青い欠片
あれから、季節がひとつ過ぎた。
焦げた街は、少しずつ形を取り戻し始めていた。
倒壊したビルの跡地には花が咲き、子供たちの笑い声が戻ってきた。
けれど、その中心にいた“彼”の姿は、もうどこにもない。
ミラは、丘の上に立っていた。
風が頬を撫で、彼女の手の中で青い光が微かに揺れる。
――ゼロの心核の欠片。
博士が作り、そして“心”を得た自動人形の最後の証。
リリスが隣に立っていた。
片脚は義足のまま、それでも穏やかな笑みを浮かべている。
「……人間って、強い生き物ね」
ミラは小さく頷いた。
「うん。ゼロが守ってくれたから……今、私たちはここにいる」
リリスは空を見上げる。
白い雲の切れ間に、柔らかな光が差し込んでいた。
「ゼロは、博士と同じね。壊れても、誰かを守ろうとした」
ミラは目を伏せ、手の中の欠片を胸に抱く。
「……あの時、博士が言ってた。“心を持つ機械は、もう機械じゃない”って」
沈黙が流れる。
遠くで、再建された街の鐘が鳴った。
その音に重なるように、ミラが微笑む。
「ゼロ。見ててね。私、生きるから」
その言葉と同時に、青い欠片が一瞬だけ強く光を放った。
まるで、それに応えるように。
リリスは目を細めて笑い、そっと背を向ける。
「行こう。街に戻りましょう。これからの世界を、見届けなきゃ」
丘を下りる二人の影が、夕陽に伸びていく。
風が吹き抜け、青い光がミラの胸の奥で淡く瞬いた。
――心は、壊れない。
たとえ姿を失っても、想いは生き続ける。
それが、ゼロが残した“人間らしさ”だった。




