第18話:魔法使いと勇者の邂逅
早朝城門が開く時間と共に王都入りした俺は、ギルドの受付が開く時間まで街中を歩いた。もちろん、【ステルス】を使いながら、だ。
よく見れば、こんな朝早くだと言うのに数名ばかりの騎士が巡回している姿が見られた。
やはり急ぐのが正解だろうと考える。
恐らくだが、騎士団の捜索の手はもうこの辺りにまで伸びているのだろう。なら、受付が空いて早々に薬草を納品し、報酬を受け取り次第王都を出ることにしよう。
そう思い、ギルドの受付が始まる時間と共にギルドへと入った。
今日は特に早く来たからなのか、俺以外の冒険者の姿はまだ見当たらない。
(……いや、一人いるな。こんな時間から熱心なことだ)
ギルドに併設された酒場の一席。そこに静かに座っている軽鎧の女性がいた。
この時間から酒場はやってないはずだが……ギルドでは見たことない人だし、それを知らない新人なのか? それにしては佇まいがこう……様になっているというか、妙に落ち着いているというか。新人っぽさがない。
まぁ、新人同然の俺が言うことではないのかもしれないが。
「あ! ナオミチさん!」
見慣れない女性に思考を巡らせていると、いつも俺の納品を担当してくれている受付嬢さんから声がかかった。
ひとまずそこで思考をやめて、俺は受付嬢の元に向かいながら軽く挨拶を交わす。
「どうしたんですか、そんな大きい声で呼んで。あ、これ今回の依頼の薬草です」
「ありがとうございます。ナオミチさんの納品した薬草は状態もいいので評判がいいんですよ」
「はは、ありがとうございます。それで? 用とは?」
「あ……そ、そうでしたね……」
途端にバツの悪そうな顔をする受付嬢さんに俺は首を傾げた。
「実はその……恐らくなんですが、ナオミチさんを探している、という方が先日からいらっしゃっていまして……」
はぁそうなんですかという言葉がでかかったその直前で、俺は思わず息を呑んだ。
い、嫌な予感がする。
「な……なるほど、そんな方がいらっしゃるんですね。ただ申し訳ないのですが、俺は本日少し外せない用事がありますので、その方に会うのは明日以降になるかと」
とっさの言い訳としては上出来ではないだろうか。
内心の動揺が悟られないよう顔に笑顔を張り付けて言ったその言葉に、受付嬢はですが……と口ごもった。その俺を探している誰かに、何か言われているのだろうか。
彼女には少し罪悪感を覚えるが、この場はこれで諦めてもらうしかない。そして明日にはもう王都の外だ。なに、冒険者証はあるため王都以外での冒険者活動は可能だろう。依頼で資金を貯めつつ旅でも続ければいいだけだ。
「大丈夫ですよ。また明日になれば俺の予定も空きます。ですので、本日のところは先方の方に申し訳ないと……」
「いや、その必要はない。なにせ、本人がここにいるんだからな。ナオミチ……と言ったか?」
何とか今日を乗り切ろう。そう考えて、受付嬢さんにあれこれと述べていた俺の背後から声がかかった。
見ると、そこにいたのは先ほど酒場の席に座っていた軽鎧の女性。
燃えるような紅い髪に翡翠の色の目をした彼女は、吊り上がった目でまっすぐに俺を見据えていた。
「あの……どちら様でしょうか?」
なるべく穏便に、しかし警戒は解かないようにしつつ彼女に言葉を返す。
「ほぅ? 私を知らないか。なるほど、となると貴様はこの国の人間ではないようだな」
「ナ、ナオミチさん……そ、その方は王国最強の騎士であり、十人しかいない勇者のお一人、《瞬閃》のエイリン様ですよ……! な、何で知らないんですかっ……!?」
首を傾げている俺に対して、後ろから受付嬢さんがあたふたと慌てて教えてくれた。
エイリン。その名前は知っている。
アリアンヌ曰く、この王国において最強である騎士であり勇者。そして俺が魔法だと考えていたそれを、魔法がないにもかかわらず生身でやってのけるというイカレタ超人。
ってことは、今まさに目の前にいるこの人が……?
(く、くそっ……! 想定していたのよりも最悪の展開じゃないか! 何でもうここまで嗅ぎつけてるんだよ……!?)
「……何か言いたいことがあるのか」
「いえ。ただ、名前は知っていましたが顔ははっきりと見たことがありませんでしたので。不快にさせてしまったのであれば謝罪いたしましょう」
軽く頭を下げてみれば、彼女はふんっ、とひどくつまらなさそうな反応を見せた。
「そうか。なら、一つ聞きたいことがある。貴様はミッチーと名乗ったことはあるか? あるいは、その人物について心当たりは? 姫様が探しておられる。早急に答えてもらいたい」
「そうですか。しかし残念なことではありますが、その名は存じ上げてはいません。大変申し訳ございません」
「ほぅ……そうか。なら仕方ないかもしれないな」
その言葉に、頭を下げながら内心でほっと息を吐く。
よし、あとはここを出て【ステルス】で潜伏。機を見て王都から出れば、これ以上俺に面倒ごとが降りかかることは無いだろう。早いところおさらばして、荷物をまとめなければ。
「では、俺はこれにて失礼を。私用もありますので」
少し無理矢理ではあったものの、俺はそう言ってエイリンさんを横切ってギルドの出入り口へと向かった。
しかし彼女の横を通り過ぎるその直前、エイリンさんは「ああ、そういえば」とポツリと口を開いた。
「そこの受付嬢から面白い話を聞いたんだ」
歩みは止めない。その言葉を聞いた瞬間、背中に感じた悪寒。駆け出したい衝動を抑えて、平静を装って出口へと向かう。
「何でも、姫様が探しておられる『ミッチー』という男は『マホウ』などという不思議な力を使えたそうなのだ」
少しだけ、足早になった。
「そしてつい最近このギルドで登録した男が、己の武器を聞かれた際に妙なことを口走ったと聞いた。なんでも、その男はこう言ったらしい」
――『魔法を使うんですが』とな。




