第4章-3
竜の咆哮が空に轟いた。
氷の結晶がそこかしこに浮かんでいる。陽光に反射して美しく、しかし目眩しのように輝いている。間を縫うようにヘルトは飛翔した。
左手は彼の背の角を掴み、右手は槍を握っている。中腰で構え、魔力を吸い取る大柄な男に向けてその槍を放った。
槍は白と黄色の光を纏ってまっすぐと男を捉える。相手が気づいた時には、既に槍は身体を貫いていた。男の手が掴んでいたものを離したと同時に、シェキルはそれを掠め取った。
『おのれ……!!』
男が体勢を立て直す前に、ヘルトの長く鋭い尾が追い討ちをかけた。振り回したそれは、男の身体を寸断した。鮮血の代わりに、赤黒い靄が噴き出ると、断末魔の叫びをあげて靄に消えていった。
刺していた物体を失った槍が落ちていくのを、ヘルトが前脚で器用に掴み取る。そして旋回し、空高く天空界を目指した。
「シェラ、死ぬな!」
シェキルの傍には、変わり果てた息子の姿があった。ローブとチュニックの胸元を剥いで心の臓付近に手を潜らせ、光を宿す。ただでさえ華奢な身体が、魔力を吸い取られたことで肉を失い、骨がくっきり映っている。右肩は折れてありえない方向に少し曲がっていた。涙の跡を残した蒼白な肌は冷たい。
意識を無理やり戻そうと、右肩を元の位置に慎重に動かしてみると、小さく反応した。一瞬険しい表情を浮かべたが、すぐに力を失った。
ヘルアラネアの討伐後より状態は酷い。胸に当てている手に力が籠る。己の魔力を、血を、生命力を、早くシェラの身体に浸透していってくれと強く願う。
やがてヘルトが小さく唸った。ずっと息子を見ていた空色の眼が前方を捉えると、懐かしき街並みが変わらず存在していた。蒼竜は、一際大きな建物のバルコニーに滑り込んだ。
シェラをそっと抱えてヘルトから降りたのと、建物からひとりのジンブツが出てくるのとが同時だった。
「繭へ!」
そのジンブツは叫ぶなり扉を押さえてシェキルを中に入れた。まっすぐ伸びる廊下を走り抜け、厳かな扉の前に立つと、勝手にそれが開いた。シェキルは足早に部屋に入ると、中央に置かれた祭壇の前に立った。
揺籠のような丸みを帯びた寝床にシェラを寝かせると、淡い光が彼を包み込み、あっという間に見えなくなった。数歩下がると、祭壇の底から糸のように白い光が寝床を包んだ。まさに繭の如く。
シェキルの呼吸の音だけが部屋中に響いていた。
どうか、間に合っていてくれ……。
シノの里は混沌としていた。ヘイレンとアルティアは、無事に中央広場の巨大な像の前に着地していた。真っ先に駆けつけたのは里長の娘カヤだった。竜騎士とその候補生たちが東奔西走する中、カヤは里長の屋敷へふたりを連れて行った。アルティアは扉の前でヘイレンを降ろすと、その場へたり込んだ。
「アルティアに水を!ケアをお願い!」
カヤの良く通る声で、近くの竜騎士数名がテキパキと動く。その様子を一瞥して、彼女はヘイレンを屋敷の中に入れた。
近くの居間に促されたヘイレンは、ごろんと転がった。身体がとてつもなく重い。腕が怠い。必死にアルティアを掴み、シェラの無事を願ってここまで逃げてきた。乗っていただけなのに、息切れしている。
少しして、カヤが盆に湯呑みを乗せてやってきた。近くのテーブルに湯呑みを置くと、ヘイレンをちらっと見た。のろのろと身体を起こすと、カヤはそばにきて額に手を当てた。ふわりと微かに甘い香りがして、思わず鼓動が早くなる。
「熱は……なさそうね。むしろ冷えてる」
カヤの手が首、それから手首に触れる。
「囲炉裏のそばまで歩ける?」
今いる場所からそう遠く無いところにそれはあった。ヘイレンは黙って頷くと、ゆっくり立ち上がった。が、足取りがおぼつかない。フラフラする彼を、カヤはしっかり支えた。一緒に少しずつ歩いて、やっとのことで囲炉裏の前に座り込んだ。
じんわりと熱が伝わってくる。暑すぎない、ほどよい暖かみがヘイレンの心を癒した。四半刻(約15分)ほどで、すっかり身体の重みは無くなった。
「落ち着いたかな?はい、これ」
さっきテーブルに置いた湯呑みを受け取ると、緑茶が入っていた。真ん中に茶色く細いものがなぜか縦に浮いている。
「あ、茶柱立ってる。良い方向に転じるといいけどな……」
どうやら茶殻が縦に浮くと縁起がいいとされているらしい。緑茶を好む火の国の言い伝えだとか。なんとなく立った茶柱を倒さないように慎重に飲んだ。ちょっぴり感じる苦味がクセになる。カモミールティーとは全然違う味わいにほっこりした。
「カヤはフレイのこと……」
「聞いてるわ。しかも攫ったヤツは火山に立て籠ってるって。だから大騒ぎなのよ、山に入った候補生の救出に先輩騎士たちが駆けつけたりして」
里長エンキは山麓にある小さな集落にいるらしく、里を離れているという。ヘイレンはシェラから聞いた、ヒイラに取り憑いた靄のことを話した。カヤの表情はさらに険しいものとなり、「マジか……」と呟いた。
「ところでシェラード様は?あ、里に入れないから外にいたりするの?」
「それが……ボクたちさっき話した靄とは別のモノに追いかけられて……途中でシェラがアルティアから離れて……たぶん、靄と戦ってる」
「ちょ、ちょっと待って。それって空中戦ってこと?召喚士にそんなことできるの?」
聞かれてもヘイレンだってその辺はわからないが、シェラなら出来そうだとは思った。
「それはそうと、火山に立て籠ってるヤツって誰なの?シェラも『あいつ』としか言わなくて……」
シェラもフレイも心配だが、この騒動を起こしたはんにんが誰なのかヘイレンはずっと気になっていた。カヤは「あいつね……」と俯いて呟くと、腕組みをした。
「里史上最恐の問題児、って言っても過言じゃない、本当にヤバいヤツだわ。さいきょうって最も強いんじゃなくて、もっとも怖いってほうね」
『さいきょう』にも2通りあるんだなとぼんやり思いながら、ひとつゆっくり頷く。カヤはそいつの容姿を思い出したのか、両手で頬を押さえて身震いした。
「もうね……シェラード様を執拗に虐めてたっていうか……いや、虐めてたよりはなんだろ……あれは……」
なぜか言いにくそうにするカヤを、じっと見守ってみる。だんだん耳が赤くなってくる。どうしたのだろうか?
「あれは……あいつはシェラード様を……で、溺愛してた……って言う方が正しいかも」
歯切れの悪い言い方に、ヘイレンは首を傾げた。『あいつ』の愛が強すぎた結果、シェラは虐げられていた……ということ?全然想像がつかなくて困惑した。
「ほんにんがいないから言っちゃうけど、ほら、シェラード様って結構中性的な容姿じゃん?美形だし髪も長くて綺麗だし、細身で長身だし、美声だし。女が羨むほど完璧じゃない?」
粗探ししようにも見つからないくらい完璧な美男子だと豪語するカヤに、ヘイレンはなぜか少し恥ずかしくなった。頬が紅潮している気がしてそわそわした。
「ダルシュがいつもシェラード様を守ろうとしてたわ。ほんっとあいつは……ヤバい」
もう『ヤバい』としか言いようのないジンブツのようだ。耳は真っ赤なのに顔は青ざめていて、これ以上聞かないほうがいい気がした。どういうやつなのかは、自分の目で確かめた方が良さそうだ。
「どうすれば山に入れるんだろう?エンキ様に相談してみてもいい?」
シェラひとりで山に入ることを条件としていることはわかった上で聞いてみると、案の定カヤは目を丸くして反対した。そして、フレイに何かあったら責任取れるのかと凄い剣幕で怒られた。当然ながら、その答えは出せなかった。
「ヘイレンは、あたしとこの屋敷でみんなの帰りを待って。お願い」
一転して不安気な表情を浮かべるカヤに、ヘイレンは少ししょんぼりしながらゆっくり頷いた。
「……ボク、傷を癒す力を持ってるから、何か手伝えることがあったら……」
「ほんと!?じゃあいろいろ……手伝って!」
さらに一転して目を輝かせるカヤに思わず苦笑したが、今自分に出来ることを精一杯やろうと、ヘイレンは改めて心に決めた。
シェラが『繭』に包まれて数刻が経った。祭壇の前で片膝をつき、胸の前で手を組み目を閉じる。目覚めることを、ひたすら祈っていた。
背後で扉の開く音がした。シェキルは目を開け、そっと立ち上がって振り返った。金の装飾があしらわれた白のローブを纏ったヒトが部屋に入ってきた。シェキルの前に立つと、祭壇を一瞥した。
「もう少しすれば、繭が解かれると思うが……シェラは誰に魔力を抜かれたのでしょう?」
テナーボイスに緑色の眼、背格好は風の国ヴェントルの王ウォレスに似ているが、半獣ではない。心配そうにシェキルを見つめるそのヒトは、光の国ルクシアの王エルクである。
「オッドアイの大柄な男でした。地界ではトア・ル森で起きた虐殺事件のはんにんであるオッドアイのジンブツを捜索してますが、私はなんとなくあの男ではないかと思いました。相当な歳を重ねているように見えました。あらゆるジンブツの生命力を吸い取って今日まで生きてきた……そんな雰囲気を感じました」
「歳を重ねたオッドアイの男……か」
王は腕を組んで視線を落とした。意味深に呟くその姿に、シェキルは首を傾げた。何か心当たりでもあるのか問うと王は少し躊躇ったが、ゆっくりと口を開いた。
「何百年もそうやって命を繋いできた黒の一族がいたなあと思い出してね。ここ数十年目立った行動をしていなかったから忘れていたよ」
ふっ、と口元に笑みを作るが、シェキルはまだ困惑していた。エルク王のこと……生い立ちなどは国民は誰も知らない。ただ、長く君臨していると自分の父から聞いたことはあった。
この王は、いつからこの世界にいるのだろうか。
「エルク様はその『黒の一族』の名をご存知で?」
未だにはんにんが『オッドアイのジンブツ』と地味に長い呼び名なので「もっと簡単に呼べないのか」とモントレアに滞在していた時に騎士たちがぼやいていたのを思い出す。ややあって、エルクはゆっくり頷いた。
「私の記憶が確かなら、その男はバルドという名だ。無の国エフーシオが存在していた頃、奴隷の血肉を喰らって生命力を維持していたといわれている」
「バルド……ですか」
シェキルの復唱に、王はうむと頷く。
「エフーシオの滅亡後もどこかでひっそりと生き残り、今日まであらゆる生命の力を吸い取って生き延びてきたのだろう。非常に恐ろしい魔導士だ」
その国の滅亡は実に700年も前のことだ。その頃からずっと生きてきたとしたら、バルドという男は700歳をゆうに超えていることになる。いくら魔導士でもさすがにそこまで生きられない。寿命という概念の無い、まさに『化け物』だと思うとぞっとした。
「同じ『黒の一族』でもその名を知る者は少ない。闇の国ヴィルヘルに逃げたとか地界に逃げたとか、云われは様々だ。正確なことは誰もわからん」
そう言って王はため息をつく。伝承はどこかで何かが変わってしまうもの、真実はほんにんのみぞ知る。
「しかしながら、よく救い出せたものだな。確かあやつの赤眼で縛られたら喰われるしかないはずなのだが」
「シェラに集中していて私が接近していることに気がついていませんでした。槍がやつの身体を貫いた時にようやく私の存在に気づいたほどです」
「余程シェラの血肉と魔力がうまかったのだな……」
ちょっと言い方が悪いが、と王は苦笑する。ふとシェキルは、息子の肩に宿っていた核のことを思い出した。コア・ドラゴンの力も吸い取ろうとしていたのなら……。
「核は無事なんだろうか……」
シェキルが繭を見ながら呟いたのを、エルクは「核とな……」と同じく低く呟く。直後、繭が淡い光を放ち出した。もぞもぞと動き、ゆっくりと解かれていく。王が祭壇の前に立つと、しばらく俯いて立ち尽くしていた。固唾を呑んで見守る。
「なるほど、核がここに。……ああ、お目覚めですね、シェラ」
エルクはそう言ってシェキルを隣に呼んだ。うっすらと開いた空色の眼は、どこか恐怖を見るような風だった。シェキルはシェラの手を一瞥した。ローブの袖先に見える手が、鋭い爪を持った竜のそれだった。
「え……エルク……様……」
自分がどういう状況に置かれているのか、まだ理解できていないようだ。エルクはシェラの肩に触れた。びくん、と身体を強張らせる。
「核が……ディアンの力が奴に……」
目を見開き、口元を震わせる。エルクは一つ瞬きをして、シェラにそっと話した。
「黒曜石にひびが入ってしまっています。このままだとやがては割れてしまう。ディアンの命が尽きてしまいます」
ひび、とシェラは青ざめた。みるみるうちに目が潤み、涙が目尻を伝っていく。
「僕は……何も……守れないのか……」
シェラは左手の甲で己の目元を覆った。ややあって、エルクは啜り泣く息子の頭を撫でた。その行為で彼は手を顔から離した。
「核のひびを修復させましょう。それには貴方の力も必要です。私に魔力を注いでくれますか?」
エルクは右肩に触れた手はそのままに、もう片方の手でシェラの左手をそっと握った。戸惑いを隠せないでいたシェラだったが、やがて目を閉じて意識を集中した。左手が淡い水色に光り出すと、それはエルクの腕を伝い、胸元を通って右肩へと注がれた。左右で色の違う光がシェラを包む。
シェキルはひたすら見守っていた。自分にできることは今のところ、ない。なので、今後のことを考えていた。
フラメア村跡地で復興の準備をしていたところ、里長エンキが直々にやってきたのには驚いたが、事情を伺うととんでもない事態だと皆で更に驚愕した。翌日……つまり今日だが、状況把握のため里へ行こうとした矢先に、地界にいてでも感じるほどの強い闇の力が皮膚を逆撫でた。嫌な予感がした。低く唸って警戒する相棒ヘルトに乗り、力の震源へと向かったら、あれだった。
あのオッドアイがバルドというとんでもない魔導士であることは確実だろう。ウォレス王に報告せねば。あの力は国一ついとも簡単に滅ぼしかねない。強い魔力を宿すシェラでさえもあの有り様だ、鍛え抜かれた騎士であろうと一瞬で殲滅されそうだ。
「終わりましたよ。もう大丈夫です」
ひとり戦慄を覚えていたところへ、エルクの声が耳に届いて我に返った。ハッとしてふたりを交互に見ると、エルクはシェラから手を離し、口元は笑みを作っていた。シェラはふう、とため息をついて目を開けたところだった。
ありがとうございます、とか細い声でお礼を言うと、身体を起こそうとしたので、シェキルが支えた。身体の厚みが戻り、心の臓も元気を取り戻している。エルクは祭壇から離れ、部屋の扉まで移動していた。
「エルク様に力を使わせてしまったし、父さんにまた助けられちゃった……」
申し訳なさそうに謝る息子に、シェキルは首を横に振った。大人になっても、シェキルから見ればシェラは大事な子。守るのは親の義務だ。ずっとそう思って接してきている。
「あのオッドアイ……僕に敵う相手じゃなかった。あれが相手じゃ僕……ヘイレンを守れない……」
すっかり自信喪失している。これじゃあヘイレンどころか……。
「そんなんじゃフレイも助けられないな。いいのかそれで?」
はっぱをかけたつもりだった。シェラはハッとしながら「ああ」と声を漏らした。しかしすぐに項垂れる。シェキルは荒くため息をついてしまった。
「君が今対峙しなければならない相手は、フレイを攫い、君を脅した奴だろう?バルドのことは今は忘れなさい」
バルド、とシェラは呟いた。シェキルはエルクから聞いたことをざっくりと話した。息子は黙って時折小さく頷きながら聞いていた。
「……とにもかくにも、レイアの麓に里長がいらっしゃる。連れて行くから支度して」
シェキルはそう言って踵を返すと、扉の前にいたエルクと目を合わせた。王はゆっくり頷くと、そっと扉を開けた。シェキルの後ろで祭壇から降りた音がした。ちらと横目で見ると、息子は軽く身体をほぐし、それから腰あたりを弄っていた。「ない」と言いながら青ざめていく。杖を探していたようだ。
「杖ならこちらに。勝手に持っていってしまってすまない。その……少々厄介なことになってたので」
戦地で失ってはいなかったとわかり、安堵のため息をついたのも束の間、扉へと急ぐとエルクから杖を受け取った。杖を見つめ、そのまま唖然とするシェラの手元を覗くと、嵌め込まれていた魔法石が砕けていた。ディアンの核より重傷だった。
「それは……?」
シェキルが静かに問うと、エール、と返ってきた。
「意識が無くなる直前に何か割れる音がしたんだ。核にひびが入っていたからその音だと思ったけど、まさかこっちも……そんな……」
あーあ、と諦めとも取れるような情けない声を出して苦笑いを浮かべて天を仰いだ。しかしすぐに真顔になって、竜の腕が顕になった右手に力を込める。青白く光ると、槍の形へと変化した。かつて竜騎士だった頃に携えていた槍と同じデザインだった。
「召喚士としての力は失われたけど、魔力は戻ってきてる。ディアンも……」
ふと口をつぐむと、シェラはエルクを見上げた。王が軽く首を傾げると、息子は一歩下がってお辞儀をした。
「改めまして……ディアンを……私を助けてくださり、ありがとうございました」
動くと調子が良くなったのか、さっきまで弱音を吐いていたヒトとは思えないほどきびきびとしていた。王は目を細めて微笑むと、頭を上げるよう促した。
「その腕に、封印と解放のまじないをかけて差し上げましょうか」
「まじない……?」
うむ、とエルクはひとつ頷く。
「これまでは魔法石で封印していたのでしょう。うっすらとその力が残っていました。解放は己の血を浸す……そういう類のものでしょう」
的確に当てられて、親子共々口を半開きにし、目を丸くした。王はふふっ、と笑う。
「ディアンに心を通わせ念じた時に、腕は変化し力を発揮する。元の腕に戻すのも念じるだけ。わざわざ血を流す必要はなくなる。その方が今後もきっと貴方の為になるでしょう?」
シェラは瞬きも呼吸も忘れるほど、石像のように佇んでいた。軽く背中を叩いてやると、ひっと息を吸った。ただし、このまじないには貴方自身の力や精神が関わってきます、とエルクは言った。
「貴方がどれほどディアンと対話ができるか、心を通わせられるか。しっかり向き合えなければ、ディアンに心を喰われてしまいます。相応の覚悟が必要ですが、その覚悟を見せていただきたい。貴方に力を貸した借りを返してただく、ということでいかがかな?」
王はニヤッとした。シェラは力を試されようとしている。光の国の王の前で。息子は一瞬視線を落としたが、再び顔を上げた時の、空色の眼は美しく輝いていた。
「私は……ディアンと向き合うことを恐れていました。竜騎士として彼に認められてからも、ずっと。改めて思うと情けない竜騎士でした……」
邪神竜との戦いでディアンと己の右腕を失ったが、奇跡的に核は生き残り、それをラウルが保護し、シェラに宿した。ディアンは今、腕だけの姿ではあるが、彼の中で確かに生きている。
「そこまで恐れていて、それでもなぜ貴方はディアンを己の竜に?」
単純にシェキルもそこは不思議に思っていた。そして、そんなシェラをディアンはなぜ受け入れたのか。
「その……凄い力を見せられた時に、その姿と勇ましさに心を打たれたから……です。あんな風に立ち回れたら、力を発揮できたら……そんな憧れを抱けたからだと……思います」
だからどんなに諦めろと諭されても首を縦に振らず、傷だらけになっても必死に耐え抜いた。その執念にディアンは呆れながら仕方なく(・・・・)受け入れてくれたのだ、とシェラは話した。
「変ですよね、ろくに対話もできないほど怖がってるくせに……」
「ディアンは寛大な心の持ち主だということでしょう。また、彼はきっと、先を見据えて貴方と共に生きることを決意したのではと、私は思いますよ」
エルクの低くて、けれども優しい声が、シェラの抱く恐怖を溶かしていっているのか、ようやくシェラも微笑んだ。
「今こそしっかり向き合える気がします。いや、もういい加減向き合わないといけません。……エルク様、どうかお願いします。私にそのまじないをかけてください」
シェラは決意した。シェキルもエルクも、一呼吸置いて小さく頷いた。




