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第1章-1

 リヒトガイア、レジェーラント大陸の地の国アーステラの首都ダーラム。召喚士たちが集う青い屋根の大きな家の中にある小さな万屋(よろずや)で、ヘイレンは目を丸くしていた。


 目の前には短いものから長いものまでずらりと杖が並んでいる。この杖は、魔法使いであれば職業問わず扱えるそうだ。召喚士は必ず1つ杖を携えていて、それに魔力を宿して唱え、相棒を召喚する。杖を変化(へんげ)させ、武器として使うこともある。何に変わるかはヒトそれぞれだとか。


 因みにシェラ……シェラードの杖は槍に変化する。何で槍なんだろう?とヘイレンはふと思った。使いやすいのかな?あとで聞いてみようかな。


「ねえシェラ、長いのと短いのとで何か違いとかあるの?」


 眺めていても良し悪しがわからないので、シェラに聞いてみる。彼は「そうだな……」と言いながら長い杖を手に取った。


「長い物は魔力が弱いヒト向け。杖が力を増幅させてくれるんだけど、常に持つことになるから両手を空けておきたいヒトには不向きだね」


 立てた杖は、ヘイレンと同じ背丈だった。シェラにはぴったりそうな長さだが、自分が持つには不恰好になりそうだな、と思った。シェラも同じ考えだったようで、「さすがにこれは長いな」と笑った。


「短い物は腰に差せるから便利ではある。でも、そこそこに魔力を持っていないと武器に変化させるのは難しいかな。因みに、召喚するのに長さは関係ないんだ」


 長い杖を元の位置に戻し、短めの杖をさらっと見ると、迷うことなく一つ手に取り、ヘイレンにわたした。


 受け取った杖をまじまじと見つめる。杖の頭……というのだろうか……ころんと丸く、それを縁取るように蔦のようなものが巻きついている。頭の下の部分を握って使うそうだ。それらしく持ってみるとしっくりきた。見た目は木製で出来ているようなのに、実は合金なんだって。そして軽い。


「何となく……ウィンシス城の柱を思い出した」


 ぼそりと呟くと、シェラは一瞬固まった。記憶を手繰り寄せているようだった。


「柱……ああ!言われてみれば!蔦が巻きついたあの柱ね!よく覚えてたね……」


 少しだけ訪れた、風の国ヴェントルの首都エクセレビスの王城ウィンシス城。ある一室に案内してもらう途中で見た大きな柱。美しい彫刻に巻きついた蔦。見事な融合に目を輝かせながら歩いたっけ。


「ヘイレンの魔力もそこそこあるし、サイズもこれくらいかなと思ってわたしてみたけど、どう?」

「魔力はボクにはわからないけど、長さはちょうどいいかも。持ちやすいし!デザインも気に入った!」


 ならよかった、とシェラは笑みを浮かべた。


「じゃあこれを買おうか。僕みたいに腰に差すでもいいし、ポーチに入れておくでもいいし、好きなようにしまって」


 腰に差すにもホルダーを持っていなかったので、ヘイレンはポーチに入れることにした。その間にシェラは勘定を済ませる。


 ポーチを覗くと、白と水色が混じった魔法石が収められていた。弓の名手ラウルが作ってくれた石だ。彼は地属性の魔力を秘めており、他人(ヒト)の魔法を石に変えられるすごいヒト。弓を射る腕もすごく、はるか遠くから標的を射てしまう。


 ポーチに入っている石は、シェラが放った氷から作った物だ。水色の部分がキラキラしていて綺麗だなとつい見入ってしまう。


「ヘイレン、行くよ」


 呼ばれて慌てて杖をポーチにしまい込むと、店の外にいたシェラを追った。






 いよいよ旅が始まる。わくわくしながらシェラの後をついて行く。ロビーに出ると、召喚士たちが誰かを囲むように集っていた。シェラが歩みを止めたので、ヘイレンも自然と彼の横で立ち止まった。


 白いローブを纏った召喚士たちの中に、紺色のローブを着たヒトがいるように見えた。


「シェラ!」


 そのヒトはシェラを見つけると叫んだ。囲っていた召喚士たちはばらけ、一斉にこちらを見た。ヘイレンはビクついて咄嗟にシェラの後ろに身を隠した。


「お久しぶりです、ヴァルゴス様」


 腰を少し落として最敬礼をするシェラを見て、慌てて見よう見まねで礼をする。紺のローブを着たヒト……ヴァルゴスはシェラの前で止まると、「楽にして」と促した。


「ホーリアの事があったからどうかなと思ってたけど、元気そうだね」

「ええ……何とか」

「付きビトを連れて巡礼に出るなんて珍しいね。いや、初めてじゃない?」

「そうですね……」

「後ろにいるコだね?」


 ヘイレンはヴァルゴスと目が合った。濃い紫色の眼と紺色の短い髪。背丈はシェラより少し高く、体格はアルスに似てがっちりとしていた。


「もしかして、怖がられてる?」


 言われてハッとする。背筋をピンと伸ばして恐怖を何とか吹き飛ばす。


「あ……の……は、初めまして。ヘイレンです……」

「ヘイレン……」


 しばし見つめられる。次第に目を細め、頭から足までじっくり見られた。緊張が身体を震わせる。


 やがて「ふむ」と呟くと、ヘイレンから視線を外してシェラに向き直った。


「覚悟は出来てる?」


 その声は少し怖かった。シェラも「えっ」と戸惑いの声を漏らす。


「どういう事でしょうか……?」

「このコ……いや、何でもない。魔物に出くわしたらしっかり守ってあげるんだよ」


 何かを言いかけたのをやめたヴァルゴスは、微笑した。もちろんです、とシェラが返すと、では、と彼の脇を通り過ぎて行った。ロビーから姿を消すまで、ヘイレンは思わず目で追ってしまった。何となく、アルスを思い出してハッとする。


 探すために、旅に出るんだった。


「ヴァルゴス様は上位召喚士という階級で、名の通り僕たちより上の方。紺のローブを(まと)えるのも彼らしか許されていないんだ」

「へえ……すごいヒトなんだ……」


 行こうか、と促され、ヘイレンは振り返る。シェラはもう家の出入口付近に立っていた。小走りで追いつくと、そっと扉を開けた。


 近くの召喚士たちから「いってらっしゃい」と声をかけられると、シェラは黙って笑みを浮かべるだけした。ヘイレンは何となく「いってきます」と返して家を出た。






 外は薄雲が広がるも良い天気だった。ヘイレンたちは中心街へと足を運んだ。雑貨や食べ物など、様々な店が並ぶ商店街。日持ちする固めのパンとチーズ、袋詰めにされたドライフルーツとナッツ、雑貨屋でふたり分の水袋を買った。食料は一式シェラが持ち、水袋はポーチの中に入れた。シェラの水袋は彼の腰に付いている。


「さて、何処を巡ろうか?」


 中心街のシンボル的存在の複合施設ヒールガーデンの前で、シェラはヘイレンに聞いた。


「巡礼って基本的にここ、と決まってなくて、自分たちで行きたいところに行けるんだ。たまに『ここへ行ってくれ』と指示されるけど、今のところ無いから何処だって行けるよ」

「何処でもいいんだ……!そうだなあ……」


 少し考えて、ヘイレンは思いついた。


「ボク、行ったことないところへ行きたい。えっと……なんだっけ、フレイのいるところ」

「ああ……モントレアね」

「そう!そこ!」

「それじゃあ今回は火の国の町を巡礼しよう。道中は荒野だから魔物も多いけど……」


 うっ、とヘイレンの喉が詰まった。


「街道を極端に離れなければあまり遭わないはず。きっと大丈夫だよ」とシェラは笑った。


 ダーラムの東門に着くと、シェラは幻獣グリフォリルを1頭借りれるか確認した。グリフォリルとは、様々な生き物の一部を合わせたような姿をしていて、移動手段として国ごとに多数飼育されている。


「申し訳ありません、本日は全て出払ってしまっておりまして……今夜何頭か戻ってくるので、明日でしたら可能ですが、お取りしておきましょうか?」

「そうですか……わかりました。それでお願いします」


 というやり取りをヘイレンはシェラはの後ろで聞いていた。振り出しに戻ることになって、召喚士は申し訳なさそうに「一旦帰ろう」と言った。


 その時、びゅおう、と風を切る音がした。見上げると、グリフォリルらしきモノが旋回してこちらに向かってきた。首から肩まで白い毛で覆われた、前脚と翼は鷲、月色の胴と後脚は獅子。着地しながら馬の尾をぶんと振った。狼の頭をあげて、ヘイレンたちを見下ろした。


「アルティア!」


 ヘイレンは思わず幻獣に抱きついていた。胸元がもふもふしていてとても心地良い。


「オレが連れてくぜ!いいよな、門番さん!」


 ぽかんとしていた門番は、シェラード様がよければ……と言いながら小刻みに頷いた。アルティアの声、初めて聞いたなあと抱きしめたままふと思った。


「アルティア……飛べるようになってるし話せるようにもなったんだね!」

「おうよ!なんか急に解放されたような感じになってな……オレを襲ったヤバイヤツを倒してくれたのか?」


 首を上下に振って興奮気味に話す幻獣を、ヘイレンは胸から肩へと撫でながら落ち着かせた。


「そういう事になるけど、僕たちは奴が……ヴァルストが事切れる瞬間を見ていないんだ。たぶん、アルスしか知らないんじゃないかな」


 シェラがトーンを落としてそう話すと、アルティアは急に動きを止め、真っ直ぐ召喚士を見つめた。


「アルス、どうした?」


 シェラは言葉を詰まらせた。察したのか、アルティアは少し首を下げると、前脚を浮かして握ったり開いたりした。


「アルスはヴァルストと一緒に違う世界にいるかもしれない、とアルスのお兄さんのシェイドが言ってた。ボクたちがそこに行く術は無いし、いつか帰ってくるはずだから、待つしかないみたい」


 ヘイレンは聖なる国ホーリアで起きた、一連の出来事を掻い摘んでアルティアに説明した。


 はるか過去の時代から『時空の裂け目』を経て現代にやってきた闇の一族ヴァルストは、アルティアから飛ぶ力を、他のヒトビトから『心の深淵に潜む闇』をそれぞれ奪って力を蓄え、天空界最大の国である聖なる国ホーリアを壊滅状態にさせた。


 奴の生きていた時代に、祖国をホーリアに滅ぼされ、その復讐として聖なる国を滅ぼす事が目的だった。アルスたちは、始めはヴァルストを止めるべく天空界へ向かったのだが、激しい攻防の末、止めるのではなく(ほふ)らねばならない状況に陥った。そして、アルスが魂だけの状態となったヴァルストに斬りかかって……。


「みんなで一瞬異空間に飛んだんだけど、戻ってきたらアルスだけがいなかった。別のところに飛ばされたのかと思って、闇の国ヴィルヘルに行ってみたけどいなくて。そうしたら、シェイドがああ言ったんだ」

「ほぇー……」


 いつの間にかアルティアは腰を下ろして「おすわり」の体勢になっていた。相変わらず前脚はわなわな動かしている。


「で、シェラの巡礼のお手伝いをしながら、アルスを探そうかなと思って。いつか何処かで『時空の裂け目』が起きて出てくるかもしれないから」


 なるほどな、と幻獣は前脚の動きを止めて腰を上げた。


「で、どこ行くんだ?」

「モントレア。火の国ファイストの……」

「ああ、フレイのコキョーだな!」


 アルティアはバサっとひと羽ばたきしたかと思うと、翼をたたんで頭を下げた。


 ずっと黙っていたシェラが寄ってきた。すると、アルティアは前片脚を少し浮かせた。肩の上の少し盛り上がった背を左手で掴み、浮かせた脚に左足をかけると、ぐっと踏み込んで跨った。


 あっという間の騎乗に、ヘイレンはぽかんとしていた。


「ほら、ヘイレンも乗れよ」


 アルティアに促されてハッとする。えっと、左手はここを掴んで、どっちの足をかけるんだっけ……。


「ヘイレン、反対」


 シェラの声が頭上から降ってきた。かける足が逆だったのを慌てて変える。踏み込んで身体を浮かせるも、バランスを崩して後ろに倒れそうになった。


「わっ!」


 咄嗟に挙げた右腕をシェラが掴んで引き上げ、そのまま引っ張られてどん、と幻獣の背に乗った。痛くなかっただろうか……ヘイレンは心配になって首の根元あたりをそっと撫でた。


「だ、大丈夫?痛くなかった?」

「へーきへーき。お前軽いから!でも、もうちっとだけ後ろに乗ってくんねーかな?」

「あ……うん」

「あ、ごめん、僕もちょっと下がるね」


 後ろでじりじりと移動するような音がした。ヘイレンも振り返りつつゆっくり下がる。翼の付け根が自分の足の前にある状態になったところで、アルティアは「オッケー」と言った。


 たたまれていた翼が広がった。思わず足に力が入る。


「行くぞ!」


 幻獣はそう叫ぶと、大きく羽ばたいた。ふわりと浮遊する。風を巻き上げ、高度を上げる。都市をぐるりと囲む壁より高い位置まで来ると、アルティアは前進した。


 竜騎士であるフレイの飛竜シーナに乗った時と感覚が全然違った。なんて言うか、落ちそうになる。身体の大きさが倍ほど(いや、それ以上かも)違うからそりゃそうか。もふもふの白い毛をむんずと掴み、少し前傾姿勢になってしがみついていた。後ろのシェラが見られない。振り返ると本当に落ちそうだから。


「前のめりになり過ぎると落ちるよ。身体を起こさないと」


 シェラの声が風でかき消されそうになっているが、ヘイレンの耳にはしっかり届いている。届いてはいるが、怖くて身体を起こせない。


「いまはむりいいいい!」


 そう叫ぶことしか出来なかった。






 慣れてくると、まとわりついていた恐怖も薄れてくるもの。ヘイレンは少しずつ身体を起こし、やっと姿勢正しく座ることが出来た頃には、アルティアは高度を下げて着地しようとしていた。


 その一瞬で見た景色は美しかった。遠くに大きな山があり、夕陽に照らされて燃えるようなオレンジ色に染まっていた。頂上付近はぽっかりと口を開けていて、うっすらと白い煙を吐いていた。


「あの山はレイア火山。山の洞窟の最深部には竜がいて、竜騎士候補生たちはその竜と戦う。勝てばその竜を相棒に、竜騎士として認められるんだ」

「へえ……。じゃあ、フレイもあそこでシーナと戦ったんだ?」

「そうだね」


 シェラと話が出来る程、アルティアの背に慣れていた。でも、また乗って飛び上がる時は、身体が震えてしまうかもしれないなと思っているうちに、幻獣は砂煙を巻き上げながら着地した。軽くむせた。


 アルティアから降りて、ヘイレンはシェラと目の前に立つ大きな門をくぐる。真っ直ぐに伸びる幅広い道の両端は、同じような造りの家が並んでいる。アイボリー調の四角い家が並んでいたダーラムとは違い、ここは鱗のような三角屋根と木目調の壁。出入口は引き戸だ。


 広い道を進むと広場に出る。その突き当たりは10段程の階段、その先に巨大な松明が、柔らかなオレンジ色の炎を灯しながら静かに都を見守っていた。


 ここが、火の国ファイストの首都モントレアである。


 ヘイレンはしばらくゆらりと揺れる松明の炎を眺めていた。何だろう……心が洗われるような、懐かしいような。初めて訪れた場所なのに、どうして懐かしさを感じるのだろうか。『テンバ』の頃からこの都は存在していたのだろうか……?


「この松明の炎、何て言うか、浄化されそうな感じがする」


 オレンジ色の炎は、時折桃色や黄色を混じらせて音もなく燃え続けている。シェラも隣でじっと見つめていた。


「この炎は、『聖なる炎』。文字通り聖属性の炎だから、闇の種族は寄ってこれない。魔物も襲ってこれないから、この都にはダーラムのような壁が無いんだ」


 やっぱりそうか、とヘイレンは納得した。という事は。


「アルスはこの都に入れない?」

「いや、彼は入れるように炎の洗礼を受けているから大丈夫。でも、この広場には踏み入れたことが無いかも。聖なる力が強いんだろうね。……そろそろ宿に行こうか。夜はぐっと冷え込むし」


 松明から離れ、階段を降りて広場に戻ると、途端に暗くなった。すっかり陽は沈み、空はやはり少しばかり雲がかかっているが、隙間から星たちが煌めいていた。






 宿に着くと、アルティアは既に幻獣専用の厩舎に入ってくつろいでいた。ブラッシングをしてもらって毛艶が良く、出された食事を黙々と食べていた。


 そっとしておこう、とシェラが小声で言ったので、ヘイレンも黙って厩舎を通り過ぎて宿に入る。暗めの赤い絨毯に、木製のテーブルや椅子が点々と置かれたロビーで、見覚えのあるヒトが窓際に立っていた。


「あれ、フレイ?」


 シェラの驚いた声に彼女……フレイは振り返った。暖色系のチュニックにベージュのズボン、膝下までのブーツを履いた、この世界での竜騎士のスタイルだが、その表情は少し不安気だった。


「よかった……!召喚士、みんなもう来ないかと思ってたの!」

「何かあったの?」

「ええ……」


 フレイは一瞬言いあぐねた。ここで話してもいいものかと悩むような表情だった。シェラが構わないよと優しく促すと、彼女は軽く頷いてから口を開いた。


「里に……暴竜(ぼうりゅう)が出たの」


 シェラの表情が一気に曇った。ヘイレンはボウリュウが何なのかという疑問をフレイに投げかけた。


 竜騎士と契約を交わした竜が、その竜騎士を失うことで自身も心を失い、相棒を探して彷徨い続けた成れの果てが暴竜。眼は虚、身体の鱗は朽ちてボロボロ、そして凶暴になってヒトも魔物も関係なく襲ってしまうのだという。


「竜は里のヒト達でどうにか抑え込んで封印したから、あとは御魂(みたま)を亡くなった竜騎士と同じ場所……霊界へ送ってもらうだけなの。それでずっと、召喚士を待っていたの」

「竜はどこに封印されているの?里の中?」

「そうだけど……」


 そうか、とシェラは短くつぶやくと、少し間をおいた。ヘイレンは嫌な予感がした。何となく……断りそうな気がする、と。フレイもすぐに承諾してくれるものと思っていたようで、なかなか返事をしない召喚士を前に戸惑っていた。


「……ごめん、他の召喚士に依頼してくれないかな」


 予感が的中してしまった。当然彼女も面食らって目をぱちくりさせている。


「え、どうして……?御魂送りの儀をお願いしてるだけだよ?」

「そう、それはそうなんだけど……その……」


 歯切れが悪い。こんなシェラ初めて見た。と言ってもヘイレンはまだ付き合いはとても浅いのだが。驚いている間に、シェラは踵を返して部屋に向かおうとした。


「ちょっと待ってよ!理由を聞かせて?」


 フレイのやや怒りのこもった声に一旦は立ち止まるも、振り返らずにこう言っただけだった。


「ごめん」






「何あれ……あんな態度取られたの初めて」


 腕組みをして憤慨するフレイを横に、ヘイレンは置いていかれたことに気がついた。でも、慌てて追いかける気も起きず、フレイを恐るおそる見つめた。


「あの……ボク、後で聞いてみるね」


 キッと睨まれてビクッとしたが、彼女は目を閉じて首を横に振った。そして再びヘイレンを見た。先程の鋭い視線から、元の優しいそれに戻っていた。


「暴竜にビビってるわけじゃなさそうだし、里に対して何かあるんでしょう。いいわ、他の召喚士様をあたるわ。そうね……理由は聞けたらでいいわ。無理に詮索しなくていいからね」


 にこっと笑うと、フレイは宿から去って行ってしまった。ロビーにはヘイレンしかいなかった。突っ立っていてもしょうがないので、部屋に向かおう。


 ……部屋番号、わかんないや。


 ヘイレンは受付に向かった。

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