第1章-2
結局のところ、この日はシェラ以外の召喚士はモントレアに来なかった。
明日は誰か来てくれるかしら。フレイは不安を抱きながら里へと向かう。
竜騎士を志すヒト達が集い、修行する里。里長の名を取って『シノの里』と呼ばれている。里長が代われば呼び名も変わる……というわけではなく、初代里長の名がシノだった、というだけだ。
モントレアの大きな門を抜け、そばにいた飛竜シーナに乗って合図する。2つ羽ばたくだけで遠くのレイア火山の全貌を眼下に見下ろす程の高度になる。
「あーあ、シェラにフラれたわ。まったく……どうしちゃったのかしらね」
ついシーナに不満を漏らす。ゆっくり高度を下げながら、飛竜はチラッと目だけ動かす。飛竜の尾のような形をした、『竜尾の谷』というそのまんまの名前の谷に入り、さらに降下しながら奥へと進むと、ぼんやりと小さな灯りが見えてきた。その手前で飛竜は着地した。
シーナの額を愛撫し、フレイは里の門をくぐる。中の造りはモントレアと変わらない。というかほぼ同じだ。違うのは聖なる炎を灯した松明が無いだけか。
一際大きくて立派な建物の引き戸を力無く開けると、奥から「お帰り!」と威勢のいい声が飛んできた。
「あら、随分とお疲れじゃない。召喚士様に会えなかったの?」
この里長の娘、カヤが出迎えてくれた。彼女は乙女から程遠く、男まさりでサッパリした性格。竜騎士候補生の男子にゲキを飛ばすクールビューティー。袖のない着物に臙脂色の袴。同じ女なのに惚れてしまうくらいカッコいいお姉さんだ。身寄りのないフレイを妹のように可愛がってくれている。
「会えたのは会えたんだけど、断られちゃった」
苦笑いを浮かべながらフレイはぽつりと話す。すると、カヤは目をまん丸にして「はあ!?」と怒りを露わにした。慌てて落ち着かせる。
「そんな怒らないで……!何か事情がありそうだったから……」
「事情って何よ」
「それは……聞けなかったの。ごめん、としか言ってくれなくて……」
「こんな大変な時に……!誰よそれ!」
「……シェラ。シェラード」
「え……シェラード様?」
一気に熱りが冷め、カヤは大人しくなった。
「地界イチの召喚士様が、どうして御魂送りの儀を断るの?てか、断ること自体初めてじゃない?」
カヤは腕を組んで首を傾げる。フレイも頷く。
暴竜を封印した場所を告げた途端に断られたことから、昔里で何かあったのだろうと確信していた。しかし、その何かが全くもって思いつかない。
「とにかく、長に報告してくるわ。もしかしたら、シェラの事で何かご存知かもしれないし」
「そうね。あたしもついていっていい?」
「もちろん。今後の事も話し合いたいし」
フレイとカヤはお互いに頷き、里長のいる居間へと向かった。
居間には里長がひとり、静かに座っていた。カヤの父で里長のエンキは、初代里長の家系の末裔。後継者は必ず男性と決まっており、次はカヤの弟のレンだそうだ。
どこか悩ましい表情なのが気になったが、そっと声を掛けた。すると顔が緩み、小さく微笑んだ。
「お帰り、フレイ。今日はどうでしたか」
物静かに話すエンキは、やや色黒の肌に白髪混じりの髪、白い顎ひげを蓄えており、歳もそれなりに重ねている。が、現役の竜騎士であり、巧みに操る様は華麗で右に出るものはいない。……とカヤが自慢していた。
フレイはエンキと向かい合うようにそっと座り、一息ついて今日の事を話した。シェラの名前を出した一瞬、里長は眉間にしわを寄せた。
しかしなぜ?彼は召喚士なのに?
「シェラード……彼は元気でしたか?」
そう聞かれて黙って頷く。エンキは目を閉じて2、3呼吸おいて口を開いた。
「其方が彼と出会ったのは、いつの頃だったかの?」
急に問われて戸惑った。いつだったっけ……。
「私がシーナに認められて、初めて竜騎士として地界から天空界へ移動するヒトビトの護衛についた時……だったと思います。光の国ルクシアで……当時はあの国の召喚士として巡礼していた……だったと」
「ふむ。既に召喚士であったか」
「はい。……まさか?」
フレイは勘づいた。里長も察したようで、ゆっくり頷いた。
「彼は元竜騎士で、私に迫るほどの腕前だった。しかし、あの事件を機に、里の出入りを禁じざるを得なくなった。なぜ禁じられたか、其方ならわかるよの?」
込み上げてくるものを必死に抑え、震えながらもなんとか頷く。
竜騎士は相棒の竜を失うと、当然資格も失う。同時に、永遠に里の出入りを禁じられる。その掟を破って侵入するものなら、捕われて拘束され、里の奥にある小さな森にある『竜の竈門』と呼ばれる穴へ放り込まれる。そして、生きたまま竜に食われるという……。禁忌を犯す者は災いを呼ぶとされ、排除されるのだ。
騎士が竜より先に命を失った場合、騎士の遺体は(残っていれば)里に埋葬される。竜は暴竜となって世界中を彷徨う。竜騎士に限らず戦える者達が竜を抑え、召喚士が御魂を鎮めて霊界へ送る。
竜が騎士を失うより、騎士が竜を失うほうが重罪とされている。
「シェラード様……ご自分の竜を失われたってことよね?あの事件って何なの、父上?」
カヤが隣で長に問いかけた。目が潤んでいる。フレイもだが、この事実はかなり衝撃的だった。エンキはカヤの気迫のある視線にたじろいだが、首を振って静かに言った。
「これはあまりにも酷な事件だったからな……彼の事もあるから、私からは話せん。すまぬ」
「そんな……!」
カヤが迫ろうとしたのをフレイは彼女の腕を掴んで止めた。鋭い視線で睨まれたが、怯む事なく首を横に振って「もういいから」となだめた。
「シェラが断った理由もわかったことですし、今日はもうお暇します。明日他の召喚士様と出会えたら、その方に依頼しますので……もう少し時間をください」
フレイは丁寧に述べると、カヤの腕から手を離し、そっと立ち上がって一礼した。踵を返して居間を出ようとするのを、里長が止めた。
「待ちなさい、フレイ。もう猶予は無い。封印の力が限界を迎えておる。もって明日の朝までだ」
「え……!?」
振り返ると、里長も娘も立ち上がっていた。一気に張り詰めた空気に変わる。
「数日はもつと仰ってたはずですが……」
「思った以上に暴竜の内なる力が大きかったようで、フレイがここに来る少し前に、封印した騎士達から報告があってな……3段階の封印のうち、一気に2段階打ち破られたと」
「何ですって……!」
血の気が引いた。悩ましい表情はこのせいだったのか。ここで封印が完全に破られたら、里が崩壊するかもしれない。抑える時も里の半分近くが荒地になったのに!
里長は唸りつつも、やむを得んとそばに立て掛けてあった槍を手に取った。
「一旦封印を解く。そして里の外でもう一度暴竜を抑える。そうすればシェラードに後を頼める」
「あたしたちで何とかするから、フレイはシェラード様をお願い!」
頷く間もなく、フレイは居間を飛び出していた。
どうにも胸騒ぎがして眠れなかった。
受付で部屋番号を聞いて部屋に入ったものの、シェラとはあまり言葉を交わさず、布団に潜り込んでしまった。しかし、いくら目を閉じても、凄く何かがざわついていて休ませてくれない。ヘイレンは仕方なく布団から出て窓際の椅子に腰を下ろした。
外は聖なる炎のおかげでほんのり明るかった。空は漆黒。雲が広がり、星がほとんど見えなくなっていた。
部屋の中なのに、遠くからゴオオオと唸るような音が聴こえてくる。これが胸騒ぎの原因かも、と思った。
何だろう……何が起きているんだろう?
もしくは、何か起ころうとしている?
と、ヘイレンは目を凝らした。大きな翼を持った何かがこちらに向かってくる……。
「シェラ、起きて!」
飛竜シーナだとわかった時点で、ヘイレンはシェラの寝床に駆け寄っていた。叩き起こされたシェラは、ゆっくり起き上がって目を擦りながらヘイレンと目を合わせると、すぐに覚醒した。
直後、ゴオオゥ!とシーナの咆哮がモントレア中に響いた。窓がビリビリ鳴った。シェラは寝床を出て、長い亜麻色の髪を一つに束ね、そばに置いてあったローブを着て杖を腰に差した。ヘイレンも斜め掛けのポーチを下げた。
ふたりは宿の裏口から出て、あれだけ凄い咆哮にもかかわらず意外にも静まりかえっていたモントレアの大通りを抜けて門をくぐり、竜騎士と合流した。
「シェラ、助けて!時間がないの!封印が……!」
彼女は飛竜から飛び降りてヘイレン達に駆け寄ると、シェラの両腕を掴み、涙をこぼしながら訴えた。シェラは静かに彼女を見据えている。
「長が、一旦封印を全部解いて里の外で抑え直すって……だから、お願い!来て……助けて……」
膝からくず折れそうになるのを、召喚士は黙って支えた。シーナも不安そうにこちらに顔を向けて様子を窺っている。
「……シノの里まで連れてって。里の外ならいけるから」
フレイは顔を上げると、大きく頷いた。涙を拭きながら、シーナに「みんなを乗せるよ」と伝える。飛竜は乗りやすいように体勢を変えた。
「シーナ、里へ戻るわよ!」
飛竜は再び咆哮し、大きく羽ばたいた。あっという間に都が小さくなった。
もの凄い速さで飛行する。ヘイレンは必死に背中にしがみついていた。フレイは片膝を立てて乗っている。これが竜騎士の騎乗スタイルだというから驚きだ。チラッと後ろにいるシェラを見ると、彼もまた同じ乗り方をしていて目を剥いた。
そうこうしているうちに、大地を抉るような大きな谷が現れた。低い唸り声が聞こえてくる。宿の部屋で聞こえてきたものにそっくりだった。
パキッと音がした。シェラが杖を槍に変化させていた。シーナが高度を下げて谷に入っていく。びゅおおお、と風の音がヘイレンを包み込む。唸り声と共に、ヒトビトの叫び声も聞こえてきた。
シーナが咆哮した。ヒトビトの声が歓声に変わった。ヘイレン達を乗せた飛竜は一旦暴竜の頭上を通過し、旋回した。その時見た光景は、凄まじいものだった。
里を囲む壁の一部は崩壊し、近くの家に倒れかかっていた。大地は割れ、赤黒いものがバケツをひっくり返したように広範囲に広がっている。槍で暴竜を攻撃する者と、暴竜の動きを止める魔法、つまりは封印を唱える者が各々に叫び声をあげている。
その暴竜はというと、肉という肉はほぼ無く、もはや骸骨だった。金色の眼を光らせ、口を開いて舌を垂らし、両前脚を振り回していた。動くたびに水滴が飛び散り、地に落ちれば煙を生み、ヒトに当たれば倒れていく。あの水滴は竜の血なのか汗なのか。
戦うヒトビトの数が減っていく。暴竜が封印で縫い止められた身体を動かそうとする。地割れが起きる。咆哮する。耳が痛い。
「暴竜の頭上でホバリングして!僕がとどめを刺す!」
「わかった!ヘイレン、しっかりつかまってて!」
言われた通りにシーナの背のトゲのような突起物をしっかり持って姿勢を低くした。直後、飛竜は垂直に上昇し、暴竜の上で高度を保たせた。
尾を下げると、シェラが真ん中あたりまで下りていく。尾の突起物に足をかけ、抱くように左腕をまわしてしがみつく。右手には白い煙を纏った槍が、ほのかに水色の光を放っていた。
暴竜が見上げて咆哮すると、口から何か飛び出した。黒の混じった紫色の液体のようなもの……毒液だろうか。ヘイレンは思わず目を逸らす。その刹那。
シェラは溜め込んでいた氷魔法を、槍を下に突き出す風にして暴竜の口にめがけて放った。青白い光が液体を消し、まっすぐ暴竜の口に、喉に、身体に入り込んだ。
暴竜の腹周りを氷の刃が貫いた。花が開くように次々と氷が身体を貫いていく。やがて、口を開いたまま、暴竜は凍りついた。
真っ白な、彫刻のように美しく輝いていた。
氷像と化した暴竜のそばに、シーナはゆっくり着地した。フレイは飛び降りて、地上にいた騎士たちのもとへ駆けていく。ヘイレンは上半身は起こせたものの、腰が抜けてしまって動けなかった。シェラが尾から背に戻ってきた。
「降りられそう?」
シェラの声は少し掠れていた。ヘイレンは首を横に振った。すると召喚士はふふ、と微笑し、肩に優しく手を添えた。
「じゃあここで待ってて。暴竜の御魂を送ってくるよ」
ヘイレンが頷くと、シェラは肩から手を離して颯爽と降りていった。乗り方といい戦い方といい、竜の扱いに慣れているように見える。それにあの魔力を見せられたら……ヘイレンはただただ見惚れてしまっていた。
召喚士は竜も扱うのだろうか?そんなことを思い耽っていると、シーナがぐるる、と喉を鳴らした。始まるよ、と言われた。
シーナはヘイレンに見えるように伏せてくれた。優しく撫でて、先を見据えた。
ひとりの召喚士が、暴竜の前に佇んでいた。そっと右手を差し出す。持っていた武器は槍ではなく、装飾を施した美しい杖に変わっていた。柄の長い杖。柄の真ん中に持ち直すと、くるりと身体ごと回った。
杖を回しながら、召喚士も舞う。白と水色の光がが彼の周りを囲む。それは徐々に氷漬けにされた暴竜へと伸びていく。竜がキラキラと輝き始めた。氷の塵が舞い上がる。眩い光が空間を包む。丸い光がひとつ、竜の身体からゆっくり出てくると、シェラは舞を止めて杖を掲げた。
丸い光……暴竜の御魂は光と共に天へと昇り、ゆっくりと空へ溶け込んでいった。
なんと美しく、幻想的だっただろうか。ヘイレンは瞬きも忘れて見入っていた。涙が溢れ頬を伝う。暴竜は無事に霊界へ送られた。きっと、相棒の竜騎士と出会えていることだろう。そう信じたかった。
光が消えると、氷像だった暴竜は跡形もなく姿を消していた。身体も一緒に逝くんだなと思った。足腰に力が戻っていたので、ヘイレンはゆっくりとシーナから降りた。
地割れがあちこちで起きていたので、慎重に歩いてシェラのもとへ向かう。そこそこ大きな亀裂を少し助走して飛び越えたが、着地した場所が脆かったらしく、陥没した。
「うわぁ!」
突っ伏しかけた瞬間、白いローブの裾が視界に入った。シェラが間一髪のところでヘイレンを抱き止めていた。
「あ……びっくりした……」
「随分と脆くなってるからね……よかった、間に合って。足大丈夫?」
見上げると、シェラが心配そうにヘイレンを見つめていた。ゆっくり立ち上がって足踏みしてみる。特に痛みもなかったので、「大丈夫」と返した。
その場で暴竜がいた跡を眺める。地面には赤黒い何かがまだ残っていて、白い煙が立っていた。
「暴竜の血。白い煙は蒸発している印。吸い込むと肺を痛めてしまう。しばらく咳が止まらないし、胸も痛くなって横になるのも辛くなるくらい。だから、煙が消えるまではあの一帯には近づかないことだね」
ヘイレンは身震いした。その口振りからして察したが、シェラも何度か吸い込んでしまったことがあったとか。今いる場所は大丈夫なのかと不安になったが、召喚士は心配無いよと笑顔を見せた。
足元に気をつけながら、ようやく集落の門の前に着いた。フレイと向かい合うように男性と女性がいて、周りを囲むようにヒトビトが立っていた。ヘイレンたちに気がつくと、フレイが手を振った。
「……ありがとう、シェラ。あなたの氷の封印で里が救われたわ」
シェラはどこか浮かばない顔で黙って頷いた。そして、視線を男性の方へ向けると、一礼した。
「凄まじい魔力は健在ですな、シェラード」
男性は穏やかな笑みを浮かべた。シェラは表情を一切変えずに目を伏せた。
「怪我をされた方は大丈夫でしょうか?」
「ああ。暴竜の体液や毒液を受けた者は多数いたが、皆命に別状はない。死者も出ていないのも、シェラードが来てくれたおかげだ。礼を言う」
「それは……良かったです」
「里の一部が壊れてしまったが、すぐに元通りになるから大丈夫だ。……シェラード様」
男性は咳払いをすると、不意にシェラへの接し方を変えた。呼ばれた彼はようやく再び目を合わせた。不安と少しの恐怖を抱いているようにヘイレンは見えた。フレイも気まずそうな顔をしている。
「少し里に立ち寄りませんか、召喚士様」
シェラは一瞬目を見開いたが、すぐに首を横に振った。
「ありがとうございます。ですが、私はこの里の土を踏むことを許されない立場ですので……申し訳ありません」
「今はもう召喚士だろう?過去は過去だ。長のわがままを聞いてはくれぬか?」
「それは……」
シェラは言葉を詰まらせた。憂いを帯びた目が少し潤んでいた。
「……父上、やめなよ。シェラード様が困ってる」
隣にいた女性がピシャリと言った。
「真夜中に駆けつけてくださった事だし、うちよりモントレアの宿の方がゆっくり休めるでしょ」
父上と呼ばれた男性は、ううむ、と唸るも、やがて「申し訳ない」と呟いた。シェラも小声で「いいえ」と言った。
「……私、モントレアまで送ってきます。日を改めましょう。……シェラ、ヘイレン、行きましょう」
フレイはそう言って促すと、一足先にその場を離れてシーナを呼んだ。飛竜はゆっくり歩いて寄ってきた。足場に問題無いところでそっと前脚を出して乗りやすいようにしてくれた。
シェラはまた一礼すると、踵を返して飛竜のもとへと歩き出した。同じように礼をして慌てて追いかけた。
モントレアに戻る頃には、空がうっすらと明るくなり始めていた。飛竜から降りると、フレイはシェラに声をかけた。
「今日は本当にありがとう。身体を休めてね……」
召喚士は振り返って微笑むだけに留めた。そして、足早に歩いて行った。
「ヘイレン……あなたもお疲れ様」
「ボク、シーナにしがみついてただけで、何もしてないよ……」
確かに、と竜騎士は笑ったが、そばにいてくれるだけで不思議と暴竜に対する恐怖が吹き飛んでいたらしい。
「明日また、モントレアに来るから、その時に改めて里へ向かいましょう。中を案内するわ」
「うん……。でも、シェラは?」
フレイは眉間に皺を寄せて、そうね……と呟く。
「あの様子だと、もう里へは行きたくなさそうだから、あなただけかな。シェラにちょっとだけヘイレン借りていいか聞くわ」
ヘイレンとフレイはお互いに頷き、彼女はシーナに乗り、ヘイレンは走ってシェラの後を追った。
宿に戻り、再び寝床につくまで、シェラとは一言も交わさなかった。
里に入ることを拒んだこと、あの男性が言っていた『過去』のこと、知りたいことがたくさんあるが、シェラが話してくれるまで少し待ってみようと思った。
触れられたくないことだろうから……。