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第5章-3

 集落の小屋は、少しの揺れで崩れそうなほど脆くなっていた。エンキは外が静かになったのを機に、そっと小屋から顔を出した。この一帯を囲っていた靄はもういない。しかし、エンキを小屋へ避難させ、果敢に立ち向かってくれた竜騎士たちがそこここに散らばっていた。


 小屋を出て、一番近くにいた騎士の様子を窺う。蒼白な顔、脈は打っていなかった。少し歩いてもうひとり確認するが、同じだった。目をかっ開いたまま事切れている者もいた。エンキは黙ってその瞼を優しく閉じてあげた。


「里長!」


 一番聞きたかった声に呼ばれてエンキは立ち上がった。血の繋がりはないものの、娘同然に育ててきたフレイの姿を見て安堵した。駆け寄り、目の前で足を止めた彼女を躊躇なく抱擁した。


「お帰り、フレイ。無事でよかった」

「長も……ご無事で……よかった……」


 ややガタが来出した身体を、フレイが優しく包んでくれる。エンキはそっと彼女の髪を撫でた。


 少ししてシェキルたちもやってきた。『あいつ』と対峙し、フレイを救ってくれたシェラードの姿もあったが、満身創痍の有り様だった。父親に支えられながらよろよろと向かってくる。


「皆さん、ご無事で……」

「どうにか。ひとり限界が来てますが」


 そう言いながら、シェキルは息子をその場で座らせた。代わりにヘイレンが彼を支えると、手を胸元に当てて目を閉じた。淡い光が彼の身体を薄く覆った。


「靄を払ってくれてありがとう。あのタイミングだったから私も助かった。少し遅ければ彼らのようになっていたかもしれない……」


 亡骸となってしまった竜騎士たちを、ひとりずつシェキルが抱えて並べ置いていく。フレイはその様子をぼんやりと眺めている。


「……あの少年が見た光景だったやもしれん」


 エンキの呟きで、皆の視線がこちらに向けられた。トア・ル森で起きた虐殺事件。その場にいたおとなたちが、逃げる間もなく屠られたという残忍なものだが、まさに今しがた、エンキの前でそれが起きた。


「私を小屋へ避難させ、彼らは槍を握ったのだが……赤い閃光が走った直後、次々と彼らは倒れていった。何の抵抗もなく……。私もいい加減老いぼれてきてるが、それよりも歳を重ねたヒトのように見えた。しかし魔力と生命力は、恐ろしいほど強かった……」


 エンキは両腕を抱えてやや俯いた。竜騎士の里長でさえも敵わない、身体を震わせるほどの恐怖を植え付ける太古の魔導士……。


 槍に聖石(ホーリーストーン)の力を以ってしても、奴は滅びなかった。シェラが凍らせた靄は、地に落ちる前に消えた。聖なる光の力を受ける前に、バルドは身を闇に隠して凌いだようだ。


 奴の気配は今は感じないが、時々ヘイレンが出している光がすん、と消えるのを見ていると、彼だけは何かを感じているようだった。これは都へ急いだほうがいいかもしれない。シェキルは危機感を覚えた。


 勇猛果敢に立ち向かった竜騎士たちは、少しの間ここで待っていてもらうとして、シェキルは一旦都へ向かおうと皆に話した。


「シェラ、立てそうか?」


 憔悴しきった息子のそばにしゃがんだ。呼吸はしているものの、ヘイレンに寄りかかり、表情は険しい。


「シェラ、ボクが支えるから、頑張って……」


 息子の立場がすっかり守る側から守られる側へと変わっていて、シェキルはこっそり苦笑した。自らの命を(ふるい)にかけ、忌まわしき相手を葬った上に、バルドの靄を氷で消し込んだ。相当なもんだ。親バカだと言われてもいい。


 シェラはゆっくり顔をあげると、ヘイレンに笑みを見せた。小さく頷くと、青年は息子を支えつつ立ち上がった。シェキルはヘルトを近くに呼び寄せてふたりを乗せ、次いでエンキとフレイを乗せた。


 ずん、と大地が、空気が少し揺れた。ヘルトが警戒の唸り声を上げる。ヘイレンが叫んだ。


「シェキルさん、後ろ!」


 咄嗟に右手をかざして光の壁を作った。その刹那、白く長い光が壁にあたり、貫通し、シェキルの脇腹を掠った。光はそのままヘルトに突っ込んでいったが、蒼竜はそれを器用に掴み取った。


 間髪を容れず、ヘルトは口から光を放った。壁の向こう側にできていた『闇の亀裂』に命中すると、獣の叫びのような、耳障りな音を発して消えていった。


「しつこいな……っ」


 脇腹に熱いものを感じながらも、しっかりとした足取りでヘルトのそばまでいくと、相棒は掴んだものをわたそうとした。靄に投げた槍だった。


 ヘルトの顔がぐっと近づいてくると、掠った腹部を舐めようとしてきた。それでようやく傷を見たのだが、見なきゃよかったと少し後悔した。気にしないようにしていたのに、気にすると痛みが増すから……。


「ヘルト……その槍預かっててくれ。……大丈夫だから」


 額をとん、と軽く叩くと、小さく喉を鳴らした。シェキルは相棒を飛ぶ体勢へと促すと、前脚と肩を借りてよじ登った。


「シェキルさん……!」

「飛ぶからしっかり掴まってなさい」


 傷が見えたのか、腰を浮かしたヘイレンを速攻で制した。痛みが酷くなってきているが、これ以上留まっているとより危険だ。


 シェキルはヘルトを飛翔させた。






 療養所の前に緊急着地したヘルトは、皆を降ろすとすぐに都の外へ飛び立った。飛竜は巨体故に羽ばたきひとつで家々を壊しかねない。彼らもわかっているので、用が済んだら都市から離れた場所へ移動する。


 飛んで行ってしまったヘルトを見続けていたヘイレンに、フレイがそっと声をかけた。


「ヘルトはシェキル様が呼べば飛んでくるから、お礼はいつでも言えるわ」


 そうなんだね、とヘイレンは振り返った。この時フレイは、目の高さが同じになっていることに動揺した。里を案内した時は私より少し背が低かった気がするのに……。


「フレイ、大丈夫?」


 首を傾げて様子を窺うヘイレンにハッとすると、フレイは「大丈夫よ」と苦笑混じりに言った。


「フレイも先生に診てもらおう?怪我してるかもしれないし」


 すっかり頼りになる美青年になったな、と、少し惚れてしまったのは内緒だ。頬をやや紅潮させて視線を落とし、黙ってひとつ頷いた。


 シェラとシェキルは、数日は安静にしてなさいとルーシェに言い渡され、エンキもまた、大事をとって今夜は静養するそうだ。その間ヘイレンのそばにいてあげられるのは、フレイしかいなかった。


 私も入院って言われたらどうしよう……そんな不安を抱えながらルーシェに診てもらう。感情をあまり表に出さないクールな女医。ストレートにものを言うところが、フレイはほんの少し苦手だった。でも、先生の言うことは実に的確で、都の住民たちは彼女を大いに信頼している。


「……擦過傷やあざがいくつか見られるけど、酷くなってないから消毒だけで大丈夫そうね。魔力が弱っているけど、しっかり休めば時期に戻ってくる。目眩とか倦怠感とか、自覚症状はある?」


 目眩はないが、疲労感はあった。それは寝たら治ると言われたが、入院するほどではないから安心して、と微笑む女医に、フレイはホッと胸を撫で下ろした。


 ついでに、とルーシェは隣に座っていたヘイレンも診察した。されると思っていなかったのか、彼は背筋をピンと伸ばして固まった。緊張の色を見せていて、なんだか可愛い。ルーシェも思わず微笑していた。


「随分と魔力を使ったみたいね。身体怠いんじゃない?あなたもよく休みなさいね」

「はい……ありがとうございます」


 少し照れながらヘイレンは頭を下げた。


 診察を終えてロビーに向かうと、ヘイレンが「あっ」と声を漏らした。窓の外をじっと眺めていたジンブツに目をやると、フレイは息を呑んだ。一瞬アルスかと思ったのだが、黒のコートではなく紺色のローブを纏っていたので、あの方だと思い直した。


「ヴァルゴス様?」


 上位召喚士が療養所(ここ)にいるなんてかなり珍しい。彼らが巡礼に出ることはめったにない。見かけても召喚士たちの集う家に出入りする程度だ。


 ヴァルゴスは振り返ると、口元に小さく笑みを浮かべつつ、ゆっくりこちらに向かってきた。


「無事でしたか、フレイ殿。拉致されたと聞いていたので心配したが、怪我は無さそうですね」

「あ、はい……ご心配をおかけしました。ほぼ無傷で済んだのはシェラのおかげです」


 そうか、とヴァルゴスは目を細めた。


「……ここはいつ来ても安心できますね。聖なる炎の加護は絶大ですな」

「どんなに強い魔物でも寄ってこれないほどの力を秘めている、といわれていますから……」


 ふたりの会話に、ヘイレンはじっと耳を傾けていた。聖なる国ホーリアよりも、松明の炎の方が聖なる力は強いのだろうか。


「ところで……フレイ殿にお聞きしても?シェラのことだが」

「……私よりヘイレンの方が詳しく知ってるかも?」


 と、フレイはこちらをチラッと見た。彼女は『あいつ』に攫われていたので、確かにボクのほうが話せることは多いかも、と思った。ヘイレンは知っていることをヴァルゴスに洗いざらい話した。


「竜騎士の掟を上手く使ったということか。しかし、命に叛くことなく従われていたら、今頃喰われていたと思うと……いやはや、確かに凄い賭けだな」


 結果的にシェラの思惑通りになった。これで『あいつ』の呪縛から解放されたのだとヘイレンは思っていたのだが、上位召喚士の表情は硬かった。


「本体がいなくなったとしても、彼の心にはそいつが付けた深い傷が残っているだろう?その傷が完全に癒えることは、おそらく無いだろう」

「どうして……ですか?」


 ヘイレンは思わず聞いてしまう。心の傷は受けたほんにんの気持ちの問題でもある。いつまでも『あいつ』のことを片鱗でも思い出してしまえば、『あいつ』はシェラの心を抉る。


「シェラがそいつのことを綺麗さっぱり記憶から消せたらいいのだがね。ヒトはツラい過去ほど忘れられない生きものなのだよ」


 伏し目がちにヴァルゴスはそう話した。






 シノの里の中央広場の像のそばから、白い煙が数カ所で上がった。掟を破った飛竜の()()()()()が竈門の主に裁かれ、跡形もなく喰われたという証である。


 カヤはそばにいた鳩の脚に白い紙を括り付けると、鳩は颯爽と飛び立っていった。向かうは都モントレア。竈門の主の知らせを父エンキに伝える術だ。


「シェラード様……」


 フレイを救いにレイア火山へ入り、因縁の敵を制した氷河召喚士。もはや『あいつ』の姿は覚えていない。竈門の主が、身体も記憶も喰っていった。しかし、シェラード様の記憶からも消えたのだろうか?ふと不安に駆られる。


 都から伝書鳩が舞い降りたのは、昨日の夕方だった。都長の名で届いた書には、山に入った面々は無事であるということ、麓の集落はエンキのみが無事で、彼についていた竜騎士たちは全員亡き者となってしまったということが記されていた。


 カヤは亡くなった竜騎士たちの御魂を送ってもらうべく、召喚士の機関に書を送った。2、3日すれば誰かが来てくれるはずだ。


 さて、問題は里の方だ。聖なる炎を設置する松明を、職人が急いで作ってくれているところなのだが、里を囲む柵の向こう側に、とんでもなく強い闇の力が蔓延っているのだ。今のところ襲ってくる様子はないのだが、いつ手を出してくるか。門番たちは神経を尖らせていた。


「父上……里は必ず守ります。守りたいけど……早く帰ってきて……」


 カヤは祈りながら里内を走り回った。怪我をしたヒトの手当ては片付いた。地竜の騎士たちは里を囲む壁の外側で待機している。


 闇の力が不気味な動きを見せ始めた。黒い靄となって一ヶ所に集まると、ゆっくりと形作られていった。それは飛竜のような姿となっていく……地竜たちが警鐘の咆哮をあげた。


「来るぞ!里を守れ!」


 ひとりが叫んだ。地竜たちが騎士の号令で一斉に前脚を浮かすと、力強く地を叩いた。どん、とひとつ揺れると、地面が隆起し、里を囲む壁となった。それは更に伸びて、ついには天で交わりドーム状となった。瞬間、壁が鈍い音を立てた。


「松明……」


 カヤは長の屋敷に戻ると、保管庫に駆け込んだ。ランタンの中で聖なる炎が、静かに庫の一角を灯している。それをそっと手に取り、松明が立つ広場へ急いだ。


 その松明は、カヤの到着と同時に完成した。炎が消えないように、慎重に移そうとする。どん、と壁が震えてヒビが入り、上から土がパラパラと落ちてくる。地竜たちの咆哮が壁の向こうで鳴り響いている。


 カヤが松明に炎を灯したのと、壁が頭上から壊れ始めるのとが、ほぼ同時だった。炎はぶわりと広場を、里全体を光で包み込むと、壊れた壁の土を払った。耳障りな雄叫びが聞こえたが、カヤはその正体を見ることはできなかった。


 ややあって、炎が生み出していた光が和らいでいった。ようやく周りが見えるようになった時、土の壁は跡形もなく、元々里を囲んでいた壁も一部壊れていた。闇の気配は消えている。相手を屠ったかどうかはわからない。


 地竜騎士たちの安否を確認に回る。前線にいたものたちは、竜共々力なく横たわっていた。生き残った騎士たちが様子を見ているが、竜もヒトも望みは無かった。自然と涙が頬を伝っていく。


「……姉さま」


 ずっと一緒に走り回ってくれていた弟のレンがそっとカヤの袖を握った。10以上も離れた弟にこの光景はあまりにも……酷だ。カヤはぎゅっとレンを抱きしめた。


「姉さま、泣いてるの?お兄さまたちは……」


 竜騎士の修行を始める歳までまだ数年あるレンにとって、修行者や一人前の騎士たちは憧れのヒトであり、兄や姉のような存在である。皆、レンを可愛がってくれていた。時期里長として、これから少しずつ物事を覚えていく身ではあるが、ヒトビトの死を目の当たりにしたのはこれが初めてだ。


「横になってるみんな……死んじゃったの?」


 ふとレンを見た。彼はくりっとした目をこちらに向けている。カヤは黙って小さく頷いた。すると弟は視線を外して顔を彼女の胸元に埋めた。


「……里を守ってくれたの。命懸けで。召喚士様に、御魂を……送ってもらわなきゃね……」


 弟の温もりを感じながら、そっと髪を撫でた。






 伝書鳩は慌てた様子で都長のいる屋敷に飛び込んできた。すぐに括り付けられた紙を解いて中身を確認する。都長は側近に紙をわたし、里長エンキのいる療養所へと向かわせた。


 ……嫌な予感がする。


 都長はすっと立ち上がると、壁に立てかけているものを持った。包んでいる布を解くと、炎を模ったメイスだった。それを腰に差すと、屋敷を後にした。


 向かった先は、炎の竜騎士と、召喚士シェラードの付きビトが滞在している宿だった。彼女たちはロビーにいた。声をかけると、目を丸くした。


「レントせん……」

「先輩、は禁止、タメでいいって言っただろ。いい加減慣れろよ」


 だって先輩ですし……ともごもご言う隣で、付きビトもまた口をパクパクさせていた。そういや初対面だった。レントは小さく咳払いした。


「君がシェラの付きビトだね?俺はレント。この都の長を担ってるが地竜の騎士でもある。一方的にすまないね。ちょっと急いでるんだ」

「あ……はい。ボクはヘイレンです。あの、何かあったんですか?」


 レントはシノの里からの伝書鳩の話をした。するとふたりは安堵のため息をついた。しかし、とレントが不安を口にすると、ふたりの表情が一変した。


「竈門の主の件は良い知らせっちゃそうなんだが、鳩が酷く怯えててね。屋敷で休ませてるけど、どうにも戻る気配が無くてな……。里で何かあったに違いないなと。魔物の強襲があったとか……」

「……靄かしら?それしか思い当たる節がないわ」

「靄って……ああ、麓の集落を襲ったヤツか。応援を連れて向かったほうがいいか」

「……いや、逆に犠牲者を増やすだけかと」


 フレイの言葉にレントは首を傾げたが、すぐにその意味を理解した。相手は灼眼を光らせるだけでヒトビトの命を奪う。真っ向から行っても無駄死にに終わってしまうのだ。


「……そうだな。俺だけで向かうのが無難か」

「え……それは……ダメでしょう!?本当に死んでしまったら、誰が都長を担うんですか!?」

「じゃあ誰も向かわずに見物ってか?」


 フレイは何も言えなくなってしまった。ヘイレンも黙ったままだ。


「……そんなの冗談じゃねぇ。里を守るのも都長の役目だ。赤い光さえ見なきゃいいんだろ?」


 目を合わさなければ命は奪われない。そんな単純なことなのか、というツッコミを受けそうだが、今は受け付けないつもりでいた。


「……それならボクも連れて行ってください。靄の気配ならすぐにわかるので」

「私も同じく。……あなたを守るために」


 レントは一瞬目を見開いたが、ふっと笑みを浮かべた。


「守るはよせ。でもまあ、フレイもいろんな修羅場を越えてきたもんな。……みんなでいくか。自分の命を最優先に頼む」


 互いに頷き合い、門へ向かおうとした矢先、「待って!」とか細い声が聞こえた。駆け寄ってきたのは、重傷を負っていたはずの氷河召喚士だった。


「お前……!まだ安静にしてないとダメじゃねぇか!?ルーシェに怒られるぞ」


 シェラは追いつくと、手を膝に当てて少し屈みながら息を整えた。横でヘイレンがそっと背中を摩り始める。この時点で待たずに置いていけばよかったのに、なぜかできなかった。


「里を……守らなきゃ」

「いや、お前は残ってろ。負傷者がいたら正直邪魔だ」


 レントははっきり言ってやった。シェラは身体を起こすと、ヘイレンに小声で礼を言ってからこちらを見た。瞬間、鳥肌が立った。シェラの眼が、いつもより濃い青色に変わっているような気がした。更には強大な飛竜の力を感じた。……シェラに何かが起きている。


「今は……じっとしているほうが危険なんだ。ディアンが……落ち着かなくて」

「ディアン?」


 かつてのシェラの飛竜の名を聞いて首をひねると、彼は右肩を軽く押さえた。そう言えば右腕は竜の腕だったか。邪神竜の腕かもしれないと恐れていたが、ようやく正体がわかったみたいだった。


 ……ディアンの腕はともかく、なぜ落ち着かないとか感情までわかるんだ?と問いたかったが、今はそれどころではない。我慢しろ、俺。


「封印が解けかけている?」


 ヘイレンが横で不安気な眼差しを向けると、シェラは伏目がちに答えた。


「……僕が、解放しようとしてる。僕の意志でディアンの力を解放できるし封印もできる……ようになったんだ。腕だけの姿でも、ディアンは僕の中で生き続けている。彼の(コア)がここにあるから」


 シェラは顔を上げて再び都長を見た。レントは口を半開きにしたままシェラを見つめ返す。こいつ、コア・ドラゴンを従えていたのか……。しかも、宿してるなんて。それじゃあ、槍を返さなくてもよかったんじゃないか?でも、召喚士として再出発し今に至っているから、それはそれでいいのか……と、あれこれと思い巡らす。


「だから……僕も連れてって。その辺で倒れたら放っといていいから」


 レントは思わず吹き出してしまった。ヘイレンもフレイも、哀れな目でシェラを見ていた。彼も苦笑しているが、療養所へ戻るつもりは全く無さそうだった。


「俺はお前を止めた。でも勝手についてきた。ってルーシェに言うからな。覚悟しとけよ」


 召喚士は微笑して強く頷いた。


 レントは己の地竜に3にんを乗せて里へ向かった。近づくにつれ、ちぎれた靄がポツポツと漂っているのを見るたびに、無事であって欲しいと願うばかりであった。

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