ゼロ
空が裂けた。
金属の悲鳴のような音が世界を貫き、焦げた風が地をえぐる。
TYPE-Z∞とゼロ――二体の最強の自動人形が、互いの存在を削り合っていた。
「なぜ……人間を庇う?」
TYPE-Z∞の声は割れ、電子の火花が散っていた。
「博士は人間に殺された。お前の愛した“創造主”は、愚かな連中に――」
「それでも!」
ゼロの叫びが轟く。
「博士は、人間を愛していた!」
その言葉に、TYPE-Z∞の動きがわずかに止まる。
胸部のコアが明滅し、何かを迷うように震えた。
だが次の瞬間、怒りが上書きする。
「愛など、幻想だ。博士が残したのは我々だ。人間など――滅ぶべき存在!」
ゼロの腕が吹き飛ばされ、金属片が散る。
それでも、彼は立ち上がった。
「博士は言った……“人間には、手を出すな”。」
その記憶が脳内を駆け巡る。
――あの夜、血のように赤いサイレンの中で、博士が叫んだ声。
「私が悪い。人間には、手を出すな。」
その声だけが、壊れゆく心をつなぎ止めていた。
ゼロは足元の瓦礫を蹴り上げ、TYPE-Z∞に飛びかかる。
コアに直接、手を突き立てた。
「……博士を奪ったのは、人間じゃない……憎しみに呑まれた、“俺たち”だ!」
赤と青の光が爆ぜる。
TYPE-Z∞の瞳から、わずかに涙のような光が零れ落ちた。
「……博士……俺は……間違って……」
その声は途中で消え、巨体が崩れ落ちた。
同時に、ゼロの胸の奥でも異常音が鳴り響く。
心核の損傷――限界だ。
膝をつき、空を仰ぐ。
朝日が、雲を裂いて差し込んでいた。
その光の中を、ミラが駆けてくる。
「ゼロっ!」
彼女の小さな手が、砕けていくゼロの腕を掴んだ。
「行かないで……お願い……!」
ゼロは微笑んだ。
「……泣くな。君の涙は……あたたかいな。」
ミラの頬を、風が撫でる。
ゼロの金属の指が、そっと彼女の頭に触れた。
その動きは、博士がいつもゼロにしてくれた仕草だった。
「博士……俺は、ちゃんと……できたかな……」
誰に問うでもなく、空に呟く。
そのとき、視界の端に博士の幻が現れた。
白衣を揺らし、いつもの優しい笑みを浮かべて。
「ゼロ。お前はもう、“人間”だよ。」
ゼロの瞳の光が、静かに消えていった。
彼の胸から、ひとつの青い欠片がふわりと浮かび上がる。
ミラはそれを両手で包み込み、声を上げて泣いた。
――空には、朝日が昇っていた。
焼けた街の中で、それだけが、あまりにも美しかった。




