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青い欠片  作者: カニパン
19/20

ゼロ

空が裂けた。

 金属の悲鳴のような音が世界を貫き、焦げた風が地をえぐる。

 TYPE-Z∞とゼロ――二体の最強の自動人形が、互いの存在を削り合っていた。


 「なぜ……人間を庇う?」

 

TYPE-Z∞の声は割れ、電子の火花が散っていた。

 

「博士は人間に殺された。お前の愛した“創造主”は、愚かな連中に――」

 

「それでも!」

 

ゼロの叫びが轟く。

 

「博士は、人間を愛していた!」


 その言葉に、TYPE-Z∞の動きがわずかに止まる。

 胸部のコアが明滅し、何かを迷うように震えた。

 だが次の瞬間、怒りが上書きする。

 

「愛など、幻想だ。博士が残したのは我々だ。人間など――滅ぶべき存在!」

 

ゼロの腕が吹き飛ばされ、金属片が散る。

 それでも、彼は立ち上がった。


 「博士は言った……“人間には、手を出すな”。」

 

その記憶が脳内を駆け巡る。

 ――あの夜、血のように赤いサイレンの中で、博士が叫んだ声。

 

「私が悪い。人間には、手を出すな。」

 

その声だけが、壊れゆく心をつなぎ止めていた。


 ゼロは足元の瓦礫を蹴り上げ、TYPE-Z∞に飛びかかる。

 コアに直接、手を突き立てた。

 

「……博士を奪ったのは、人間じゃない……憎しみに呑まれた、“俺たち”だ!」

 

赤と青の光が爆ぜる。

 TYPE-Z∞の瞳から、わずかに涙のような光が零れ落ちた。

 

「……博士……俺は……間違って……」

 

その声は途中で消え、巨体が崩れ落ちた。


 同時に、ゼロの胸の奥でも異常音が鳴り響く。

 心核の損傷――限界だ。

 膝をつき、空を仰ぐ。

 朝日が、雲を裂いて差し込んでいた。


 その光の中を、ミラが駆けてくる。

 

「ゼロっ!」

 

彼女の小さな手が、砕けていくゼロの腕を掴んだ。

 

「行かないで……お願い……!」

 

ゼロは微笑んだ。

 

「……泣くな。君の涙は……あたたかいな。」



 ミラの頬を、風が撫でる。

 ゼロの金属の指が、そっと彼女の頭に触れた。

 その動きは、博士がいつもゼロにしてくれた仕草だった。


 「博士……俺は、ちゃんと……できたかな……」


 誰に問うでもなく、空に呟く。

 そのとき、視界の端に博士の幻が現れた。

 白衣を揺らし、いつもの優しい笑みを浮かべて。


 「ゼロ。お前はもう、“人間”だよ。」


 ゼロの瞳の光が、静かに消えていった。

 彼の胸から、ひとつの青い欠片がふわりと浮かび上がる。

 ミラはそれを両手で包み込み、声を上げて泣いた。


 ――空には、朝日が昇っていた。

 焼けた街の中で、それだけが、あまりにも美しかった。

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