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6 言い訳

 今日は、昨夜より早い時間だからか、リリアはまだ眠っていませんでした。

 焚き火の前に座って、手を暖めています。そばには果物や木の実の殻があったので、夕食に食べたのでしょう。

 耳を澄ますを、小さな声で歌っているのが聴こえてきました。ディックも知っている童謡でした。

 ディックは耳を閉じてリリアの歌声を聴いていました。

(なんか、懐かしい気がする……童謡だからかな?)

 昔よく歌っていた歌なので、懐かしい気がするのでしょうか。

 しばらく可愛らしい声を聴いていましたが、ふと歌声が途切れます。ディックが草の茂みから覗いてみると、リリアはウトウトと眠そうに目をこすっています。

 リリアは小さくあくびをすると、昨夜と同じように大きな木の穴に横になりました。それから、すぐに眠ってしまいました。

 ディックは、リリアに近づきます。

 途中で木の枝を踏んでしまい、パキッと音がしたため足を止めます。じっとリリアの様子を観察しますが起きる気配はありません。

(こんなに警戒心がないなんて、この子大丈夫かな?)

 起きられても困りますが、リリアのあまりの警戒心のなさにディックは心配になりました。ディックはリリアに危害を加える気は全くありませんが、もし他の動物などが近づいても眠ったままだったら危険です。

 ディックは家から持ってきたフワフワの毛布をリリアに掛けます。

 それから、思い付いたようにポケットの中に入れてあった紙切れに、なにか書き始めました。



『森は危険だから、早く出たほうが良い。この毛布も返さなくていいから』


 短い文で、この森を出るように伝えます。リリアも名前を書いていたので、ディックも書いたほうが良いでしょうか? と、うーんと悩んだディックでしたが、あえて名前は書きませんでした。

(コートも僕のだって分かったみたいだし……)

 それに、名前を教えるなんて、なんだか仲良くなったみたいではありませんか。

 リリアは危険な人間ではないと、ディックも分かっています。むしろ、小さくて弱々しくて、守ってあげないと危険に晒されそうな気がします。

 だから、ついつい自分に言い訳をしながら、ディックはリリアの様子を見に来てしまうのです。出会ってから、まだまともに会話をしたことはありませんが、もし他の獣人が二人の様子を見ていたら、十分仲が良さそうに見えるでしょう。

 でも、長年「人間は怖い」とトラウマを抱えていたディックに、リリアと仲良くなっているという事実は、なかなか受け入れられません。

(人間が森に居ると、気になって休めないからだ)

 様子を見に来る理由を、いちいち心の中で呟いてしまいます。


 紙切れを小石で挟むと、ディックは昨夜と同じように、焚き火の番をしながら夜を過ごしたのでした。

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