第11話:アリアンヌの帰還、そしてお別れ
「ほぉぉぉぉぉ!! すごいのです! 飛んでるのですよぉ!」
「あははは……なんかもう慣れたな、これ」
ローブを魔法で拡張し、形を固定させてできたのはハンググライダー。それに俺とアリアンヌの体が動かないように固定し、毎度おなじみの結界先生を展開すればあら不思議。
もうこれで空の遊泳が可能となる。
出だしからのアリアンヌのはしゃぎ声でだいたいを察せられるだろうが、現在俺たちは山頂からの風に乗って滑空中。
ローブを変形させて作ったグライダーだ。飛ぶ前に見たその姿は小さくて貧相。これで飛ぶぞと俺に言われた時のアリアンヌは、それはもう必死で首を横に振っていたのだが、落ちないうえに安全であることがわかればこんなものだ。
かくいう俺も、こうして空を滑空するのは初めてで意外と楽しんでいる。
今回はいつものように反重力で体を浮かす必要がないため、ある程度の風の操作で済んでいるのが大きい。かなり余裕を持てているのが自分のことながらよくわかった。
何気に、あの重力操作が一番難易度が高いのである。
「空中遊泳、意外と楽しいな!」
「楽しいのですよ! 姉さまだって、きっと空を飛んだことはないのですよ! 私が一番なのです!」
「そうかそうか! 楽しんでくれてるなら何よりだ!」
隣できゃっきゃっと笑っているアリアンヌから視線を外し、だんだんと近づいてくる王都に目を向けた。
巨大な城壁に囲まれた円形都市。そしてアリアンヌの目的地でもある王城は一段と高い場所にあり、その周りを更に壁で覆っていた。
かなりでかい。現に、見えているお城から王都の入り口となっている城壁まではかなりの距離がある。
よくあんな場所からお姫様を誘拐しようとしたものだ。
誘拐犯の手腕が良かったのだろうと、どうでもいことを考えながらハンググライダーを風で操作する。滑空と言う手段で空を飛んでいるため、その高度は徐々に落ちつつあるのだが、着陸できるまでにはまだかなり時間があるはずだ。
俺自身、しばらくはこの国に身を潜めるつもりだし、空から様子を見てみるのもありかもしれない。
「まだ着陸まではしばらくかかるし、王都を上から見てみるかい?」
「はいなのです!」
アリアンヌに提案してみれば、彼女も嬉しそうに賛成する。
それから着陸するまでの暫くの間、俺とアリアンヌの二人は王都の上空で遊覧飛行を行うのだった。
◇
無事に城門近くの誰にも目撃されない場所に着陸した俺たちは、そのままの足で城門へと向かった。
門の前には行商人や旅人の姿が多くあった。武装しているのはファンタジーでお馴染みの冒険者だろうか。よく見れば人間にはない特徴を持つ者がちらほらと見受けられる中、俺たちは最後尾に並んだ。
「おお! あれがエルフか……本当に耳が長いんだな。あっちは獣人。それも猫だな!」
弓と矢の入った矢筒を背にしている男性や、軽鎧を身に纏った猫耳の女性の姿、普通の人よりも長い耳を持つ綺麗な女性などなどなど……まさにファンタジーしているって感じがしている!
「初めてみるのですか?」
「そうだね。俺には新鮮だよ!」
俺が貸しているローブを身に纏ったアリアンヌが、フードの影から俺を見上げていた。
数日着ていて所々ほつれてはいるものの、俺の魔法で毎日汚れを落としていたドレスは一目見て高級品と分かるそれだ。当然、こんな人が多いところでは目立ってしまう。
そのため、アリアンヌには服装を隠すために並んでいる間は俺のローブで貸してやることにしたのだ。
……まぁ、このままいけばあげるのとそう変わらないことになるんだが。
こっそりと魔法を使用していることがバレないように、アリアンヌと会話を続ける。
「ふふっ、なのです。そんな様子じゃ、ミッチーはもっと驚くのですよ? この王都には、ミッチーが驚くようなことがもーっといっぱいあるのです! 今度私が案内をしてあげるのですよ!」
「……どうだろうね。もしそんな機会があれば、また頼もうかな」
「……? どういうことなのです?」
「次の者!」
首を傾げたアリアンヌであったが、どうやらちょうどよく前の人たちの手続きが終わったようだった。
何かを聞きたげなアリアンヌであったが、俺がさあ行くよ、と背中を押せば少し不満げな様子ながらもしっかりとした足取りで門番の前へ。
……ちょっと寂しいが、俺が関わるのはここまでだ。
「子供か? 顔を確認する。フードを取ってくれ」
無精髭を生やした中年の門番の言葉に従い、アリアンヌがそのフードを外した。
瞬間、その顔に見覚えがあったのか中年の門番は呆然とした様子でアリアンヌを見つめていた。
「ア……アリアンヌ……様!?」
「アリアンヌ様だ!! アリアンヌ様がお戻りになられたぞぉぉ!!!」
誰もが言葉を発しなかったのが一変し、途端騒がしくなる門番たち。
伝令であろう若い門番が王都の中に向かって走っていく。もう少しすれば、王城から迎えが来るだろう。
「アリアンヌ様……!! よくぞ……よくぞご無事で……!!」
中年の門番に至っては、膝をつき涙を流しながらアリアンヌの帰還を喜んでいた。
「むむ……! 私は帰って来たのですよ! ちょっと大変なこともあったのですが、全部ミッチーのおかげなのです! 感謝ならミッチーに言うのですよ!」
「ミッチー……ですか? 無礼を承知で申し上げるのですが、その……ミッチーとは、いったい誰のことなのでしょうか?」
「はい? 何を言ってるのですか? 後ろの人がミッチーなのですよ?」
ほらそこに、とアリアンヌが振り返る。
しかし、今の彼女には俺の事は見えていないはずだ。先ほどまではアリアンヌにのみ姿が見えるようにしていたが、もうすでに、彼女も見えないうちの一人だ。
こっそりとその場から離れて様子をうかがう。
「……ミッチー? おかしいのです。さっきまで一緒にいたのですよ!」
「ですが、アリアンヌ様は先ほどからお一人で並ばれていたと思うのですが……」
「そんなはずはないのです! 確かにいたのです! 街を案内する約束もしたのですよ!?」
城門前から飛び出し、辺りを探すように首を巡らせるアリアンヌ。
しまいには「ミッチー!」と俺の名を呼ぶが、俺が定めた俺の役割はここまでなのだ。心苦しいが、君と俺はここでお別れとなる。
やがて、いくら探しても見つからない俺に気疲れしたのかその場に座り込んでしまうアリアンヌ。
そしてついには城門前に馬車が到着すると、中からメイド服を着た数人の女性が下りてきた。
彼女らは先ほどの中年の門番にいくつか質問すると、今度はアリアンヌの下まで駆け寄り、力いっぱいアリアンヌを抱きしめていた。
そのままアリアンヌを抱き上げたメイド服の女性は、城門前に停車させた馬車へと向かう。
いやいやと首を振っているが、メイド服の女性は困り顔を浮かべながらもアリアンヌを馬車の中へと連れていった。
そして馬車の扉が閉じられる直前、最後の抵抗とばかりに馬車の外に顔を出したアリアンヌは、城門外に向かって叫んだ。
「ミッチーの! バカァァァァァァ!! なのですぅぅ!!!」
それを最後にバタンと扉が閉められた馬車は、馬の嘶きと共に王城へ向けて出発するのだった。




