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異世界ファンタジー、魔法がないとはこれ如何に~転生者俺のみ魔法使い~  作者: 岳鳥翁


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第16話:薬草採取の依頼

 受付嬢のアルカイックスマイルに少しばかりの恐怖を抱きつつ、俺は借り受けた図鑑を手にギルドに併設された酒場の椅子に腰を下ろした。


 かなりの早朝であるため料理は仕込み中とのことだが、酒の提供はすぐにでもできるらしい。だからこんな時間でも飲んだくれがいるのか。

 仕込み中の店員に空いてる席に座ってもいいかと許可を取る。幸い、空いた席はそれなりにあったため快く承諾してもらえた。


「……やっぱり、文字か」


 さっそく図鑑を読もうと広げはしてみたが、やはりというべきか読めない文字がずらりと並ぶ図鑑を見て、こりゃいかんと意識を集中させる。

 言語習得は必須になるが、今すぐできるものではないため、ここは魔法の力を借りることにしよう。今までに目を通した文字をヒントに、さっそく【ホンヤク】の魔法を創作して図鑑に目を通していく。許せ、翻訳の英語がわからなかったんだ。


 俺の知識不足もあるため、意訳精度はかなり低い。しかし、全く読めないものが何とか読める程度になるのだ。かなり楽ができる。精度も、今後長くこの世界で暮らして行けば上がって行くはずだ。


 さて、そんなことはさておいて。変な意味に訳されている言葉に四苦八苦しながらそのまま読み進めていると、目的の薬草のページに辿り着いた。


「なるほど……」


 読んでいて分かったのは、俺がこれから採取しに向かう薬草はレッドハーブは火傷に、ブルーマリンは毒に、グリンは傷に効果のある薬を作るのに必要なもの……らしい。訳があっていれば、だが。


 図鑑にはどんな場所に生えるか、どんな大きさか、またその見た目についてなどの情報が書かれている。前世の様に何でもネットで調べられないこの世界では、確かにこの図鑑は貴重な情報源だろう。そりゃ、持ち帰らないように言われるのも納得だ。


 チラリと受付の方に目を向けてみれば、先ほど俺に図鑑を貸し出してくれた受付嬢と目が合った。まるで「わかっていますね?」とでも言いたげな笑顔を向けてきたため、俺はそっと視線を図鑑に戻す。


「……他にも見てみるか」


 欲しい情報は手に入ったが、時間もあるためもう少し図鑑を読みすす進めることにする。


 しかし、かなり分厚いこの図鑑。これに乗っている植物、ならびに怪物――俺が化け物と呼んでいた危険生物の事だ――をすべて記憶するなんて、到底無理話だろう。


 もちろん、普通ならである。


「【カメラ】」


 誰にも聞かれないように小さく呟いて魔法を使用する。その名の通り、俺の知るカメラ機能を再現する魔法だ。


 その効果は単純で、俺が視界に納めている光景を記憶するというもの。まぁ物理的なものではなく、あくまでも魔法で再現している概念的なものだと思えばいい。要するに、どういう理屈で記憶できるのかは俺にもわかっていない。

 がしかし、できるのならできるで仕方ないだろう。ありがたく利用させてもらうまでだ。


「これも【カメラ】。あ、こっちも【カメラ】。ついでに【カメラ】っと」


 最初のページから、順々に【カメラ】を使用して記憶していく。


 記憶したものは先ほど【カメラ】とともに創った【フォト】で思い起こすことが可能だ。更に【プロジェクト】を使えば、なにかに映し出すこともできるという優れもの。


 しばらくしてすべてのページに目を通した俺は、ニコニコ笑顔の受付嬢の元へ図鑑を返却した。


「ずいぶんと熱心にご覧になられていましたね」


「なかなか興味深いことばかりでしたので。つい、夢中になってしまいましたよ」


 そうですか、と図鑑を受け取った受付嬢にお礼を言い、改めて俺は依頼へと向かう。


 依頼にあった薬草は、全てこの王都から出た郊外の森に生えているらしい。ギルドを出て、俺はそのままの足で城門へと向かうことにする。まぁ、薬草採取の依頼だし、いざとなれば魔法もあるんだ。大荷物で準備せずとも、身一つで行けばいいだろう。


 ……あれ、城門といえばなにか忘れているような?





「まったく。そのまま依頼に行ってたら、帰りの宿は牢屋だったぞ?」


「誠に申し訳ございません……」


 そう言えば身分証ができたら来いと言われていたことを、城門の中年門番さんに声をかけられるまで完全に忘れていた今日この頃。


 ギルドで発行してもらった冒険者の証である木の板を提出すると、門番さんは呆れたような目で俺を見ていた。

 「今後は気をつけろよ」という門番さんにお礼を言ってから王都を出る。


 目的地は王都から南東方向十数キロほど先にある森林地帯。


 生息する怪物の危険度も低く、今回俺が採取する予定の薬草が生息する森の浅い部分には、危険な怪物もほとんど出ないとされている。俺のような新人にはお誂え向きの場所と言えるだろう。


 しばらくは徒歩で移動し、城門から離れた人目のない場所で魔法を使用する。


 使用する魔法はアリアンヌと別れた際に使用した姿を隠す魔法【ステルス】。

 光の屈折、反射を利用して周囲の風景に溶け込むだけ魔法であるため、触れられたりすれば簡単に居場所が判明するのだが、それさえなければ見つかるようなことはないはずだ。


 そして姿を隠した俺は、【フライ】で一〇メートル程の高さまで上昇。

 南東方向に向けて宙を駆けた結果、普通なら数時間かけて到着する森に僅か十分程度で到着した。


 近くに人がいないことを確認し森の中に降下した俺は、念のためにと【ステルス】は解除せずに薬草探しを開始する。


「【サーチ】」


 早速創ったばかりの物探しの魔法を行使し、目的の薬草がないか周囲一キロの範囲を捜索。

 探し物の特徴さえわかっていれば、その条件に合ったもののみが反応する魔法だ。前世なら、落とし物をしたときにはぜひ欲しい魔法である。


 そのまま【サーチ】を使い、森の入り口付近を探索。少し歩くと、探索範囲の端に反応が出た。近づくにつれて反応が増えていく。群生地だろうか?


「おぉ……あったあった」


 見つかったのは真っ赤な葉をつけるレッドハーブ。それがあちこちに生えている。


 見事な赤色をした葉だ。少しの間鑑賞し、たしか採取は根っこも含めてだったなと地面を優しく掘り返して採取していく。根っこを傷つけないために、そうして採取したほうが良い、とギルドで読んだ図鑑に載っていたのだ。


 しかし、その一本を採取したところで大事なことに気づく。


「しまった……薬草を入れるバッグがないぞ」


 採取したは良いが、それを入れておく入れ物がない。


 一応バッグはあるが、ここには残りの缶詰やお金などが入っているため、ここに薬草をぶっこむのはさすがにまずいだろうと諦めた。


 となると……


「それ用に魔法を創るしかないか」


 すぐに思いつくのは定番ともいえるアイテムボックスのような空間庫だ。

 しかしどうやって作ろうか……【ホンヤク】がうまく作れた以上は、どうにかこうにか何とか作れるような気はしているんだが……別空間という概念が曖昧であるため、いざイメージしようとしてもうまくいかない。

 重力であれば、まだ物理の範囲で解釈は可能だったので何とかなったが、これはなかなか厄介な問題だ。


 とはいえ、いつかは使いたいと考えている魔法。なんなら、空間に関わる魔法として転移魔法も使ってみたいとも思う。


「……そうだ、繋げればいいのか」


 はっ、と思いついたのは、どこかの倉庫と俺の居場所を繋ぐ魔法。ゲームのイメージでいえば、拠点のアイテムをいつでもどこでも取り出しが可能、みたいなものだろうか。


 そうときまれば、まずは倉庫を作らなくてはならない。それも絶対に誰にも見つからない場所にだ。


「さて、どこにしようか」


 とりあえず、採取したレッドハーブをもう一度同じ場所に埋め直す。

 絶対に俺以外の奴に見つからない場所。そう考えると意外と難しく思えてくるな……


 そしてどこにしようかと悩みぬいた末、俺がたどり着いた結論は地面の下、つまり地下倉庫だった。

 そうしてその日一日、俺は地下倉庫づくりに没頭することになるのだった。



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