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異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~  作者: 岳鳥翁


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第19話:勇者の剣戟

 俺の中の何かが、ここは危険だと判断した。


 ゾワリ、と悪寒が背筋を突き抜けたのと同時に、俺は森でのパルクールにも使用した自身の運動機能を高める魔法【フィジカルアシスト】を使用。

 その場に影を残す勢いで、一目散に出口へ向かって駆けだした。


 瞬間、バキリという不気味な音が響き、割れる。


 身体強化した俺の踏み込みに耐えられなかった床、ではない。正しくは、俺が常時展開している三枚の結界。そのうちの一枚が、ガラスの破片のように魔力を飛散させながら砕け散っていた。


「なっ……!?」


 振り向いてみれば、そこには抜き身になっていた剣を鞘に戻そうとしているエイリンの姿があった。当然ながら、先ほどまであの剣は鞘に収まっていたはずだ。

 となると、俺が逃げようとしたあの一瞬で剣を抜いて斬ったと?


 ありえない。そもそも、彼我の距離は三メートルほども開いているんだ。どうやっても彼女の持つ剣が届く距離じゃないはずだ。


(待て、たしかアリアンヌが……)


 手も触れずに遠くの物を斬ることができる、とかなんとか。そんなことを話していた気がする。

 とするとだ。もしアリアンヌの話していたことがそのまま真実であると仮定するのなら……彼女は魔法も使わずに、そんなことができるということか!?


(じょ、冗談じゃない……! 斬撃でも飛ばしてるのかこいつ!?)


 サッと、自分の顔から血の気が引いて行くのがわかる。

 視認できない速度で、距離関係なく放たれる斬撃。魔法も使わずにそんなことをやってのける相手が、今目の前で俺を見ていた。


「ほう! それが『マホウ』というやつか? 私の一閃を耐えるとは、実に興味深いぞ!」


 まるで、面白そうなものを見つけてワクワクする子供のような目だ。

 そんな彼女の目とは反対に、俺の心はどうやってこの場を切り抜けるかを考える。


 そ、そうだ。俺たちは言葉を交わせる人間同士。何とか会話で油断を誘い、その隙をついて逃げられれば……


「おい!? こんなところで剣を振り回すんじゃねぇよ! 死んだらどうする!? まずは話し合いから始めようって気はないのか!?」


「無用! そんなものは捕まえた後で十分だ!」


 だめだこいつ話が通じねぇ!?


(会話は無意味。そうなると、本格的に逃げ一択しかなくなってくるが……さて、俺この人から逃げられるんですかねぇ!?)


「考え事とはずいぶんと余裕じゃないか!」


 考えている間に剣が再び振るわれ、視認できない斬撃が放たれる。

 避ける暇もなく二枚目の【ボディプロテクト】の結界を破られ、続けざまに襲い掛かってきた斬撃が最後の三枚目の結界を砕いてしまった。


 まずいと思い新たに【ボディプロテクト】を展開するが、展開した傍から彼女の周囲で銀色の光が迸り、その度に展開した結界が砕けていく。

 その斬撃のどれもが、一度でも喰らえば大怪我必須の威力を持つのは明白。そんな攻撃が、まるでマシンガンの銃弾の如く、ポンポンと俺に襲い掛かってくる。


 結界の展開が追い付かなくなれば、俺の体がジ・エンドだ。


「こ、こいつ……! 何て無茶苦茶な奴だ!?」


「誉め言葉として受け取ろう! そして、覚えておけ。それが勇者だ!」


「ギ、ギルドが~!!」


 受付嬢の悲鳴にハッとする。


 結界生成の間に周りの様子を見てみれば、彼女が剣を振るうたびにギルド内がめちゃくちゃになっていくのが見て取れた。

 この国の騎士を名乗るくせして、周りへの被害を考えていないのかよ!?


「ならこれでも喰らえ! 【フラッシュ】!!」


「むっ!?」


 発動させたのは、たった今思い付きで創った、一瞬だけ強い光を放つ魔法【フラッシュ】。

 古来より、目潰しと言うのは視覚に頼る相手には有効な手段だ。いくら身体能力が跳び抜けているとはいえ、人間である以上は視覚を潰せば動きを止められる。


 本当はあたりが暗い中で使用するのが一番効果的であるが、こういった至近距離でなら効果はあるはずだ。


 発動時にだけ目をつむってやれば、俺と彼女の間で強力な光が発光する。直接光を目にしてしまったのだろう。片手で両目を抑えて動きを止めた彼女の姿を確認した俺は、一直線にギルドから飛び出した。


 あのままあそこでやりあえば、ギルドにも相当な迷惑がかかるだろう。というか、ギルドの修繕費は是非彼女につけてもらいたい。俺も巻き込まれた側である。

 あとはどこか人気のない場所に一瞬でも姿を隠すことができれば、そのまま【アイテムルーム】に逃げ込める。


 そのためにこうして外に出たんだが……


「追いかけっこか。私も昔、よく姫様と遊んだものだ。では、私が鬼となろう!!」


「くそったれ! もう回復したのか!?」


 どうやら、先ほどの目くらましはそれほど効果がなかったらしい。それでも、距離を離して広い場所に出てこられただけでも万々歳と考えるべきなのか。


 まだ人通りの少ない早朝のメインストリート。


 そこで対峙した彼女は、剣を構えて不敵な笑みを浮かべていた。


「確信したぞ。やはり貴様が『ミッチー』だな? 姫様の命により、貴様を拘束した後、連れて行かせてもらうぞ」


「はぁー! 面と向かっての誘拐宣言とは強気なもんですね!? 俺はその『ミッチー』とやらではないので、なにがなんだかよくわかっていないんですが!? 人の迷惑ってものを考えた方が良いんじゃないでしょうか!? それでも騎士かあんた!」


 いつでも逃げられるように構えつつ、俺がミッチーであることを否定する。

 しかし彼女は、そんな俺の言葉をフンッ、と鼻で笑った。


「安心しろ。私は変わらず、姫様たちに仕える騎士だ。それに貴様が『ミッチー』でなかったとしても、この私にここまで対抗出来ている時点で連れていく価値はある。つまり、貴様がこの私に拘束されることに変わりはない」


「どこに安心しろと!? ちゃんと話せばわかるから! な!?」


「問答無用!」


 いきなり斬りかかってきたエイリンからさらに距離を取る。

 というか、拘束するって相手に対してどうして剣を振り回す!? 下手に当たれば死んでしまうんですが!?


 【フィジカルアシスト】によって動体視力や身体能力が底上げされ、ある程度の対応はできてはいる。しかし俺自身の経験が足りていないからなのか、時折混ざるフェイントにうまく対応ができない。そのたびに【ボディプロテクト】の結界が破られていく。


 おまけに彼女は剣を振るっているだけだというのに、周囲の家の壁に傷がついたり、屋根の一部が剥がれたりなどの被害が起きていた。


「こんな場所でそんな物騒なものを振り回すなっての! 周りの被害を考えろよ!?」


「考えているさ! 本気でやっていればこれくらいでは済まないからな!!」


 まじかよとその事実に驚愕していると、それが隙になったのかエイリンの蹴りが俺の腹に叩きこまれた。


 ダメージは結界で防げたものの、その勢いはどうすることもできす俺ははるか後方に吹き飛ばされた。


「追撃だ」


「っ!?」


 風を利用して体勢を立て直そうとする直前、吹き飛ばされる俺に並行して飛ぶように目の前にエイリンが現れる。

 そして今度は、俺を叩きつけようとしたのだろう。鳩尾に向けて肘打ちが叩き込まれた。


「こなくそっ……!」


 両手を交差させ、なんとか攻撃を防ぐ。しかし現在進行形で宙に浮いたこの体では踏ん張ることもできず、簡単に地面へと叩き落とされてしまった。【ボディプロテクト】のおかげででダメージはないが、とてもつない威力だったのか展開していた結界がすべて割れてしまう。


「グッ……! まずい、結界を……!?」


「さぁ、ようやく捕まえたぞ。怪しい動きはするなよ?」


 仰向けの状態からすぐに立ち上がろうとするも、上から降りてきたエイリンが剣の切っ先を俺の喉に向けたことで阻まれる。


 勝ち誇った笑みを浮かべる彼女は、勝負はあったと言いたげな目で俺を見た。


「フンッ。手こずったが、なかなか楽しめたぞ? この私をこれだけ相手にできたんだ。十分に誇るといい」


「……はっ、そうですか。なら、もうちょい楽しめると思うぜ?」


 なんだと、と彼女が言うよりも先に、彼女の体が黒い影に覆われる。

 いや、彼女だけではない。黒い影は徐々に大きくなり、やがて彼女の周囲や俺をも覆うと同時に、ズドンッ!! という音を響かせてエイリンに襲い掛かった。


 俺の上から飛び退いた彼女はすぐさま体勢を立て直し、自身に襲い掛かったそれを見上げる。


「っ!? な、なんだこれは!?」


 目の前に現れた存在に驚きを隠せない彼女。

 そんな彼女を尻目に、俺はすぐさまその場から立ち上がると、目の前に現れたそれの上に降り立った。


「【ゴーレム】! よくやった!」


『……』


 物言わぬ土の人形、ゴーレム。

 俺が魔法によって創りだしたこれは、アリアンヌといた際に作っていた土人形と同じように、周囲の土を媒体として作成している。


 だがその大きさは、土人形のそれとは段違い。約三メートルの巨体は、見た目通り重量も相当なもの。


 街中であるということを考えて大きさは自重したが、それでもこの大きさから繰り出される攻撃は脅威なはず。もっとも、当たらなければ意味がないのはわかっているが……虚を突くために用意した巨大ゴーレムだ。あの場からあの女を退かせただけでも十分役に立っている。


 エイリンが距離を取っている今がチャンスだと思い、今のうちに【ボディプロテクト】を再展開。今度は余裕をもって十枚ほど展開しておいた。


「ふん……驚かせるだけの、ただの木偶の棒か? そんな鈍重な攻撃が当たるとでも?」


「でも、当たればただでは済まないだろ? なら当ててやろうじゃねぇか」


 もうすでに、ここまで見られてしまっているんだ。


 魔法を隠す隠さないについては、もはや意味のない問いだろう。であれば、何としてでも彼女から逃げ切り、そのままこの王都、さらにはアルファ王国から出る必要がある。


 まだまだ人通りの少ない街中にて睨み合う俺とエイリン。


 彼女の言う通り、このゴーレムは動きが遅い。そのため、攻撃の隙に付け込まれれば容易く接近を許すことになるだろうが……なに、そんなことここまでの彼女の動きを見ていれば容易に想像できる。


 故に、このゴーレムの真の目的は彼女の迎撃ではなく、この大質量の土の塊を爆散させて起こす砂煙の目晦ましだ。周囲の人々には申し訳ないと思うが、土を被るだけなので許してほしい。修繕費とか諸々は目の前の女騎士に任せる。


(さぁ来い……! お前が動き出したその瞬間に、このゴーレムトラップを発動させる!!)


 じりじりとエイリンが剣を構えて距離を測っている。

 そして、その彼女がいよいよもって動こうとしたその直前の事だった。


「やめなさい! なのです!」


 突如その場に響いたのは、この世界で最も聞き馴染んだ少女の声なのだった。


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