4 焚き火の番
焚き火は動物避けになります。
おかげで、この近くには危険な動物は近づいて来ていないみたいです。
(でも、火が消えたら危ないんじゃない?)
ディックはしばらく考えたあと、少し離れた場所で、火が消えないか見張っておくことにしました。
(他の人間は居ないみたいだし、女の子ひとりなんて、危ないじゃないか)
昼間は突然現れた人間に驚いて逃げてしまいましたが、冷静に考えてみれば女の子ひとりにそんなに怯えることはないのです。
念のため耳を澄ませてみますが、女の子以外に人間がいる気配はありません。
「……くしゅっ」
女の子が突然、小さなクシャミをしました。
驚いて数歩下がってディックは女の子をじっと見つめますが、女の子が目覚めた様子はありません。
スヤスヤと小さな寝息が聴こえてきます。
でも、薄い毛布を被っているだけなので、とても寒そうに見えます。
(このままじゃ、風邪を引きそうだな)
ディックはそーっと女の子に近づくと、着ていたコートを脱いで、更にそーっと掛けてあげました。
温かさに包まれると、女の子は表情を柔らかくした気がして、ディックはホッと息を吐きます。
ディックは、女の子が眠っている木が見える場所で、火が消えないか見張ることにしました。
途中で、心配していた通り何度か火が消えそうになってしまいました。ディックは枯れ木を集めて、そっと火が消えないように焚き火にくべてあげました。
(人間の心配するなんて、僕は何やってるんだろう)
人間は怖いから近づきたくありません。
だけど、こんなか弱そうな女の子を夜の森に放っておく気にはなれませんでした。
チロチロと燃える火を遠くから眺めながら、ディックは自問自答しながら夜を過ごしました。
東の空が明るくなってきたころ、ディックは眠たい目をこすりながら立ち上がります。
朝になれば、女の子が肉食動物たちに襲われる危険は少なくなるはずです。
(あ、コートどうしよう)
女の子に掛けてあげたコートをどうするか、ディックは悩みました。
(まぁ、いっか。まだ寒いし、コートを取ったときに起きちゃうかもしれない)
コートは女の子に掛けたままにすることにしました。
家に帰れば、何枚かコートがあるので問題はありません。
ディックは立ち去る前に、もう一度枯れ木を焚き火にくべるため、女の子の眠る木に近づきました。
女の子はディックが近づいても起きる気配はなく、気持ち良さそうに眠っています。
夜中は暗くてあまり女の子を見ていませんでしたが、明るくなったのでよく見えるようになりました。
小柄な女の子です。
年はディックと同じか、少し年下のように見えます。
ディックのコートをキュッと掴む手は、ディックと比べると、とても小さな手でした。
(僕に何の用事だったんだろう?)
昨日話しかけてきたということは、ディックに用事があったからでしょう。
どうして話しかけてきたのか気になりましたが、自分から女の子を起こして聞く気にはなれません。
(まあ、いいや。きっと起きたら森の外に帰るだろうし、もう関係ないな)
ディックは少し後ろ髪を引かれる気持ちで帰路につきました。