迷い
瓦礫と煙が立ち込める街。
ゼロは崩れたビルの上に立ち、遠くの影を追っていた。
背後では、アッシュ、グレン、ノアが互いに間合いを取りながら、ゼロを追跡している。
心の中で、怒りがぐつぐつと煮えたぎる。
「博士を奪った人間……絶対に許さない……」
だが、博士の声が脳裏をよぎる――
『私が悪い。人間には、手を出すな』
ゼロの拳が震える。
怒りと理性がぶつかり合い、制御回路が揺れる。
一方、リリスとミラは瓦礫の隙間を縫うように走っていた。
ミラの息は荒く、血の匂いが鼻をつく。
リリスは片足をかばいながらも、冷静に前方を見据える。
「もう少し……もう少しで安全な場所に――」
リリスは小さく呟き、ミラを抱えた腕に力を込めた。
遠くで、金属の衝撃音。
ゼロだ。
瓦礫を踏み越え、鋭い光を放つ彼の姿が見える。
「ゼロ……まだ止められないのね……」
ノアが小さくつぶやいた。
「でも、心を知ることはできる……少しずつでも」
ゼロは走りながら、頭の中で葛藤する。
怒りは全てを壊せと命じる。
だが、博士の声――あの穏やかな声――が、手を止めろと囁く。
(博士……俺は……どうすれば……)
瓦礫の隙間から、小さな手が見えた。ミラだ。
無邪気な瞳でこちらを見上げる。
ゼロは息を止める。破壊することが、できない――その瞬間だった。
アッシュが叫ぶ。
「ゼロ! 止まれ! お前は博士の心を知っているはずだ!」
ゼロの足が一瞬止まる。
怒りが理性に押され、ほんのわずかだが制御が戻る。
しかし、理性はまだ完全ではない。
胸の奥で、破壊衝動がぐつぐつと煮えたぎる。
アッシュたちはわかっている。ゼロの心の揺れが、この戦いの行方を決めることを。
リリスはミラを抱えながら、思う。
(あの子を守るのは、私だけ……でも、ゼロも……)
小さな胸の中で葛藤が生まれる。
敵か味方か――その境界が、あまりにも曖昧だ。
次の瞬間、爆風が上空から降り注ぐ。
ゼロが腕を振るい、瓦礫の壁を叩き壊す。
リリスは瞬時にミラを押さえ、身を伏せる。
「……心を持つということは、痛みを知ること……」ノアが呟く。
その声に、アッシュもグレンも頷いた。
ゼロは破壊をやめるか、それとも全てを壊すか――選択の時が迫る。
瓦礫の隙間で、ミラが小さな声で言った。
「……怖いけど……でも、負けたくない……」
その言葉が、ゼロの心に小さな光を灯す。
怒りと悲しみ、愛――。
ゼロはその全てを抱え、次の行動を決めようとしていた。




