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第4章-1

 御魂送りの舞は、無事には終わらなかった。


 殆どの御魂は召喚士の導きにより消えていったのだが、例の怨念を秘めた御魂たちは舞を終えた後もしばらくシェラにまとわりついていた。


 絶対に動かないでと言われていたが、はたしてこのまま見守っていていいものかと心がざわついていた。シェラは腰をやや落とし、手は膝を掴んでいる。肩で息をしていて、表情は歪んでいた。


 ついに我慢できず一歩踏み出そうとしたその刹那、シェラが「来るな!」と叫んだ。浮かした足を元の位置にそっと戻した。


「そこから動くな!僕がいいと言うまで!」


 必死に声を張り上げているだろうが、いかんせん声質が細いので通りにくい。それでもヘイレンの耳にはしっかりと届いていた。


 シェラは怨念の御魂たちの声を必死に聞いていた。皆口々にあれはなんだ、これはどうなったのかと訴えてくる。シェラは自分が見たこと聞いたことを一つ一つ答えていった。答えるたびに、怨念の力が弱まってくる。


 そして「世界を救ってくれ」との言葉を受け取る頃には、怨念の力はすっかり衰えていた。これなら無事に霊界へ送れる。シェラは中腰から身体を起こして舞の型をとった。


 杖を掲げ、腕を伸ばし、ゆっくりと舞った。まとわりついていた御魂たちは、シェラの周りを彼に合わせてふわりと飛ぶと、天へ昇りながら一つずつ消えていった。


 全ての御魂を送ると、光は消え、いつもの墓地に戻った。シェラの荒い息遣いが響く。ヘイレンはじっと見守っていた。


 深呼吸を何度か繰り返し、速く打ちつけていた鼓動がようやく落ち着いてきたので、シェラはヘイレンを呼んだ。彼は足元に気をつけながら、けれども飛ぶようにこちらに駆け寄ってきた。


「……御魂は、虐殺されたおとなたちだったよ」

「うん……。いろいろ聞いてたね」


 シェラは一瞬驚いたが、そういえば魂の声が聞こえるんだったと思い出し、こくりと頷いた。


「宿へ戻ろう。これからどうするか考えよう」


 シェラはゆっくりと出口に向かって歩き始めた。軽く目眩がするが、なんとか外に出られそうだった。ヘイレンはそわそわしながら後を追った。神殿を出たら倒れるんじゃないかと気が気でなかった。


 外は夕焼けの色に染まっていた。ああ、とシェラが声を漏らす。どうしたのかとヘイレンが問うと、彼は頭を振った。


「いや、こんなに時間が経ってたんだなと思って。何刻舞っていたんだろう……どうりで身体が重いわけだ」

「歩けそう?アルティア呼んでこようか?」


 ヘイレンの気遣いがとても心に沁みたが、シェラは丁重に断った。ここから宿まではすぐそこだ。しかし、目眩が治らないのでやっぱりアルを呼んでもらおうかと悩みだした時、突風が吹き荒れた。


 咄嗟にシェラの腕を掴むヘイレンだったが、反対の手はポーチの中だった。シェラも杖を持つ手にやや力を込めた瞬間、頭上を何かが通り過ぎて、目の前に落下した。ドォンと鈍い音と共に砂埃が舞い、少しだけ地が揺れた。この揺れでシェラが倒れそうになり、ヘイレンは支えた。そして、何かから避けるように突然横っ飛びした。直後、びたんと音がした。


 シェラはへなへなとその場に崩れたが、視線は先ほどまで自分たちがいた場所を見つめている。そこには大きくて長い、硬そうな尾があった。砂埃が消えると、そこには赤黒い血に染まった飛竜が横たわっていた。


「シーナ!?」


 目の前の光景は現実だと信じたくないほど、彼女の身体は酷く傷ついていた。ヘイレンがシーナの顔に近づくと、彼女はうっすらと目を開けた。広場から半獣の騎士たちがぞろぞろと集まってくると、皆言葉を失った。


 ヘイレンは、そっと彼女の頬に手を当てて目を閉じた。


 「すぐに手当てするから、だから、あなたの背に乗るね。痛いと思うけど、どうか耐えて……」


 シーナはゆっくりと1回瞬きをした。同意の意味だ。ヘイレンには彼女の『声』が聞こえているのだろう。小さく頷くと、慎重に彼女によじ登った。シェラはゆっくり立ち上がり、呆然と見つめていた騎士たちに声を張り上げた。


「王とミスティアをここへ!シーナに影を!屋根をどうにか、作って……!」


 勇ましい声が繰り返し叫んで皆を動かした。慌てふためく部下たちを縫うようにこちらに駆け寄ってきたのはガロだった。たくましい腕でシェラを抱えると、体を捻って己の背に跨らせた。鎧の一部を掴むよう促される。目眩が酷くなりそうだったところで乗せてもらえたのは助かった。


 ガロはよじ登るヘイレンを探していた。手や足を滑らせて落下しないことを祈るしかなかったが、ややあって、シーナが顔を少し上げて低く唸った。見上げると、背にヘイレンの姿があった。無事に登れたことにホッとしたのも束の間、シーナの顔が横に振られてガロにぶつかりそうになった。軽やかに交わしたところが、さすがは半獣騎士の隊長だ。


 飛竜の鼻先がシェラの胸元に近づくと、痛みを訴えるように小さく鳴いた。ガロの背の上で鼻筋から額にかけて優しく撫でると、グッと押しつけてきた。シェラはぎゅっと抱きしめた。


「頑張れ、シーナ」


 そう呟くと、飛竜はふう、と鼻を鳴らした。抱きしめながらちらりとガロを見ると、彼はずっと見上げていた。サラサラと音がする先で、ほんのり白い光が背を照らしていた。






 シーナはその後、駆けつけたミスティアの処置もあって一命を取り留めた。ヘイレンだけではさすがに無謀だと、ひと段落してから彼は軽く怒られてしまっていた。とは言え、彼がいなければシーナは事切れていただろう。それくらい傷は深かった。


 背中の突起物(つの)は砕け、複数箇所深い刺し傷があり、鱗が一部剥がれて赤みを帯びた肉が顔を出していた。シーナを動かすことができないため、騎士総出で飛竜を囲むように小屋が建てられた。これにより神殿への道がすっかり封鎖されてしまったので、傍に小道が作られた。


 エクセレビスに吹く風は、しばらく街に飛竜の血の匂いを運んでいた……。






 一夜明け、シェラはミスティアと宿のロビーにいた。癒しの力を使ったヘイレンは今、部屋でぐっすり眠っている。ふたりは窓の外を眺めながら、一抹の不安を抱いていた。


 フレイはどうしたのだろうか。


 シーナの傷からして、フレイも無傷ではないだろう。しかしどこでこんな目に遭わされたのか。ふたりは同時にため息をついた。


「シーナのこと、都へは連絡がいったみたいだけど、向こうも混乱しているってルーシェが言ってたわ」

「フレイは?」

「今朝シーナに乗って護衛の仕事に出たっきり帰ってきてないそうよ。護衛中か後か、どのタイミングで襲われたのか誰もわからないって。そりゃそうよね、彼女ひとりで行動していたわけだし……」


 ミスティアはこめかみに指を当てて不安そうな表情を浮かべる。由々しき事態であるが、どうすればいいのか頭が回らない。動きたいのに踏み出せない状況に悶々とする。


「ヘイレンの体調次第だけど、護衛先を調べてそこから都までのルートを辿ってみるよ。アルティアに乗って。背中をやられてるから、おそらく空からの襲撃だったんだろう。敵は空にいる可能性がある」

「そうね……。でもあなたは大丈夫なの?熱が引いたとはいえ、ずっと寝込んでいたんだし……」

「御魂送りの儀ができたからもう大丈夫。心配かけてごめん」


 ミスティアは不安の眼差しを送ってくる。シェラは微笑した。目眩が起きていたことを忘れるほどだ、きっと大丈夫。そう心の中で言い聞かせた。


 彼女と別れて部屋に戻ると、ヘイレンが布団から出て窓の向こうを眺めていた。てっきり眠り続けていると思っていたので、「あれっ」と声が漏れ出た。それに反応して、彼はばっと振り返った。


「どこ行ってたの?」


 その声は怒りを抑えている風だった。シェラは戸惑いながらも、ミスティアとロビーにいたと返した。


「シーナをあんな目に遭わせたヤツを許さない」


 さらに殺気立つ様子に危機感を覚えた。異様な空気がふたりを包む。シェラはヘイレンのそばについた。


「僕も同感だ。それに、フレイも探さなきゃ」


 一刻を争う状況だが、焦れば焦るほど周りが見えなくなる。情報が無いに等しい状況で、果たしてどうやって探せばよいものかと考え始めた時。


「行こう、探しに」

「え、ちょっと待って」


 歩きかけたヘイレンの腕を咄嗟に掴む。金色の眼は怒りに震えていた。一瞬怯んだが、シェラもまた鋭い視線を送り返す。


「離して」

「どうしたの、いつものヘイレンじゃない」

「じっとしている場合じゃないでしょ?」

「それはそうだけど、落ち着いて」

「行かないと、フレイが危ないでしょう!?」


 怒りで我を忘れかけているのか。そう思った瞬間、掴んでいた腕が振り払われた。ヘイレンはポーチを手に取り、部屋を出ようとした。


「行くあてはあるのか?」


 ドアに手をかけようとしたヘイレンが固まった。


「心当たりがあるのなら教えて。君だって危険に晒されている身なんだ。だから、ひとりで勝手に行こうとしないで」


 ヘイレンの身体が震え出した。シェラはそっと近づく。怒りと悔しさに囚われた彼は俯いて啜り泣いていた。


「ヘイレン……」


 シェラは彼を抱きしめた。顔の位置がもう胸元に埋もれる場所になく、嗚咽が耳によく届いた。


「ボ……ク……うう……」


 と、ヘイレンはシェラの鎖骨に噛みついた。本気ではないため痛くはなかったが、突然の行為に手が緩んだ。


「ちょっ……いっ」


 刹那、噛む力を強められ、痛みでヘイレンを引き剥がした。服の上だったので血は出ていないが、床にくずおれた青年が次にこちらを見上げた時、その相貌に戦慄した。


 両眼が赤く染まっていた。


 囚われている。闇か、それとも呪いなのか。シェラは構えて数歩下がった。狼の如く唸りながらのろのろと立ち上がると、カッと目を見開いて飛びついてきた。


「エール!」


 シェラは防御の構えを取りながら唱えた。ヘイレンが腕に噛みつく。歯が折れそうなほど強く噛み締めていて、先程とは桁違いに痛かった。ヘイレンの背後に氷狐(ひょうこ)がすうっと現れると、彼の両腕を掴んで羽交締めにした。


「ん!!」


 ヘイレンの口が緩んだ。跪かせ、氷を這わせて固定させた。吠えながらもがくヘイレンに、シェラは右手をかざした。


 水色の光がヘイレンを包み込む。シェラは念じた。


 このものに取り憑く闇よ、去れ!!


 びくんとヘイレンの身体が跳ねた。そのはずみで黒と紫が入り混じった靄が飛び出してシェラに突進してきた。左手をあげて氷を放つと、靄は一瞬にして真っ白になった。しかしすぐに黒く染まる。もぞもぞと何かが這い出てきそうな様子だった。


 シェラが一歩退いて杖を突き出すのと、靄から白い腕が飛び出してくるのとが、ほぼ同時だった。腕は杖が出した冷気を浴びながらも、勢いよくシェラの首を掴むと、壁に叩きつけた。


「ぐぁっ……!」


 反動で杖を落としてしまった。足が地についていない。白い腕を掴もうとするが、するりとすり抜ける。まるで幽霊のそれだ。


「くっ……!」


 シェラは力を込めて両手を前に突き出した。細かな氷の粒が大量に靄にかかる。効いているのか、少しずつ靄が少なくなっていく。が、同時に首がますます圧迫される。


 息ができない……!!


 意識が遠のきかけた時、眩い光が一瞬部屋を包んだ。首元の圧迫が無くなった。シェラは着地するも、力が入らずくずおれ、咳き込んだ。


 再び強い光が部屋を照らす。耳障りな叫び声をあげながら、靄は霧散していった。咳が治まり顔を上げると、ヘイレンがしゃがんでこちらを見ていた。美しい金色の眼に戻っていた。


「シェラ!ケガは……」

「ん、背中打ったけど大丈夫。折れてないから」

「首が……赤いよ!?」


 言われて首に触れたが、出血はしていなかった。絞められた痕が赤くなっているのだろう。しかも、何故か息苦しさを感じていた。


「何か……まだ絞められてる感じがするな」


 そう言うと、ヘイレンはそっと両手でシェラの首を覆った。闇に囚われていたらこのまま締められそうな勢いだが、そんなことはもう無かった。じんわりと温まってくる。すうっと楽になった。


 ヘイレンは何かを捕まえたような格好でゆっくりシェラから離れる。目を閉じて集中すると、手が白い光に包まれた。細い灰色の煙が登っていくと、次第に薄れて消えていった。


「……ふう。これで大丈夫かな」


 シェラは口を半開きにして彼を見つめていた。背が伸びただけじゃない。魔力も心も、全てが成長している。

 初めて会った頃の幼さは、もうない。


「シェラ?大丈夫……?」


 ハッと我に返る。目の前の青年は、少し目を潤ませ、頬を紅潮させていた。熱が出ているのだろうか。シェラは無意識に彼の額に手を当てた。


「な……」


 戸惑うヘイレンに目を細める。熱は無いように感じたが、口元が震えているのは何故なのか。シェラはふっと微笑んだ。


「熱は無いみたいだね。僕もすっかり良くなったよ。ありがとう」

「う、うん……。てか、ボク、何かしてた?気がついたら両腕をエールに掴まれてたんだけど」

「ああ……それは……そう。何かに取り憑かれていたみたい。その正体が僕の首を絞めてきた白い手のやつ。シーナの手当てをしていた時、身体に取り込んでしまったのかな」


 ヘイレンは首を捻った。心当たりが無いようだ。


「あいつ、闇の魔物だったのかな?」

「ヘイレンの力で倒せたみたいだから、たぶんそうじゃないかな。聖なる力が使えるようになったんだね」

「あ、あの光はコレ」


 と、携えていたポーチをあけた。中には彼の杖と竜の腕を封印する魔法石が収められていたが、ひとつ減っているものがあった。


「ラウルがくれた魔法石。最後の1個を使ったの。最初の光はこの石をかざした時、2回目はこの石をエールに壊してもらった時」


 シェラはエールに視線を移した。氷弧は静かに佇んでいて、こくりと小さく頷いた。エールはヘイレンと疎通しシェラの危機を救ってくれたのだった。


「そうか……エールとも話ができたなんて。ヘイレンって相当凄い力を秘めていたんだね」

「ボクが何ものなのかがわかってきてから、無くしていた力が戻ってきたような感覚があるよ。背が伸びたのもきっとそうかも」


 ヘイレンは微笑んだ。シェラも笑みを浮かべた。


 さて、とふたりはゆっくり立ち上がって一呼吸おいた。お互いを見て、お互いに頷く。


「ボク、何があったのかシーナに聞いてみようと思う」

「それが一番の手がかりだもんね。容態が心配だけど、行ってみようか」


 エールが静かにその場から消えたのを確認すると、ふたりは部屋を後にした。






 シェラとヘイレンの気配を感じたのか、眠っていたシーナの目がゆっくり開いた。首を少しあげて鼻を鳴らす。温かい風が前髪をふわつかせた。


 シーナはじっと召喚士を見つめていた。そっと鼻筋を撫でると、鋭かった視線がとろんとした。


「シェラが好きなんだね、うっとりしてる」


 隣でヘイレンが呟いた。少し恥ずかしくなって竜を撫でる自分の手を見つめながら口を開いた。


「シーナ、つらいところ悪いんだけど、何が起こったのか教えてくれないか?」


 飛竜はシェラとヘイレンを交互に見た。そして、目を閉じて低く喉を鳴らした。ややあって、頭の中から澄んだ声が聞こえてきた。


『強いマドウシが、追いかけてきて、上から強い力を落としてきた。避けられなかった。フレイを(さら)っていった。マドウシは、白く光ってた。まるでレイタイみたいだった。フレイを抱えて、キエタ』


 ぐぅ、と小さく鳴いて、シェラに鼻先を押しつける。手当てをしてもらっていた時のように抱きしめた。


「フレイが目的ってことだよね?どうしてまた……」

「わからないな……。消えたってのもイヤな感じだ。どこに瞬間移動していったのかがシーナもわからない。フレイを狙うようなヤツってなんなんだ……」


 沸々と怒りが湧いてくる。ヘイレンも同じ気分のようだった。握り拳が震えている。と、再び声が聞こえてきた。


『ワタシたちは、ホーリアの近くを飛んでいた。ゴエイのシゴトが終わって、モントレアに帰る途中だった』


 天空界最大の国ホーリア。聖なる力を主とする国だ。寒期の頃、厄災に遭って街は瓦礫と化してしまったが、国王イルムや街のヒトビトは逃れて無事だった。王も含めて、国民総出で復興にあたっているそうだ。


「ボクが森で出会ったオッドアイの男と関係していたら嫌だな……」


 ヘイレンはそう不安を口にする。意図してフレイを狙ったのか、たまたま通りかかったのを攫ったのか。いずれにせよ、一刻も早く彼女を探して救わねば。


「シーナ、どこまで護衛したの?」


 ヘイレンの質問に、シーナは目を閉じて記憶を探り始めた。それほどたたずして飛竜は答えた。


『ホーリア。ダーラムにいた、イルムさまのソッキンのゴエイだった』

「ホーリアか。その側近に聞いてみてもいいかもしれないな。イルム様に謁見依頼を送って向かってみるか」


 すっかり『巡礼の旅』から逸脱してしまっているが、この際どうでもいい。ヴァルゴス様に叱られることを覚悟しよう。


「ありがとう、シーナ。ゆっくり休んで。フレイは僕たちが助けるから」


 もう一度ぎゅっと抱きしめると、シーナは甘えた声を出した。ヘイレンもそろそろと近づき、頬に手を当てた。






 グリフォリルたちが集う厩舎を訪れると、アルティアが待ってましたと言わんばかりに佇んでいた。毛艶が眩しいくらいに良く、元気いっぱいだった。


「で、どこ行くんだ?」


 シェラとヘイレンを乗せた幻獣は翼を広げて2、3度羽ばたかせた。


「ホーリアに向かってほしい。イルム様との謁見の許可はもらってるから」

「リョーカイ!てか、モントレアじゃねぇんだな」

「うん。どうして?」


 シェラの疑問に返事をする前に離陸した。エクセレビスに吹く風を捕まえて滑らかに上昇する。各国の主要都市がジオラマの如く小さくなった頃、ようやくアルティアは口を開いた。


「フレイのことを聞くんならそっちかなと思っただけ」


 その考えは自然である。だが、彼女は都に戻る途中だったので、モントレアに行ったところで誰もわからないはずだ。だから、最後にフレイと接触したヒト……イルム様の側近に確認してみよう、と思ったのだ。


 シェラの考えを聞いていたヘイレンが、素朴な質問を投げてきた。


「聞くって何を聞くの……?側近のヒトもフレイと別れてから事件が起きるまでの状況知らないと思うんだけど」


 ごもっともである。それはそうだね、とシェラは頷いた。


「……側近が護衛ってあまり聞かないんだよね。彼らはイルム様の護衛役でもあるわけだし。『護衛を護衛する』ことに引っかかって。何か守られなければならないものを持っていたのか、あるいは自身を守ってもらわなきゃならない事情があったのか。そのあたりを確認したいんだ」

「……シェラはこの事態をどう考えてるの?」


 ヘイレンの声が不安を帯び始める。シェラは思いついている事を話した。


「フレイはヒトジチにされたんじゃないかと思う。はんにんはフレイと関係のあるジンブツを脅すために、彼女を拉致した……とか。あるいは側近とか全然関係なくて、偶然空賊に目をつけられてしまった……とか」

「フレイと関係のあるジンブツって結構いるよな。オレたちだってそーだし」


 地上にいた時の元気をどこに置いてきたのかというほど、アルティアの声も沈んでいる。


「フレイを探すには、彼女が辿った道を調べる。そこで出会った、関わったジンブツに話を聞く。それを地道にやっていくしかない」


 ヘイレンとアルティアにそう言いつつ、自分にも言い聞かせた。そうこうしているうちに、巨大な、しかし荒廃した大陸が雲の合間から現れた。

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