第17話:そろそろ王都を離れようかと
時が経つのは早いもので、俺がギルドで依頼をこなすようになって既に一ヶ月が過ぎていた。
思い返してみれば、あっという間に過ぎ去ったような感覚になる。まぁ、中学卒業時には中学生活があっという間だったと感じるのだから、一ヶ月と言うのは案外短いのかもしれない。
さてこの一ヶ月であるが、異世界だからと言って特にイベントらしいイベントが起きたわけではなかった。ただひたすら薬草の採取で金を稼ぎ、なんとかその日暮らしを続けている。
だがこの世界における知識が不足している俺からしてみれば、実に有意義な一ヶ月でもあった。
頭の中の【フォト】の図鑑を見ながら、何度も何度も薬草採取をこなしたおかげだ。今じゃ、薬草についてはそこらの新人冒険者よりも詳しくなったと自負している。また多くの採取依頼をこなしていたため、いつの間にかギルドへの貢献度とやらが評価されていたらしく、つい先日鉄への昇格も果たした。
ソロでこんなに早く昇格したのは久しぶりに見た、とのお褒めの言葉をアルカイックスマイル受付嬢からもらったことも追記しておこう。褒められるというのは、いくつになっても案外嬉しいものだ。
魔法による移動時間、並びに探索時間の短縮。地下深くに作った地下倉庫と俺を繋ぐ【アイテムルーム】の魔法の開発。
これらの様々な魔法によって、俺の冒険者生活は順調すぎると言っていいほどの成果を上げることができている。おそらく、それなりの宿屋で一週間は依頼をこなさなくても生活することは可能なくらいだろう。
特に【アイテムルーム】がすごく役に立った。MVPをあげたい。
ファンタジーのアイテムボックスとは違い、この魔法は言わば地下数十メートルに作った俺専用の地下倉庫へと繋がる入り口を創る魔法だ。時が止まっていたり、容量が無限だったりはしないが、俺自身がプライベートルームとして使用する事も可能となっている。
これのおかげで、王都の外で一晩を過ごすことになっても、地下倉庫を部屋として利用できるため宿代が浮いたのが大きい。おかげで想定していたよりも早く金が貯まった。今では【アイテムルーム】で繋がる地下倉庫は、俺が過ごしやすいようにと魔法で改築を行ったおかげで生活感溢れる見た目となっている。
土をくりぬいただけだった壁は、表面を魔法で固めてコーティング。つるつるとした手触りになっており、魔法で天井付近に浮かべた光源の光を淡く反射している。
更に地下倉庫の隅に目を向ければ、依頼の分とは別に俺が個人的に集めた薬草が植えられている。ここで栽培できれば、何かと便利かもしれないと思って始めたが、今のところは順調そのものだ。
街で購入したベッドに寝そべりながら、同じく街で購入した保存食を食す。大変行儀の悪い行為だが、それを咎めるものは誰もいない。
ここ最近は朝にギルドへ向かい依頼を受注。そのまま王都を出て依頼をこなし、一晩をこの地下倉庫で過ごしたら次の日の朝に納品にギルドへ向かっている。森から朝帰りするため、最初の方は門番の方々には心配されていたが、今となっては彼らも慣れた。わかっていて、「朝帰りか?」などというお茶目を見せてくれる。
そして、納品を終えた後は自由時間だ。軽食屋に寄ったり、雑貨を見たり物を買ったりして時間を潰し、陽が暮れればその辺の宿屋に素泊まりするのだ。
鉄に上がったので討伐依頼も受けられるのだが、その予定は今後まったくないだろう。納品の度に受付嬢に催促されるのだが、アルカイックスマイルに内心で怯えながらなんとかは断っている。
しかし、ここ数日において俺のそんな生活が変化しているのだ。
具体的に言えば、納品後すぐに別の採取依頼を受けて王都を出るようにしており、そのままこの地下倉庫で過ごしている。
王都にいる時間なんて、朝ギルドへ行って納品と依頼の受注をする程度だろう。普段なら納品を終えた後は王都内の商店で買い物をしたりしているのだが、受注したらすぐさま王都を出ているため最近は商店の方に顔を出せていない。
何故か。
それは、俺が恐れていた事態が起きたからだった。
「まさか、ミッチーを探しているとはな」
保存食を頬張りながら、ため息を吐く。
どうやら、俺が危惧していたミッチーの捜索部隊が動いているらしい。捜査には騎士団ならびに、その関係者が動いているとの情報も受付嬢から得ている。
一般市民が主体で構成されている兵士の捜索ではなく、その構成員のほとんどが貴族出身である騎士団。噂に聞いている勇者である《瞬閃》のエイリンという女性が所属していることもあってか、王国内でもかなりの発言力を持った組織とのこと。
そんな組織が中心となってミッチーの捜索? 聞いたときは思わず変な声が出た。
俺の予想に反して、かなり本格的に探しているらしい。
「見通しが甘かったか……」
ギルドの受付嬢にまで話が来ていると言うことは、この捜索の手はかなり広がっているのだろう。そうなると、そのミッチーというのが俺だと気付かれる可能性が高くなる。
見つかってしまえば、その先どうなるかの検討が全くつかない。つかないが、少なくとも城に連れていかれる可能性が高いとみている。
そして仮の話だが、アリアンヌの話を信じた王族が俺の魔法と言う常識外の力を求めた場合、俺がこれを断れば不敬だのなんだのと難癖付けられてしまう可能性もあるわけだ。
甚だ面倒くさい。
であれば、予定通り捜索から逃れ続けるのが一番だろう。【ステルス】があれば街の中でも問題なく行動できる。
それにこれまでの依頼でそれなりの資金は集まった。情報については、まだ十分とは言えないが……別の国でも情報は集められる。こうして身バレしていない間に、そろそろ次の国に行ってみるのもありだろう。
「せっかく別世界に転生できたんだ。まだまだ見て回りたいものはたくさんある」
それこそ、魔法を得た俺がこの人生で全部見れるかどうかだろう。だからこそ、長期間どこか一つの国に縛られるわけにもいかないのだ。
保存食の最後の一欠片を口の中に放り込んだ俺は、そのままベッドから立ち上がって【アイテムルーム】を発動する。
本来この魔法は俺とこの地下倉庫を繋ぐ魔法であるが、少しその繋がりをいじってやれば、俺が元居た場所に再度出口を繋ぐことが可能だ。
「おし、時間はちょうど良さそうだな」
出口の先は俺が薬草の採取を行っていた森の中。
今回の俺が採取しに来た薬草は、プラチナソウという飲むことで疲労を回復させることができるポーションの材料になる薬草だ。
その名の通り、薬草の葉が陽の光を浴びると白金色に輝くことからその名前が付いたらしい。もちろん、高級であるポーションの材料だ。希少な薬草であるが、【サーチ】を使う俺には見つけることは容易かった。
俺が普段受ける採取依頼の中で、最も報酬の良い依頼でもある。
ふふふ……おそらく、俺以上にこの薬草を採取してくるのがうまい冒険者はこの王都にはいないだろうさ。
「さて。あとは城門が開く時間に王都に入って、さっさと納品するだけか……金もできたし、この依頼が終わったら今日中に王都から出ることにしよう」
何事も善は急げという。
下手に長居しすぎていつかぼろが出てバレてしまうのなら、もう思い立った今からでも王都を出るのは間違った選択ではないはずだ。
捜索の手が俺にまで伸びないうちに。そう考えたが故の判断である。
しかしながらこの数時間後、この時の俺の判断はもう既に遅かったんだと思い知らされることとなるのだった。




