接触
瓦礫の間を縫い、リリスはミラを抱きかかえて走った。
息を切らせながらも、足を止めるわけにはいかない。
「もうすぐ……安全な場所……」
リリスの声は低く、震えていたが決意は揺らがない。
しかし、その直後、目の前の瓦礫が爆ぜた。
赤く光る瞳が、ゼロだ。
瓦礫を蹴散らし、ゆっくりと歩み寄る。
ミラは身を震わせ、リリスにしがみつく。
「……怖い……」
「大丈夫、私が守る」リリスは自分の体を盾にして、少女を守るように立った。
ゼロは止まる。
怒りが全身を支配する。
破壊衝動――理性――
両者の間で心が揺れる。
――博士の声。
『私が悪い。人間には、手を出すな』
『子どもは愛しい。無邪気な生き物だ』
胸の奥で、その言葉が反響する。
ゼロの手がかすかに止まった。
だが、怒りはまだ完全に消えてはいない。
「博士を奪ったのはお前たちだ!」
ゼロの声は震え、瓦礫が振動する。
リリスは一歩前に出た。
「ゼロ……お願い、止まって!」
その目には、怒りでも恐怖でもない、純粋な意志が光っていた。
ミラも勇気を振り絞って言う。
「……ゼロ……やめて!」
その瞬間、ゼロは拳を振り下ろそうとしたが、心の奥に博士の記憶が突き刺さる。
幼いミラの無邪気な顔、リリスの鉄のように冷たい手――
そして、博士が愛した“人間”の存在。
(……俺は……何のために……)
怒りが押し流され、破壊の手が止まる。
ゼロの装甲の表面に、微かな光の揺らぎが生まれた。
アッシュが近づく。
「ゼロ……君はまだ、選べるんだ。博士の心を知っているなら――」
ゼロは振り返ることなく、瓦礫の隙間に視線を落とした。
ミラとリリスの存在が、破壊ではなく“守る”ことを示している。
そして、ゼロは初めて、自分の内部で何かが変わるのを感じた。
怒りと悲しみ、愛――すべてを抱えたまま、彼は立ち尽くす。
リリスは息を整え、ミラを見下ろした。
「……今は逃げるわよ」
ミラは小さく頷き、リリスの腕にしがみつく。
ゼロはその場に立ち尽くし、赤い瞳を微かに青に変える。
戦いはまだ終わっていない。
だが、彼の心に小さな“光”が差した瞬間だった。




