序章
霊体を召喚した直後、近くにヒトがいた。
彼らは驚き、騒ぎ、逃げようとした。
その数5、6程。灼眼の左眼を光らせ、ヒトビトを指差していく。するとどうだろう。彼らはびくんと体を跳ねさせ、バタバタと倒れていった。
屍が転がる中、ぽつんと佇むヒトが恐怖の目でこちらを見ていた。彼もまた目撃者。生かしておくわけにはいかない。だが、触手が動かなかった。そっと手を下ろし、霊体と共に身を翻してその場を後にした。
生きる力を吸い取り続けてどのくらい経つのかもはやわからない。魔物だろうがヒトだろうが何でも良かった。そして、ようやく霊体を召喚する力を覚醒させた。何年越し、いや、何百年越しだろうか。
やっと……娘と肩を並べられた。
次は娘を越えねば。
あの魔物を……この世界に蘇らせるために。
そのためにはもっと力が必要だ。時が経ち過ぎてしまい、皆亡者となってしまった(ひとりは不慮の事故か何かで命を落とした)が、霊体として蘇れば永久に死なないはずだ。彼らと共に、あの魔物をここに再臨させるのだ。
そして、この世界を……壊す。全て無かったものにし、構築し直すのだ。この世界は闇の一族にとって迫害もいいところだ。生きる場所が限られている。もっと自由に、羽を伸ばせる居場所が欲しい。
今や絶対王者となっている聖なる国……あの傲慢な国をまずは。次こそは……確実に攻落してみせよう。
ひとり召喚できたのは元神官の女性。彼女には我らの傷を癒す役目を担ってもらおう。
あとふたり。剛腕であらゆる武器を使いこなす騎士と、火や光の魔法が得意な魔導士。闇の魔導士は聖なる力に不向きだ。火は焼き尽くす。光は鋭く放てば物を貫き、広く強く照らせば溶かしたり枯らしたり出来る。闇の一族は光の力との相性も悪いのだが、まだ耐えられる。……この際克服してしまおうか。
各地を巡り、あらゆるモノから力を喰らう。途方もない、けれども希望に満ちた旅を始めよう。
この理想郷を現実のものに。