるため、メイドに言われていたベルを手に取って鳴らすのだった。
◇
「さて、まずは報告からだ。先日、城で捕らえた内通者が自害しているのを見回りの者が牢で発見した」
「そうか。して、何か掴めていたのか?」
「何も吐かなかったが……まぁ、おそらくは帝国の間者だろうな。あんな者を雇い入れていたとは、確認が甘いんじゃないか?」
「それを言われると痛いな。今一度、城で働く者の身元を洗い直してみようか。……そう言えば、アリアンヌを助けてくれたというあの男。実力はどうなんだ? 戦ったんだろう?」
ナオミチが食事をとっていた一方で、国王ヘーデルバッハとエイリンの二人は話を続けていた。
アリアンヌとナタリーは先に二人で自室へと帰っている。今頃、アリアンヌはナタリーに寝かしつけられている頃合いだろう。
そんな中、ヘーデルバッハがアリアンヌを助けた男……ナオミチの話題を口にすると、エイリンは面白くなさそうな表情を浮かべてため息を吐いた。
「気に入らないが、実力があるのはたしかだろう。手加減していたとはいえ、あれは私の剣を耐え凌いだんだ。それに……」
「それに?」
「私もそうだが、あれも全力は出していないだろうな。奴め、周囲の被害を気にしてこちらには攻撃らしい攻撃をしてこなかったからな。終始逃げに徹していたぞ。最後のあれも、きっと攻撃が目的のものではないようだったからな」
「……君にも見習ってほしい思考だね」
その言葉にエイリンがギロリとヘーデルバッハに視線を向ければ、ヘーデルバッハは何でもないと気まずそうに視線を逸らす。
こんなんでも、勇者であることに間違いはない。それに、勇者の中でも性格はかなりまともな部類であるため、これ以上機嫌を悪くするのは悪手だ。
ゴホン、とヘーデルバッハは誤魔化すように咳ばらいをすると話を続けた。
「これは興味本位で聞くのだが……君であれば打倒することは可能か? 我が国が誇る勇者。《瞬閃》エイリン」
それまでの少し情けない雰囲気から一変し、まっすぐな目でエイリンを見据えるヘーデルバッハ。その口調や言葉遣いに王の威厳を感じ取ったエイリンは、ヘーデルバッハに対して感心を向けながらも首を横に振った。
「……わからん」
「……意外だな。君は、はっきりしない物言いは好まないと思っていたんだが」
「さっきも言ったが、お互いに全力を出したわけではない。それに奴の使う『マホウ』、だったか? あれが未知数すぎる。体を守る壁のような何かに、目晦ましの光、果ては見上げるほどの土の巨人だぞ? 突然動きや反応速度が上がったのも、『マホウ』の効果なのだろうな。できることが多すぎて、何ができないのかがわからないぞ、あれは。無論、負けるつもりはないが……他の勇者では、対応しきれない奴もいるかもしれんな」
エイリンの意見に、ヘーデルバッハも頷いた。
ナオミチの披露して見せた魔法は、当然のことながら彼らにとっては初めての異常だった。
動かないはずの土人形がまるで生きているかのように動き、どこからともなく水が現れ、しまいには部屋の中を飛んで見せた。まさに未知の力と言えるだろう。
おまけにその力は、勇者であるエイリンにも対抗できるときた。警戒しないという選択肢は、国のトップであるヘーデルバッハには存在していなかった。
「いくらアリアンヌの恩人とはいえ、あのような力を野放しにしておく、というのもな……」
「殺すか? アリアンヌ様に近づく害虫だ。私は大賛成だぞ。寝込みに襲撃でもかければ、殺せる可能性は高いぞ」
「極論すぎるぞ、勇者エイリン。あの御仁はアリアンヌの恩人なのだ。その選択肢は最後の最後、本当にどうしようもない場合にのみにしてくれ」
エイリンによる物騒な提案には同意しかねるが、最悪の場合を考えればその選択をとる必要があるかもしれない。
ヘーデルバッハは国王だ。故に、もしナオミチの存在が国にとって害となるのであればそれに対処する義務がある。
ただ娘の恩人には、できるだけそのような選択を取りたくはない。
「話をした限り、為人も問題はないだろうな。」
「……そうだな。他の勇者……特に《怪力》のような悪人ではないだろう。むしろ、善人であることは間違いないな。……なるほど。それを聞くと言うことは、決めたな?」
「うむ」
立ち上がったヘーデルバッハはエイリンの言葉に大きく頷いた。
「近いうちに、私はミッチーくんを《勇者》として認めることにしよう。彼には、折を見て、私の方から話をしてみるよ」




