第1話:婚約破棄と自立の決意
エレーナ・ラフォードは、王都の屈指の名家に生まれた19歳の令嬢だった。幼い頃から王太子との婚約を約束され、将来の王妃としての教育を受けてきた。優雅な所作、政治的知識、そして王国の歴史……エレーナは全てを学び、完璧な王妃になる日を夢見ていた。
しかし、その運命は突然の知らせによって大きく変わることになる。
「エレーナ、あなたにお伝えするのはとても辛いのですが……王太子殿下との婚約が破棄されてしまいました」
母親から告げられた言葉に、エレーナは目を見開いた。信じられない、そう思いながらも、母親の真剣な表情を見て、現実を受け止めざるを得なかった。
「どうして……?私は何も聞いていません……」
「政略結婚のための新しい候補者が現れたそうです。王太子殿下も、国王陛下の意向には逆らえなかったようで……」
エレーナの気持ちなど、誰も考慮していなかった。ショックを受けたエレーナは、部屋で泣き崩れた。幼い頃からの夢が、一瞬で打ち砕かれたのだ。
「私は……王太子殿下を愛していたわけではありません。でも、王妃になることが私の人生の全てでした……。今更、何を目指せばいいの……?」
涙が枕を濡らす中、エレーナは自問自答を繰り返した。王妃になる以外の人生など、考えたこともなかった。
しかし、涙が乾くにつれ、エレーナの心には新たな決意が芽生えていた。
「今までは王妃になることだけを考えていた……でも、これからは自分の人生を生きよう。自分の力で、幸せを掴んでみせる……!」
翌朝、エレーナは両親に、実家に戻らず自立することを宣言した。
「お父様、お母様……私は自立することに決めました。王都を離れ、自分の力で生きていきたいと思います」
「何を言っているの、エレーナ!あなたは令嬢なのよ。独りで生きていくなんて……」
「お母様、私は決意しました。今までのように、他人に人生を決められるのは嫌なんです。自分の人生は、自分で切り開きたい……」
エレーナの真剣な眼差しを見て、両親は黙り込んだ。父親は深いため息をつき、娘の肩に手を置いた。
「エレーナ、お前の決意は分かった。無理はせず、いつでも戻ってきていいからな」
「ありがとう、お父様……」
こうして、エレーナは王都を離れる準備を始めた。身の回りの品を詰め込んだ大きな鞄を持ち、エレーナは馬車に乗り込んだ。
「さようなら、王都……。そして、私の過去……」
窓の外に広がる景色を見つめながら、エレーナは新しい人生への期待に胸を膨らませていた。
馬車は、王都から遠く離れた小さな町へと向かった。町に降り立ったエレーナは、深呼吸をして、新鮮な空気を吸い込んだ。
「さて……まずは住む場所を見つけなくちゃ」
町を歩いていると、一軒の小さな家の前で立ち止まった。家の前には「入居者募集」の看板が掲げられている。勇気を振り絞り、エレーナはドアをノックした。
ドアが開き、優しそうな中年の女性が現れた。
「こんにちは、私はエレーナと申します。入居者募集の看板を見たのですが……」
「あら、いらっしゃい。ちょうど空室があるのよ。家賃は安いけれど、少し古い家だけれど、気に入ってくれたら嬉しいわ」
女性はにこやかに微笑み、エレーナを家の中へと招き入れた。
部屋を見せてもらったエレーナは、それが気に入った。小さいけれど、清潔で明るい部屋だ。
「ここなら、新しい生活を始められそうです。お借りしたいです」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。私はマーサと言うの。隣に住んでいるから、何かあったら言ってね」
マーサさんとの出会いに、エレーナは温かい気持ちになった。一人ぼっちではない、そう感じられたのだ。
部屋で荷物を整理しながら、エレーナは窓の外を眺めた。夕日が町並みをオレンジ色に染めている。
「明日からは……仕事を探さないと。私にできることは、何かあるかしら……」
不安もあったが、新しい生活への期待の方が大きかった。エレーナは、自分の力で幸せを掴むことを誓ったのだ。
「お母様の言う通り、令嬢だった私には、何もできないかもしれない……。でも、努力することはできる。一生懸命、自分の道を見つけてみせる……!」
婚約破棄という辛い出来事から始まったエレーナの人生。しかし、彼女は諦めずに前を向いた。自分の人生を歩む決意をしたエレーナに、果たしてどんな未来が待っているのだろうか……。
物語は、次の展開へと続く。