第14話:魔法なんてなかった
「え……聞いたことない? 本当に?」
「え、ええ。そのマホウ? と言うのは聞いたことがありませんね。どういう武器なのでしょうか?」
それを聞いたときの俺の顔は、きっとものすごいマヌケな面を晒していたのだろう。動揺を何とか抑えて問うてみれば、受付嬢は首を傾げて質問を返してきた。
事が起きたのはつい先ほど。
冒険者として登録するためにとギルドへやってきた俺は、案内された先で登録手続きを行っていた。
手続きとはいっても、名前や出身の他に使用可能な武器についてだったり、それをどの程度扱えるのかといった簡単な質問に答えるだけのものだ。俺の場合はまだこの世界の文字が書けないため、代筆を頼んだ訳だが。
一応補足として言っておくが、書けないだけで読めないわけではない。変なところで気が利かないと文句を言いたくなるが、読めるのであれば文字を書けるようになるのも早いだろうポジティブに考えておくことにした。
そんなことはさておき、である。
名前はナオミチ・ワドウで、出身はどこだそれ? という受付嬢の目をスルーしてニホンで登録。しかし、躓いたのが使用可能な武器の項目だ。
「使用されている武器は何ですか?」という受付嬢の質問に対して、意気揚々と「魔法を使います!」と答えてみたのだが、受付嬢はキョトンとした表情で首を傾げるだけに留まったのだ。
いまいち反応の悪い受付嬢の様子に、もしや魔法が珍しいのだろうかと考えた俺は、それでも諦めずに「魔法ですよ魔法! 火を出したり、空を飛んだりできるやつですよ!」と説明したのだが、なぜか受付嬢の視線は怪しい奴を見る目に変貌していくばかり。しまいには、他の受付で待機している受付嬢が「この人、危ない人なんじゃ……?」と、まるで犯罪者でも相手にしているような空気になってしまう始末だ。
(おかしい……なんだ、この空気は。まるで俺がおかしい奴みたいなこの反応は……?)
……まさか、と思って俺は話を合わせることにした。
「あの……」
「あ……あはっはー! じょ、ジョーダンですよジョーダン! そう! 武器! マホウっていう俺の愛剣でしてね!? ここの王都に来る途中で盗られたんですよ……あれがあれば、俺は空を飛ぶことだってできるって思うくらいに強いんですけどねー!?」
あっはっはー! と少し大げさに反応してみれば、受付嬢は「そうでしたか」と俺から視線を外した。
きっとあまり関わらないほうが良いと思ったのだろう。だが、現状ではそれが一番俺にとってありがたい反応でもあった。
そこからはとんとん拍子に話が進み、無事に冒険者としての登録は完了。その際に手渡された木でできた簡素な板は、俺が冒険者であることを示す冒険者証であるらしい。
またこの板は冒険者としての等級を表しているらしく、依頼をこなして冒険者としての実力や信頼を得られればこの等級が上がるそうだ。この板も冒険者の等級を表しており、そこから等級が上がるにつれて素材も変化するとのこと。
詳しく聞いてみれば、木、鉄、銅、銀、金、真銀、神金という順に上がるのだとか。
事務的な対応でそんな話を聞いた俺は、少々気まずくなりながらもお礼を言ってギルドを出る。あの受付嬢の可哀そうな者を見る目に耐えきれなかったわけではなく、早急に調べるべきことができたからだ。
とりあえず、新しくローブを買う必要があると思ってローブを売っている店を訪れた。
そこで適当に自分の丈にあったローブを購入した俺は、早速それを身に着けて店を出る。フード付きなのはありがたい、とそのままフードを目深に被る。同じような奴をちらほらと見かけるため、目立つようなことは無いだろう。
「いらっしゃい。何を買う?」
「っ、すみません。少し見て回っても?」
「あいよ」
目に付いた武器屋に入ってみれば、いきなり声をかけられたことに少し驚いた。
王都に入った際俺が見かけた武器屋で、中には俺の胸くらいまでの身長なのに、俺の倍くらいはあるんじゃないかと思われる体つきをした髭面の男性がいる。腕は俺の太腿くらいの太さがありそうだ。これがドワーフという種族の特徴なのだろう。
素っ気ないドワーフの男の許可を得て、そのまま店内を見回った。
(うーん……何が良くて悪いのか、さーっぱりわからん)
刀剣類のような武器を直接見ることなんてあまりなかったため、剣の良し悪しなんてものはド素人である俺にはよくわからない。だがそれでも、なんとなくすごいのだろうということは感じられる。
今見ている剣なんて、いったい誰が振り回せるのかと思うくらいには巨大だ。
視線を移して店内をぐるりと見渡せば、剣に槍の穂先、鏃や盾にはたまた軽鎧などの鎧などが数多く揃えられている。だがそれでも、目当てであった杖のような、魔法使いが使うものは見られなかった。
「やっぱり、この世界には魔法が……」
「おい、兄ちゃん。あんた冒険者かい?」
「……え、俺ですか?」
どうしようかと頭を悩ませていると、ふいに声をかけられてしまった。
声のした方へと目を向ければ、そこにいたのは髭面をしたドワーフの男が一人。鍛冶作業による汚れなのか、真っ白だったであろう前掛けは酷く汚れ、その鼻頭も煤のようなもので黒く汚れている。
彼は俺の問いかけにフンッ、と鼻を鳴らした。
「おめぇ以外に人はいないだろう」
見回してみれば、たしかに客と呼べるのは俺ただ一人だけだった。どうやら、あまりにも悩んでいるから気になったらしい。ドワーフの男は「冒険者かい?」と俺に尋ねてくる。
首肯し、先ほど受け取った木の冒険者証を見せた。
「なるほど、新人か。おおよそ、村からこっちに出てきてばっかりで、武器を見に来たってところか」
どうりで体の線が細いと思ったぜ、と俺の体を見て呟いたドワーフの男は続けて言う。
「だがその体つきからして、まともに武器を扱ったことは無いんだろう? なら、冒険者なんてなるのは諦めた方が良いぞ。でなけりゃ死ぬだけだ」
「そ、そうですか……」
「受け答えを聞くに、兄ちゃんは頭は悪くないだろう? なら金稼ぐにしても、もっと向いた仕事があるはずだぜ。命を賭け金にして冒険者になる必要はない」
まるで諭すように言うドワーフの男。その言葉はぶっきらぼうながらもどこか優しさを含んでいるようにも思えた。
たしかにこのドワーフの男が言う通り、俺は武器を扱ったことはない。きっと言う通りにした方がいいのかもしれない。
だがしかし、せっかく転生して、魔法という力まで手にすることができたんだ。そんな、前世でもできそうなことをこの世界でもやるなんてもったいない。ならばこの未知の世界を、魔法という力で思う存分に冒険してみたいんだ。冒険者になったのはその一環だ。金を稼ぎながら冒険するには、ちょうどいい仕事だろう。
「大丈夫ですよ。身の程は弁えてますし、しばらくは安全な依頼をこなすつもりですから。それにこう見えて、強いかもしれませんよ?」
心配してくれているのであろうドワーフの男に笑いかけながら、俺は自信満々にそう言い切った。
するとドワーフの男は睨むような視線で俺を見るのだが、しばらくしてため息とともに肩を落とした。
「……そうかい。覚悟の上なら仕方ない。なら、俺の仕事はそんな新人が死なねぇように武器を見繕ってやるだけだ」
ものすごくかっこいいことを言って俺のもとまでやってくるドワーフの男。小さいはずなのに、その体つきから威圧されているような感覚を覚えた。
「で? 予算は?」
「えっと……このくらいです」
そういえば、武器ってどのくらいの値段がするものなのだろうか。よくわからないため、手持ちの予算を手に出して見せてみる。
掌にジャラリと出てきたのは、金貨が一枚と銀貨銅貨が数枚だった。これが今の全財産である。
「これならそうだな……簡単な防具とナイフくらいなら揃えられるな。どうする?」
「よろしくお願いします!」




