第4話:恋の障害と成長
ウィリアムとの愛を確かめ合ったエレーナ。彼女の日々は、幸せに満ちていた。
「エレーナちゃん、最近は本当に嬉しそうね」
「そうなんです、エミリアさん。毎日が楽しくて……」
「ふふ、恋をすると女の子は輝くのよ」
エミリアさんの言葉に、エレーナは頬を赤らめる。確かに、ウィリアムとの恋は、彼女を内側から輝かせていた。
そんなある日、エレーナは街の雑貨屋で見知らぬ女性から声を掛けられた。
「あら、あなたがエレーナさん?花屋で働いているって聞いたわ」
「え、はい……。どなたでしょうか?」
「私はリリアン。ウィル……じゃなかった、ウィリアム様の幼馴染よ」
リリアンという女性は、上品な雰囲気を纏っていた。そして何より、ウィリアムとの関係を匂わせる言葉に、エレーナは胸が痛んだ。
「ウィリアムさんの幼馴染……」
「ええ。私たちは子供の頃から一緒で、将来は結婚するものだと思っていたの」
リリアンの言葉は、エレーナの心に暗い影を落とした。ウィリアムには、結婚を約束した女性がいたのだ。
「でも、最近ウィリアム様が花屋に通っているって聞いて……。まさかあなたに夢中になっているなんて」
「私は……」
「いいでしょう。私がウィリアム様の心を取り戻すから。あなたは身の程を知るのよ」
そう言い残して、リリアンは雑貨屋を後にした。ショックを受けたエレーナは、その日、花屋を休むことにした。
家で一人、考え込むエレーナ。ウィリアムへの愛は本物だったが、リリアンの存在は脅威だった。
「私には……ウィリアムさんにふさわしくないのかもしれない……」
悲しみに暮れるエレーナ。そのとき、ドアがノックされた。
「エレーナさん、いるんだろう?」
ウィリアムの声だった。エレーナは驚いて、ドアを開ける。
「ウィリアムさん……どうしてここに……」
「君が花屋を休んだと聞いて、心配になってね」
ウィリアムは、エレーナを見つめた。彼の瞳は、いつものように優しかった。
「エレーナさん、何があったのか教えてくれないか?」
「ウィリアムさん……私、リリアンさんに会ったの」
エレーナは、リリアンとの出来事を話した。聞き終えたウィリアムは、深いため息をついた。
「リリアンが……君に会ったのか」
「ウィリアムさん、リリアンさんとの約束は……本当なの?」
「昔の話だよ。子供の頃に、リリアンと結婚の約束をしたことがあった。でも今は、君を愛している」
ウィリアムはエレーナの手を取り、真摯な眼差しで語りかける。
「エレーナさん、僕の気持ちは変わらない。君と一緒にいたいんだ」
「でも、私には……ウィリアムさんにふさわしくないわ。リリアンさんは上品で美しい方だったもの」
「君はそれ以上に美しいよ。外見だけじゃない、君の心が僕を惹きつけるんだ」
ウィリアムの言葉に、エレーナの不安は少しずつ和らいでいった。でも、リリアンの存在は、まだ彼女の心に重くのしかかっていた。
数日後、リリアンから手紙が届いた。エレーナを森の中の小屋に呼び出す内容だった。
「どうしよう……行くべきかしら」
悩むエレーナ。だが、リリアンとの関係を清算しなければ、前に進めないような気がした。
約束の日、エレーナは森の小屋を訪れた。するとそこには、リリアンが待っていた。
「よく来たわね、エレーナさん」
「リリアンさん……私には、ウィリアムさんとの愛を諦める気はありません」
「ふん、だったら私と勝負しましょう。ウィリアム様の心を、私たちのどちらが掴めるか」
リリアンは、剣を手に取った。エレーナを討とうとしているのだ。
「リリアンさん、やめて!私は、あなたと戦うつもりはないわ」
「なら、ウィリアム様を諦めなさい。私は、あの人を絶対に手放さない」
リリアンの剣が、エレーナに向かって振り下ろされた。覚悟を決めるエレーナ。しかし、
「リリアン、やめろ!」
ウィリアムが飛び込んできて、剣を弾いた。驚くリリアンとエレーナ。
「ウィリアム様……どうしてここに……」
「リリアンから君への挑戦状を見つけたんだ。それで、君を守りに来た」
ウィリアムはエレーナの前に立ち、リリアンを見据える。
「リリアン、君には悪いと思っている。でも、僕はエレーナさんを愛しているんだ」
「ウィリアム様……」
「昔の約束は、今の僕たちを縛るものじゃない。君も、新しい人生を歩んでほしい」
ウィリアムの言葉に、リリアンは涙を流した。そして、剣を捨てた。
「ウィリアム様……私、負けました。あなたの気持ちは、エレーナさんのもの。私は……身を引きます」
リリアンは、小屋を後にした。ウィリアムとエレーナは、抱き合った。
「ウィリアムさん……ありがとう」
「君を守るのは、当然のことだよ。君は、僕の大切な人なんだ」
ウィリアムの胸に顔を埋めるエレーナ。リリアンとの一件は、彼女に大きな試練だった。でも同時に、ウィリアムとの絆を深める出来事でもあったのだ。
「何が起こっても、私はあなたを信じ続けます。私たちの愛を、誰にも壊させたくない……」
「ああ、僕もだ。君と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」
愛を誓い合うエレーナとウィリアム。二人の恋は、新たな障害を乗り越えて、より強いものになっていた。
森を後にした二人。手を繋ぎ、寄り添いながら歩く。
「エレーナさん、僕と一緒に、この町を出ないか?」
「え……?」
「君と二人で、新しい人生を始めたいんだ。どこか遠くで、君と暮らしたい」
ウィリアムの突然の提案に、エレーナは戸惑った。この町には、エミリアさんや、お世話になった人々がいる。簡単に決められない。
「ごめんなさい、ウィリアムさん。もう少し、時間をください」
「分かったよ。君の決心を待つから。僕は、いつでも君のそばにいるよ」
エレーナの頬にキスをするウィリアム。彼女の心は、新たな選択に悩み始めていた。
花屋の仕事に戻ったエレーナ。でも、ウィリアムの言葉が、彼女の中でこだましている。
「新しい人生……ウィリアムさんと一緒に……」
考え込むエレーナに、エミリアさんが声を掛けた。
「エレーナちゃん、悩んでいるのね」
「エミリアさん……」
「ウィリアム君から、町を出ようと言われたのでしょう?」
エミリアさんの言葉に、エレーナは驚いた。彼女は、いつも見透かされているようだった。
「私、どうしたらいいか分からないんです。ウィリアムさんとの未来も大切だけど、この町の皆さんにも感謝しています」
「エレーナちゃん、あなたの幸せが一番大事よ。私たちは、あなたが幸せならそれでいいの」
エミリアさんは、エレーナの手を握った。その温かさに、エレーナは涙があふれた。
「ありがとうございます、エミリアさん。私、ウィリアムさんと一緒に行くことに決めました」
「良かったわ、エレーナちゃん。あなたの幸せを、心から祈っているわ」
エミリアさんに抱きしめられ、エレーナは決意を新たにした。この町での日々は、彼女の心の支えになった。でもこれからは、ウィリアムとの新しい人生が待っているのだ。
ウィリアムのもとへ向かうエレーナ。彼は、いつもの場所で待っていた。
「ウィリアムさん、私……」
「エレーナさん、君が来てくれて嬉しいよ」
「ウィリアムさん、私、あなたと一緒に行きます。どこへだって」
エレーナの言葉に、ウィリアムは歓喜の笑みを浮かべた。そして彼女を抱きしめた。
「エレーナさん……!僕は君を幸せにするよ。必ず」
「私も、あなたを幸せにします。私たちなら、きっと幸せになれる」
感極まった二人は、長いキスを交わした。新しい人生の始まりを祝福するかのように、風が優しく吹いていた。
数日後、エレーナはこの町を発った。見送りには、エミリアさんを始め、お世話になった町の人々が集まった。
「エレーナちゃん、元気でね。あなたの幸せを祈っているわ」
「ありがとうございます、エミリアさん。この町での思い出は、一生忘れません」
涙ながらに別れを告げるエレーナ。ウィリアムの手を握り、馬車に乗り込んだ。
「さよなら、私の大切な町……。そして、ありがとう……」
馬車が町を離れていく。エレーナの心には、感謝と決意が満ちていた。ウィリアムとの新しい人生。彼女はそれを、全力で生きようと誓った。
「ウィリアムさん……これからもよろしくね」
「ああ、エレーナさん。君と一緒なら、どんな人生も幸せだよ」
手を握り合う二人。馬車は、新しい未来へと走り出した。エレーナの冒険は、新たな一歩を踏み出したのだった。